ゴブ一武闘会

ロック

第1話―どうしても勝ちたいゴブ―

家に帰ると、この村―緑の村バルオキー―の村長でもあるアルドの祖父が、一層深いシワを顔に浮かばせている。

緑を基調とした衣装に身をくるみ、如何にも村長らしく白い髭を生やしている。


「むう……アルドよ。」


「じいちゃん、そんな険しい顔して どうしたんだ?」


「この頃、ヌアル平原の様子がおかしいのじゃ。」


「おかしいって?」


「警備隊からの報告じゃが、何やらゴブリンに活気が漲っているというのじゃ。」


ヌアル平原にはゴブリンと森の番人しかいない。

ゴブリンは比較的に弱い魔物だが、群れを成せば脅威となる。



大剣を腰に佩いた黒髪の青年―アルドーは腕を組み、真剣な表情で続きを聞く。


「警備隊は原因を調べる為、今 王都へ向かっておるのじゃが……。

どうにも胸騒ぎが収まらなくてのう……。」


「じいちゃんの胸騒ぎは当たるからなぁ。」


「何というか、血沸き肉躍るような……。

若い頃を思い出すような……そんな胸騒ぎなのじゃ。」


「お兄ちゃん、私も胸騒ぎがするの!」


レンガ造りの台所に立つ、白い花の髪飾りを付けた銀髪セミロングの乙女―フィーネ―が話に加わる。


「でも私は 何だか、胸の奥が炎のように熱いのに、甘いお菓子を食べた時のようなふわふわとするような……そんな胸騒ぎだわ!」


「二人とも、何を言ってるんだ……?」


「とにかく、きっと何かが起きてるんだわ!

だって おじいちゃんも私も胸騒ぎがするなんて変よ!」


「確かに、それはそうだな……。

ちょっとヌアル平原まで行って、俺が見て来るよ!」


「手間取らせて、すまんのう。」


「ハハハ、良いって良いって、じゃあちょっと行ってくるよ。」


「お願いね、お兄ちゃん!」


喜んで請け負ったアルドは家を出て、西に向かう。



村を出てすぐのところに、ヌアル平原は広がっている。


所々地面が隆起していて、色々な種類の草花が足元に茂っている。

見通しの効く平地を心地よい風が流れ、頬を撫でていった。


シャクレサワラのよく釣れるアベトスの水風呂を曲がった先、大きな湖の向こうに小さくミグランス城が映る。


「ここからの眺めは最高だなぁ。」


月影の森の方で3体のゴブリンが棍棒を掲げている。


「ニンゲンだ。」


「ヤッチマエヤッチマエ。」


「イクゾ!」


伸びをしながら広大な大地を眺めていたところ、突然3体のゴブリンが襲いかかってくる。

土のような黄色い肌に、子供のような背丈に似合わず悪魔のような邪悪な顔をしている。

真っ赤なふんどしを靡かせ、棍棒を手に向かってくる。


「うーん、ゴブリンの様子かぁ……

って、うわ!?」


突然の攻撃を間一髪でかわし、腰のものとは違う剣を抜き、反撃する。


「はぁ!」


一撃でやられたゴブリン達は、悲鳴もなく消え去った。


「いきなり襲い掛かってくるのはいつもと変わらないな……。」


「す、すばらしいゴブ……。」


「ん?なんだ?」


アルドが振り返ると、遠巻きに見ていた1体のゴブリンと目が合う。

――ゴブリンは尊敬の眼差しで見ていた。


「まだいたのか…!」


まだ鞘に収めていない剣を手に、斬りかかろうとしたその時――


「わああ、待つゴブ待つゴブ!待ってくれゴブ!」


「!!!……な、なんだ?」


振りかぶった剣を既のところで下ろす。


「話を聞いてほしいゴブ!

オイラ、コブ一武闘会で勝ちたいゴブ!」


――アルドはゴブリンの話を聞くことにした。


「ゴブ一武闘会?」


「ゴブリンの中のゴブリン、ゴブリン オブ ゴブリンを決める大会なんだゴブ!」


剣を収め、続きを聞く。

腕組みをし、アルドはゴブリンの言っている事について考え込む。


「(じいちゃんの言ってたことって、もしかしてこれが関係してるのか?)」


「オイラはどうしてもその大会で ゆうしょう したいんだゴブ!」


「その大会で優勝すると、何かあるのか?」


「プリンセスとケッコンできるゴブ!」


「ケッコン!?……ゴブリンに結婚なんてあるのか…?」


驚き仰け反るアルドをよそに、ゴブリンは熱く語り始める。


「プリンセスは、強いゴブリンがお好みなんだゴブ!

ゴブ一武闘会は プリンセスがケッコンする相手を選ぶために 開いた大会ゴブ

ひと目見たとき、プリンセスの うつくしさに惚れたオイラは、なんとしても勝って

プリンセスとケッコンするゴブ!」


ゴブリンの熱い想いに、真剣に聞き入るアルド。


「一目惚れか……。」


「予選は勝ちぬいたけど、本戦で ゆうしょう できるか、不安でいっぱいゴブ……。

さっきのゴブリン達をやっつけたアナタは 相当つよいとお見受けするゴブ。

どうかオイラを弟子にして欲しいゴブ!」


「ええ!?俺がゴブリンの師匠に…!?」


アルドはまたしても腰を抜かしそうになる。


「お願いゴブ!どうしても勝ちたいゴブ!」


「(嘘をついているような感じもないし、むしろとてつもなく熱い想いを感じる……。)

でも俺、弟子とかとった事ないし、教えるって言ってもなぁ。」


「そこをなんとかゴブ!」


腕を組み、少し唸った後、アルドは思いつく。


「俺のじいちゃんに相談してみよう!」


「師匠のおじいちゃんゴブか?」


「いや、俺はおまえの師匠じゃないんだけど、まあそれは置いといて……

俺のじいちゃんも昔冒険してたみたいで、たまに戦い方を教えてもらってるんだ。」


「ということは、師匠の師匠ゴブか!」


「う、うーん…… まあそれでいいよ。」


――観念したアルドはゴブリンの師匠であることを暗に認めた。


「そうと決まれば、早速お願いしに行くゴブ!」


「よし、こっちだ!」


アルドは家に向かう為、村に帰る。

ゴブリンを連れて。

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