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「なんで俺がソファで寝なくちゃいけないんだ!」
やっぱりこうなった。
夜になってシャーロットは試しにアレックスに「ソファで寝ろ」と言ってみた。なぜならシャーロットの部屋にはベッドが一つしかないからである。もちろんシャーロットはアレックスと一緒に寝たくない。結婚前に同じベッドで眠るなど言語道断だ。
「じゃあどこで寝るのよ」
「ベッドがあるじゃないか」
「あれはわたしのベッドで殿下のじゃないわよ!」
「じゃあ俺にどこで寝ろっていうんだ!」
「だからソファがあるでしょ! こんなに大きいんだから別にいいじゃないの!」
「い・や・だ!」
「あんた匿われている立場でなんでそんなに偉そうなのよ!」
「偉いに決まってるだろ! ここは俺の家だぞ!」
確かに「城」はアレックスの「家」だろうが、だからと言って何もかもが許されるわけでもない。
「何が不満だ! 別に取って食うって言ってるわけじゃないだろ! 十分な広さがあるんだから俺が隣で寝て何が悪い!」
「悪いわ、このバカ王子!」
シャーロットとアレックスが睨みあうそばで、ヨハナがこめかみを押さえてため息だ。
ヨハナはシャーロットがアレックスの婚約者になってから、シャーロット付きの侍女になったが、かれこれ半年近く、この二人はこんな様子だ。喧嘩するほど仲がいいとは言うが、ぽんぽん飛び交う言葉の応酬に、ヨハナはさてどうしたものかと考える。こうなってはなかなか収集がつかないのだ。
ヨハナとしても王子であるアレックスをソファで寝させるわけにもいかないので、ここはシャーロットに折れてもらうしかないだろう。彼女の気持ちもわからないではないが、婚約しているのだから同じベッドで眠るくらいは我慢してもらいたい。たぶん、アレックスは嫌がる女性を襲うような性格ではないだろうし。
ヨハナはシャーロットが不機嫌になるのを覚悟で仲裁に入ろうとした。だが――
「お前みたいなつるペタを誰が襲うか!」
「……あ」
止めに入る前に飛び出したアレックスの爆弾発言に、ヨハナの表情が凍りつく。
シャーロットがぷるぷると震え出したのを見て、アレックスは自分の失言に気がついたようだが、もう遅い。
ヨハナはそーっと壁際に後ずさった。こういう時はたいてい――
「あんたなんかとは、婚約解消よ――ー!」
シャーロットはベッドの上の枕をつかむと、容赦なくそれでアレックスの頭をぶん殴った。
「殿下……、謝られたほうが」
枕で殴られた後に、さんざんクッションを投げつけられたアレックスは、ヨハナの控えめな助言を無視してつーんとそっぽを向いた。
あのあと怒り狂ったシャーロットはアレックスを部屋に残して外へ出て行ってしまったのだ。
「どうせそのうち戻ってくるだろ」
「それはそうかもしれませんが。もう夜ですし……」
「ふんっ、夜にふらふら出歩いていれば女官長に見つかって怒られるだけだ。ざまあみろ」
「またそんなことを」
この二人はどうしていつもこうなのだろうかとヨハナは頭を抱えたくなる。
シャーロットもアレックスも、普段は仲が悪いわけではないのだ。それなのに一度喧嘩をするとお互いなかなか折れようとしないのである。
「俺はもう寝る!」
「わかりました。おやすみなさいませ」
アレックスの言う通り、シャーロットもそのうち戻ってくるだろう。シャーロットが戻ってきたときに少しでも安心するようにと考えているのか、アレックスがせっせとベッドの上を枕やクッションで二つに区切っているのを見て苦笑する。
ベッドの真ん中に枕とクッションの防波堤を築きながら、アレックスはぶつぶつと言った。
「いったい何が不満なんだ。あんなに嫌がられたら、さすがに傷つくだろ……」
ヨハナはそんなアレックスのつぶやきを、聞こえなかったことにして、静かに部屋から出て行った。
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