2. 朝チュン


 頭が痛い。

 ピピピと鳴る枕元のアラームがうるさい。


 カーテンの隙間すきまから太陽の光が差し込んでいる。

 ハンマーで叩かれているような頭痛だった。ベッドの周りには、大量の酒の缶が転がっていた。どう考えても飲み過ぎている。


 隣を見ると、ミイがすうすうと寝息を立てていた。


「やっぱり、いる」


 夢じゃなかった。


 俺も彼女も裸だった。

 自分が何をしたかは覚えている。彼女のあえぎ声も、はっきり覚えている。


 シーツに血のあとが付いている。全部現実だった。


 横を向いて寝る彼女の、浮き上がった背骨が毛布の隙間から見えている。


「ミイ。生きてるか」


 身体を揺らすと、ミイは「うーん」と声を漏らした。


「あたまいたい」


 そう言うと、モゾモゾと身体を動かして、彼女は布団を被った。


「気持ち悪い」


「のみ過ぎだよ」


「あったから」


 冷蔵庫にあったアルコール類が全部空になっている。ビールもワインも根こそぎ無くなっていた。


「飲み過ぎとか、サキ兄に言われたくない」


 毛布にくるまったまま、ボソリとミイが言った。


「それは、ごもっとも」


 痛む頭を抑える。


 酔わないと、やっていられなかった。


 まさかミイとこんな関係になるとは思ってもいなかった。一度ヤッてからは、酒を飲みながら、やけくそ気味に何度も交わった。


 避妊はちゃんとしただろうか。記憶がない。

 床に落ちていたコンドームの箱を振ってみると、空っぽだった。


「大丈夫だよ。最近ピル飲んでるから」


 横になりながら、気だるそうに言った。


 何を気を使われているんだか。

 歯を磨いてシャツに着替える。カバンを持って出ようとすると、ミイが俺に言った。


「どっか行くの」


「バイト」


「ねぇ泊めてくれるんだよね」


 振り向くと、ミイは起き上がっていた。裸の身体を毛布で隠していた。酒の抜け切っていないどろりとした瞳がこっちを見ている。


「考えておく」


「ありがと」


「缶のゴミ、まとめといてくれると助かる」


「分かった。きれいにしておく」


 そう言うと、彼女は頭から毛布をかぶって横になった。


「行ってらっしゃい」


 その声に送り出されて、家を出る。


 見上げると、雲ひとつない青空が広がっていた。腹が立つくらいの良い天気だった。

 

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