first no title

坂木啞ルカ

本文

 その花なんて咲くもんか。いや、咲かせてたまるものか。

私はその手に持っていた花束を歩道の端に投げ捨てた。

どうしてその手に持っていたものを投げ捨てたのか。それはただただ衝動的な行動によるもので自分でもどうしてしたのかあんまり理解できていなかったけれど。

なんか、最近のストレスが爆発してしまったというか。人の人と私の関係があんまり好きじゃなくて。


昔から人と話すことはあんまり好きではなかった。

しかしうわべでは大してそのように感じさせないように振舞っていた。


ありのままの自分を見せても良かったのだけれど。話のできない人を演じる、いやそういう私の一面を見せることを私の中の私が拒んだ。

だから私は今の今まで、関係に苦労していない一般人として生活してきた。

しかし、人というもの、表面に出しているものが全てという人はほとんどいない。

私も例外ではないから。


死ぬほど嫌いな人だっていたし、殺したくなるほど憎い人もいた。

だけど彼らの前ではそうでもない風に、なんでもない一般人をずうっと演じてきた。

我慢することで苦労して、そして得もしていないのは私なのに。

彼らに注意すればそれで終わりなのに。どうして私だけ苦労しなくてはいけないのだ。

それを本当にずっとずっと考えてきた。しかし彼らにいうことはできなかった。

それほど憎んで、そして存在を消してしまいたいと思っている人に対しても情をかけれてしまう自分にかなり驚いてしまった。

どうしてどうしてどうして。

そうじゃないじゃん。


 そしてまた、彼らからもらい、無残にも歩道の隅に転がっている花束を再びみる。

別に何かの記念があったわけでもない。なのにも関わらず彼らは花束を手渡してきたのだ。

彼らなりに何かを伝えたかったのだろうか。しかし目的語である私にはどの感情も伝えることはできなかったようだ。

残念である。いや、私としてはこんなものを渡される以前に、彼らと会うこと自体が死と天秤にかけても等しくなるくらいには嫌だった。死にたくはない、それに彼らにも会いたくない。

しかしまた、断ることはできなかった。

私の判断能力はもうすでに鈍ってきているのだろうか。それとも危機管理能力がどうかしてきてしまったのだろうか。


 その花束には手紙が添えてあった。

私は投げ捨てたそれに再び近寄り、その紙切れを手に取った。

薄暗い歩道ではそれを読むことができなかった。

光を求めて、私はどの車も通行していない深夜の道路の中央へと歩みを進めた。

こうして酔っ払いが罪のない一般ドライバーによって殺害されていってしまうのか。

アルコールで相当に判断能力が低下している私は、ポケットから携帯を取り出し、ライト機能を使うということすら考えつくことができなかったようだ。これは相当ひどい状態だ。

そして一番恐ろしいのはこの状況をこうして冷静に判断できている私と、それにも関わらず奇行をやめない私がこの体に同居しているということだ。


 道の中央は街灯と信号機でだいぶ明るく感じられた。

どんな車も走行せずに、私が中央で束立ち尽くしているのに誰も制止してくれる人はいないし、そして咎める人すらいない。


 手に握ったその紙切れを開く。

蛇が這うようなその時を読むのはここ数年で何回目だろうか。数え切れないほど経験してきたが、最後の最後まで解読できた試しがない。今もそうだ。

十分にアルコールの入ったその頭でひらがなと複雑な図形の集合体;感じのような物体を解読するのは不可能だった。

結局私は彼らからのメッセージを最後まで受け取ることはできなかった。受け取りたくなかったから当然である。

そして最後ということは、私の人生をここで終了にするのかそれとも彼らの人生をここで終了されるかの二択くらいであろう。

もっと選択肢があるのかもしれないが今の私にはその二択で精一杯だった。


 確かに私は彼らのことをとても嫌っている。だが彼らから私の方はどうだろうか。そうでもないのではないか。

私が一方的に嫌っているだけであって、実はそうでもないとか。一番嫌いなそれだ。

何が嫌いなのか。



そんなことはどうでもいいのだ。

路上に不法投棄をしてまでも、彼らからのプレゼントを捨てるのには私の深い決別への意識がある。

私は彼らが嫌いなのである。

ただそれだけだ。しかしそれだけのことを伝えるのに数年も奥手になり、未だ伝えることはできずにいた。

私としては彼らは、「どうしても我慢できない、どうしても一緒にいることのできない人種」に分類されると思う。

今まで彼ら以外にそこに分類された人はそうそういないが、しかしいないことはない。

とても人と話すことが苦手な私と、交流してくれたことはとても嬉しいことであり、また私を新たなところへと連れていってくれた気がするが、しかしそれよりも私からじょ彼らに対する一方的な嫌悪が優ってしまった。

どうにも身勝手なことである。しかしこれが現実というもの、というのか。どう言えばいいのか。言語化が難しい。

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