最終話 ―晴天―

自宅に帰ると、アルドの祖父と妹はソワソワとしている。


「おお!アルド!

武闘会はどうなったんじゃ?」


「お兄ちゃん!ゴブちゃんはどうだったの?」


「ああ……それが――」


永かった一日を、ぽつぽつと話し始めるアルド。




一回戦目を順調に勝ち進んだこと。


―「自分でも、びっくりゴブ!あんな力が出るなんて!

これも師匠と師匠の師匠 のふたりのおかげゴブ!」


―「ハハハ、まだ次があるだろ、油断するなよ!」




二回戦目に優勝候補と闘ったこと。


―「もう、忘れないゴブ……!

でやあああああ!!!」


―「な、ナニ!?

ぐはああぁぁ……!」




決勝戦で瀕死になりながらも勝ったこと。


―「ハァハァ……おまえ、しぶといナ!」


―「当然ゴブ!おまえの攻撃よりも、師匠の師匠のほうがずっと強かったゴブ!」


―「だが、これで最後ダ!」


―「「でやああああーーー!!!」」

―「た、立ち上がった!立ち上がりました!」


―「立ったのは!ひがし!!ひがしの選手です!!!」


―「「うおぉおおーーーーー!!!!!!」」


―「おおおおお!」


―「ッハァ……ハァ…修行のほうが……

もっと辛かったゴブ……!」



――そして、決死の思いで姫を守り抜いたこと。


―「ゴブティメット!!!」


―「な、なに!?

グッ……グアァアアアア…………」

―「プリンセスがいけないんだぁああああ!!!」


―「ゴブッ……」


―「クッ、邪魔を……するナァ!」


―「オマエは! ハァ…ハァ……

ぜったいに、許さないゴブ!!!!!」


―「ギャアァァ……」


―「さ、さすがに、もう立てない……ゴブ」


―「大丈夫か!」


―「……ごめんゴブ、オイラ せっかく婚約者フィアンセになれたのに。」


―「師匠……ありがとうゴブ。」


―「おい、もう喋るな!」


―「師匠…師匠の師匠にも、伝えてほしいゴブ――

ありがとうって」




「えー、暗い雰囲気ではありますが……表彰式をとりおこないます。」


続々と出てきたゴブリンは、優勝者を称える。


「みごと、ゴブリン オブ ゴブリンの名を手にしたのはこちらの方です!

プリンセスとの婚約、そして名前を手に入れられます!

プリンセス、お名前を――」


「名前は……―――」


古戦場跡に、拍手が響く。

涙を流すゴブリンもいる。


「ウオオオ!おまえハ、まさにゴブリンの中のゴブリン ダ!」


「プリンセス 残して、ツミなやつダ!……うっうっ」


「安らかに眠ってるナ……。」


「ゴブリン オブ ゴブリン……ッチ、勝ち逃げされたゼ。」


中には拳を交えた者もいる。

一体のゴブリンが、おもむろに話し出す。



「チョット待てヨ……?」


「ン?どうシタ?」


「とんでもナイ事に気付いテしまっタ……。」


「ダカラ、どうシタと言うんダ。」


「フィアンセが死んでしまっタという事ハ、ツマリ……」


「……!ソ、ソレハ ツマリ!!!」


「プリンセスは、もう一度フィアンセを決めるための大会を開クかもしれナイのでハ?」


「「オオ!」」


「次は出てみようカナ!」


「ハハハ、オマエじゃ予選落ちも良いところダ。」


「ナンダト!まずハ オマエから相手にしてヤル!」


「ヨシ!今から第二回・ゴブ一武闘会ダ!」


「「「ウォオ!!」」」


「次ハ、優勝を目指すゾ!」


「おい!余りにも無神経過ぎるんじゃないのか!

見ろ!姫はまだ泣いてるんだぞ!」


「シクシク……。」


腹に据えかねたアルドが、大声を張り上げる。


「ウッ……」


「シュン……」



次々に意気消沈していくゴブリン達。

追い打ちをかけるように、2体のゴブリンが言い放つ。


「その程度の覚悟でハ、ゴブリン オブ ゴブリンなど、夢のマタ夢……」


「フン……第二回でも第三回でも好きにすれバ良い

この闘いのリベンジができナイなら、出る価値もナイ。」



「それでは、みなさんで送りましょう。」


ハイジに促され、盛大に拍手が鳴る。

しかし、この状況を飲み込めない者がいる。




「うーん、わかりません。」


「「……え?」」


「なぜそんなにも悲しそうにしているんですか?」


「「…………え!?」」


一同は、目が点になる。


「わ、わかりません以外話せるのか!?」


度肝を抜かれたアルドは、開会式を思い返していた。


―「解説はぼく、プラジがお送りいたします」


「あ!そういえば、ちゃんと自己紹介してたな!」


正気を戻したゴブリン達も、たちまちどよめきだす。


「わからないって、いったい何がダ?」


「いきなり、何を言い出すんダ。」


「悲しくて当然ダ。」


「うーん、ちょっと静かにしてほしいゴブ……むにゃむにゃ。」


「あっ、すいません。

みんな静かにしロ!ゴブリン オブ ゴブリンが寝てるんだゾ!」


「そうダそうダ!」


「おい!その声がうるさいゾ!」


「おまえもナ!

(もっと小さい声で話すゾ!)」


「(というか、だれが寝てるっテ?)」


「「…………。」」


「うーん……プリンセス…デヘヘ。」


寝返りをうつ。




「「……ええええええええええ!?!?!?」」


「な、なんということでしょうか!あの激闘を経て、まだ生きております!

信じられません!!!」


「なん…ダト!?これがゴブリン オブ ゴブリンだというのカ!」


「ック……こんなにも強いのカ!」


すぐさま駆け寄る姫。

わらわらと後に続くゴブリン達。

拳を交えた二者は青ざめて立ったままでいる。


「プラジさんは気づいていたんですか!?」


「いやぁ、わかりません。」


「ゴビーン!

そうだったんですね……。」


「なんでハイジには毎回伝わるんだ。

そ、そんなことよりアイツ大丈夫なのか?」


我に返ったアルド。

しかしもう既に、弟子ゴブリンはゴブリン波に飲み込まれてしまっている。


「胴上げダ!」


「「わーっしょい!!!わーっしょい!!!」」


「わあああ!?な、なにゴブか!?この世の終わりゴブ!?」


――古戦場跡の重苦しい空気は一転してみんなの笑みに包まれた。





「っていうわけで、無事に優勝できたんだ。」


「良かったあ~!話を聞いてただけなのに、ハラハラドキドキしちゃった!」


「ハハハ!

フィーネに貰ったサンドウィッチ、忘れないってさ!

それにアイツ、じいちゃんのおかげで勝てた ありがとうって言ってたよ。」


「ほっほ。そうかそうか、良かったのう。

しかし優勝できたのは、紛れもなく自分の力じゃ。」


「ああ!

それに、まさかゴブリンにあの技が……」


青い大砲―ゴブティメット―を思い返す。


「うむ……驚いたのう

それはそうと、アルド。」


「うん?」


「お主はまだまだ修行が足らんようじゃの。」


「……え?そ、そうかな?」


「これから修行じゃ。」


「いやいや!いいよ、じいちゃんの体に障るし」


「遠慮するでない!

燃えてきたぞい!ふぉおおおおおおおお!!!!!」



「か、勘弁してくれぇえーーー!!!」


勢い良く家を出ていくアルド、追いかける祖父、見送るフィーネ。


「おじいちゃん!あんまり無茶しないでね~!」



しばらく後、村に広がる青空にアルドの叫び声が響き渡る。


「うわあああああああーーー!!!!!」



今日もバルオキーに広がる空は、青い。



―――Fin.

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ゴブ一武闘会 ロック @Rock_AE

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