彗塵にたゆとう鬼灯をさらうは三日月/アレロパシーのささやきこえ
藤泉都理
風の不協和音篇
あいの風
かつて、三つの島があった。
一つは、妖精が住む島であった。
一つは、烏天狗が住む島であった。
一つは、人間が住む島であった。
それぞれが、それぞれだけで完結した生活を送っており、交流などころか面識も一切合切なかった。
この三つの島が衝突し、一つの島となるまでは。
新たな島の誕生は、星の胎動か、それとも、別の要因の仕業か。
偶然か、はたまた必然か。
当時のものたちにとっては、原因になど考え及ばない事態。
互いが互いに、異形のものたちを排除せんとするのは、削られた土地を己のものにせんとするのは、道理。
すべては己の身を守る為に。
かくして始まった戦。
どれだけ時が過ぎても、どれだけ疲弊しても、どれだけ死を出しても、停戦、終戦を口に出すものはいない。
これ以上の悲劇があると考えているから。
心中では誰か終わらせてくれ、平和な世を返してくれと、表立っては異形のものは出ていけと叫びながらも、続く戦。
見えぬ終わりは唐突に訪れた。
一体の九尾の妖狐が結界を張ったのだ。
妖精が、烏天狗が、人間が。
均等な土地の配分を以て、それぞれが干渉できないように強固な結界を。
己たちしか映らぬ天まで届く鏡の前に、終わったと、静かな涙を流したのは、種族など関係なく、みな一緒。
九尾の妖狐を崇めたのも、みな同じく。
結界がなくなってしまうかもしれない未来や不安など頭の片隅に追いやって、ただただ、平和な世を取り戻さんと奔走する。
みな等しく。
隣り合う存在は恐怖の塊。しかし、もう恐れる必要はなく、悲劇でさえ忘れ去ってしまってもよい。
平和の象徴たる九尾の妖狐が我らを守ってくださるから。
点在する三つの島。三つの島の衝突による新たな島の誕生。戦争。九尾の妖狐の出現。刻は流れる。
これは結界の誕生による平和な時代の再来から百五十年経ったあとのおはなしの始まり。
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