探査と地図【1】

 要請、なんて改まって言うから、どんな難しいことをするのかと思ったけど、話を聞いたらちょっと拍子抜けするような事だった。


「場所は多摩たま丘陵きゅうりょうなんだが、見ても驚かないように」


 そう言ってにやっとした雅之氏も、けっこう余裕があるみたいに見えた。


「驚くようなこと、無いですよ~。多分」


 だって友里んち、そのへんだし。いっぺんだけ遊びに行ったことあるけど、別に驚くようなものは無かったはず。

 ……と、思ってたけど。


 着いた先は、なんかすっごい田舎だった。


 東京都内も、昔はこんな田舎だったんだ。道路も舗装されてなくて、自動車が走ると土埃があがっている。

 でもこの自動車は、前に載せてもらったトラックじゃなかったからマシなのかもしれない。雅之氏が運転する乗用車で、かなり無骨だけど乗り心地はずいぶんいい。少なくとも、お尻が痛くなることは無いし。


「それで、どのくらいかかる予定?」


 よく言えば自然がいっぱいの景色を見ているのにも飽きたみたいで、茜がそんな事を聞いていた。


「長くても二日だよ。機材の設置は完了しているし、そんなに時間の余裕もないし」


 他の人が先に現場に行ってて、雅之氏は目的地に行ったらすぐ仕事ができるようになってるらしい。

 ってことは雅之氏、けっこう偉いのかもしれない。そうは見えないけど。


「亜紀君が以前こっちに来た時、私と一緒に駆けずり回っていた中山君を覚えてるかな?彼がかなり仕事を覚えてね。私はずいぶん楽になったんだ」

 

 ええっと、中山さんって言うと……あ、そーだ。雅之氏が途中で拾った人だ。


 そう言うと、雅之氏が笑った。


「拾ったって……まあ、間違ってはいないね。中山君の他に、矢島やしま軍曹ぐんそうも先にあちらに行っているよ。彼らは火力支援部隊だそうだ」


 矢島さん。ビルにおっこちたあたしらが、最初に会ったごついオジサンだ。


「今回の編成は、探査部隊が中山小隊および私の御舘小隊で、合計十一名。亜紀君と茜は臨時処置として御舘小隊への協力要員になっている。火力支援部隊は矢島分隊の20名だ」


 結構、人数がいるんだ。

 あたしはそう思っただけだったけど、茜はここで首をひねった。


「あれ?でも、兄貴の小隊ってずいぶん小さくない?分隊以下の規模だよね」


 えっと、ところで分隊って何?

 軍隊用語って全然判らないから聞いてみたら、雅之氏が


「ああそうか。分隊というのは、軍隊の中で一番小さいグループの事だよ。分隊がいくつか集まって小隊に、小隊がいくつか集まって中隊に、中隊がいくつか集まって大隊になるんだ」


 と、説明してくれた。


 ということは、雅之氏は小隊っていうのを持っているみたいだから、これって分隊とかいうものがいくつか集まってるんだよね。

 で、矢島さんのグループが二十人。


「あ、そうか。矢島さんのグループより小さいんだ」


 雅之氏のグループには、二十人以上いなくちゃいけないってことだよね?

 茜に確認してみたら、茜はそのはずだと思う、と言っていたけど、


「探査部隊については例外的に、監視局強制捜査課の観測ユニット、つまり私の普段の仕事と同じ編成を取ったんだ」


 そう、雅之氏は説明してくれた。


「えっと、平行宇宙警察方式ってことですよね?」

「そういうこと。で、探査部隊の最小ユニットは本来、技師一名と作業員2名なんだ。探査規模によって人数が多少増えるが、1ユニット5名を越える事はほとんど無いんだよ」


 だから、ここの探査部隊も一チーム五名までなんだって。


「観測機器を扱える人数がまだ少ないから、チームの数をある程度確保しようと思ったら一チーム辺りの人数を減らさざるを得ない、という事情もあるんだけれどね」


 要するに人手不足ってことらしい。


「それで、大丈夫なんですか?」

「なんとかなっているよ」

「……でも、研究所で見せてもらった機材って、すごく大きかったんですけど」


 三人くらいで扱えるほど、コンパクトじゃなかったような気もする。

 そう思って聞いたら、雅之氏は悪戯っぽくにやっと笑った。


「今回使うのは一つ100キログラム程度だから、十分に運搬可能だよ」


 それって、じゅーぶん大きいです……


「そこを何とか動かすのが仕事だからね」


 こともなげに言って、雅之氏はアクセルを吹かした。

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