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こうして半ば強引にアレックスに押しかけられたシャーロットは、次々に運び込まれてくるアレックスの荷物に渋面を作った。
筋トレ馬鹿のアレックスは、次々に筋トレ道具を運び込んでくれたのだ。
(……わたしの本の城が……)
天井から吊り下げられた懸垂用の棒を見上げて、シャーロットは泣きたくなった。
シャーロットの大切な本棚は死守したが、こんなに筋トレ道具に占領されては、シャーロットの穏やかな読書時間が台無しだ。
暖炉のそばにおいていた揺り椅子も、アレックスが腹筋をするスペースのためによけられてしまった。
(……むかつく)
シャーロットは木の棒を女官長に奪われたことをつくづく恨めしく思った。うっかり木の棒でアレックスをぶん殴ったところを見られてしまって、女官長に怒髪天を衝く勢いで怒られたのだ。アレックスを殴る許可は得ていると言い返すと、「あなたは将来王妃になるのですよ! なんて品のない!」とさらに怒られた。武器を取り上げられて不貞腐れるシャーロットを見てアレックスが大爆笑したからさらにむかついたが、さすがに重たいダンベルを投げつけると危険極まりないので、シャーロットはじっとりと睨みつけるだけで我慢しているのである。
すっかりアレックスの筋トレスペースの出来上がった部屋で、彼は嬉々として薄いシャツ一枚になると日課の腕立て伏せをしはじめて、シャーロットは小さく舌打ちした。
(これも全部陛下のせいよ……!)
アレックスに閨の教師を送り込んだからこんなことになるのだ。何とかしてその教師とやらにあきらめてもらわないことには、シャーロットの至福の読書時間は戻ってこない。
「ねえ、ヨハナ。殿下の閨の教師ってどんな方か知ってる?」
「ええっと……、確かカミラ夫人ですわ。ロドリー男爵の未亡人で、お年は確か三十一だったかと」
さすが情報通の城の侍女。シャーロットはメモを取り出すと、カミラ夫人の名前と年齢を書き記した。
「それで、どんな方なの?」
「ブルネットの髪の小柄な女性ですわ。ただ、その……」
ヨハナがじっとシャーロットの胸元を見る。何が言いたいのか悟ったシャーロットは、すぐさまかぶせた。
「みなまで言わなくていいわ」
シャーロットはメモに「胸が大きいらしい」と書き記して続けた。
「で、ほかには?」
「ほか、ですか……。そうですね。これは噂ですけど、何でも男爵と結婚なさる前は娼館で働いていらっしゃったとか……。あ、出どころの不確かな噂ですからね!」
「ふぅん」
(娼館か……)
シャーロットはメモをしながら、手ごわそうな女性だなと思った。ベッドに引きずり込まれればアレックスは一巻の終わりだ。絶対に屈するに違いない。
「あのぅ、シャーロット様」
「なに?」
「カミラ夫人のことを調べてどうなさるおつもりなんですか……?」
「え? 決まってるじゃないの。敵情調査よ」
「敵情調査……」
「そうよ! なんとかカミラ夫人にあきらめてもらわないと、いつまでも殿下がわたしの部屋に居座るじゃないの!」
「えっ、そっちですか!?」
「ほかに何かある?」
シャーロットが首をひねると、ヨハナは額を押さえた。
「ありますよ。殿下の貞操の危機ですよ? 婚約者として、殿下が寝取られてもいいんですか?」
「寝取られ……。カミラ夫人は教師でしょ?」
「甘いですよ! 陛下の第二妃はもともと陛下の閨の教師だった方ですよ!」
「そうなの!?」
シャーロットは驚きのあまりメモを取り落としそうになった。
シャーロットとヨハナは暖炉の前で腕立て伏せに夢中になっているアレックスを盗み見て、そろってうーんと唸る。
「……まずいと思う?」
「……殿下だって男性ですから」
ヨハナがうんうんと頷くから、シャーロットは途端に不安になってきた。
「どうしたらあきらめてくれるかしら?」
「……#賄賂__わいろ__#?」
「賄賂はまずいでしょ」
「じゃあ、……正妻の意地ってものを見せるしか」
「まだ結婚してないけどね」
「とにかく、一度当たって砕けてみてはいかがでしょう?」
「……砕けることは前提なのね」
頼りないヨハナのアドバイスに、シャーロットははあ、と大きなため息をついた。
「あとさ、ヨハナ。もう一つ不安があるんだけど」
「はい。なんでしょう」
シャーロットはメモをおさめると、一つしかないベッドを振り返った。
「殿下ってどこで寝るの?」
「………」
ヨハナはつい、と視線をそらした。
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