敵襲と警戒【2】
「A
「ご苦労」
何分か
傷からの出血は止まってない。治療係の人が頭にガーゼあてて包帯も巻いたんだけど、なんだか派手に血がにじんでいる。ずいぶん簡単な手当てしかしてないけど、それで間に合うのかなあ。
「それで中山、経過は」
まだあまり気分の良くなさそうな雅之氏だけど、声はもうしっかりしてる。
「ケーゲル値に若干の変動を認めますが、許容範囲内です」
「観測は続行してくれ。第一級警備体制は解除し第二級体勢に移行だ。それと、午後の作業を再開させろ」
「観測続行、第一級警備体制解除し第二級体勢に移行、特異点特定作業再開、以上了解しました」
ぱっと敬礼してから、中山さんは戻っていった。
雅之氏は、中山さんが持ってきた紙を眺めている。
「茜、おちついたか」
紙から目を離さないままで、雅之氏が聞いた。
「どしたの」
「手が足りないんで、手伝ってくれ」
「兄貴、ほんとに大丈夫?」
「心配するな、何かあっても
……なんか微妙にずれてます、雅之氏。
「午前中の続き、できるか?」
「……兄貴、頭、本当に大丈夫?」
「ん、大丈夫じゃなくても私自身では判らないから、大丈夫だ。異常は認識しなけりゃ異常じゃない」
……本格的にずれてます。
「それ、大丈夫って言わない」
「細かい事は気にするな。というわけで悪いけど、行って来てくれないか」
「……べつに、いいけど」
茜はすっごい微妙な顔してたけど、無理も無いよね、これ。
「じゃあ頼んだ。ああそうだ、出かける前に顔と手は洗って行くんだぞ」
天然ボケなんだとは思うけど、頭の怪我は怖いって言うよねえ。大丈夫なのかな。
なんか微妙な気分のまま、あたしたちは午後の予定を消化することになった。
途中でいきなり大き目のピボットが一瞬出来たり消えたりしたけど、それ以外はたいしたこともないまま、午後の時間は過ぎた。
四時には戻ってくるように言われていたから、途中で切り上げて戻ったけど。
……成果はたったの12個。あたしらってやっぱり、才能無いかもしれない。
とりあえず書き込んだ地図を渡しに行くと、雅之氏と中山さんはテーブルの上に地図を広げて、なにか検討している最中だった。
ついでに、横田さんも来ている。
邪魔したら悪いと思ってしばらく待ってたけど、全然終わりそうに無い。
困ってたら、雅之氏の班にいる大森さんと言う人が、二人に声をかけてくれた。
「ああ、悪かったね。どうだった?」
雅之氏が
ついでに言うと、あたしらのよりずっと細かく調べてある。雅之氏達が調べてない空白部分を埋めているのがあたし達の作った図だけど、レベルの差ははっきり言って、高校生と幼稚園児くらいあった。
「……12個だけです」
なんとなく、決まり悪い。でも、雅之氏は良くやったと言ってくれた。
「そんなにあったのか。それで、大きそうなのは?」
「一つだけです。その他に途中で一つ、ついたり消えたりしてましたけど」
「そうか、ありがとう」
あんまり上手く説明できなかったけど、何とか説明した。
なんか忙しそうなので、説明し終わってすぐに邪魔にならないように出て行こうとしたら、雅之氏があたしら二人を呼び止めた。
真面目な顔をしてるから多分、シリアスな話。
「ところで、相談があるんだが」
「なんですか?」
「予定を繰り上げて、ピボット封鎖作業を行う事にしたんだ。昼間の事もあるから、君たちがどうしたいかを確認させて欲しい」
昼間の事って……そっか、あれ。
「危険がある以上、後方に移動させたいのでね」
と、これは横田さんが言った。
あたしと茜は思わず顔を見合わせて、それから横田さんの方を見て、答えた。
「イヤです」
……ハモった。
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