生徒会長選挙編13-6

お弁当を食べ終わり、3年生の教室に向かうと十川さん、伊澤さんとクラスメートの3人で話していた。


全員綺麗なので話しているだけでもかなり絵になる。

今でもここに男の子が混ざっているなんて信じられない。


本人達は気にしていないが窓際の席で話しているので、廊下を通りすぎている生徒の視線を集めている。


「お久しぶりです」


「百瀬さん…久しぶりって昨日ぶりでしょ」


「昨日は失礼しました。手紙読みましたよね?」


「うん、随分好き勝手やってくれたね」


伊澤さんが威嚇する猫みたいな目でこちらを睨んでいる。

無表情でチョコを食べている十川さんとは凄い温度差だ。


でも伊澤さんが警戒するのも無理はない。

男だとばれた上に伊澤さんからすれば私が何をしに来たのか全くわからないのだから。


「この子が噂の百瀬ちゃん?思ってた以上に可愛いね」


警戒心むき出しの伊澤さんとは対照的に綺麗な茶髪の女性が興味津々にこちらを見ている。


「私は会田穂希、よろしくね」


「百瀬心です。よろしくお願いします」


会田さんは生徒会のメンバーと良い勝負ができるくらい美人だ。

伊澤さんの周りの人は可愛い人が多い。私が知っているだけでも生徒会の3人と安西と宮森、それに目の前にいる会田さん。

これが共学だったら伊澤さんは他の男からの嫉妬がものすごいことになっていただろう。


「伊澤ちゃん、何があったかは詳しく知らないけど後輩に怒るのは大人げないよ」


「それはそうだけど……百瀬さんはここに何しに来たの?」


「今日は十川さんに用があって来たんです」


「何の用事か聞いてもいい?」


「そんなに警戒しないでくださいよ。ただ話すだけですから」


「優、生徒会の鍵貸して」


十川さんはいつの間にかチョコを食べ終わり伊澤さんの目の前に手を出す。


私としてもこんな注目されている教室で話すのは嫌なので生徒会室で話せるならありがたい。


「えっ、それなら僕も一緒に行くよ」


「えーここで話せば良いのに」


伊澤さんと会田さんが同時に生徒会に行くことを反対する。


「優がいると話がややこしくなる。それにこんなところで話すことでもない」


「神無が心配なんだけど」


「大丈夫」


「でも…」


「いいから」


無理矢理説得された伊澤さんは渋々、十川さんに生徒会室の鍵を渡した。



生徒会室に着き部屋のドアを閉めドアから一番近い席に腰かける。


「十川さんイメチェンしました?すごく可愛いですね」


「ありがと」


「イメチェンはミスコンの票集めのためですか?安西と勝負してるんですよね」


「湊と恭歌から聞きだしたんだね。でも優の名前を使うのは駄目」


数分前に一年生の教室で話していたことが全て筒抜けになっている。やはり伊澤さんが口を滑らせた通り、十川さんは完璧に心が読めるということなのか。


「ごめんなさい、ちょっとやり過ぎましたね。怒ってます?」


「怒ってない。でも湊を推薦人にしたことはちょっと怒ってる」


安西の票が増える可能性があることはやって欲しくないということかな。

まあ、賭けている内容が内容なだけに万が一でも負けたくないということなのだろう。


今のやり取りだけでもう確認するまでもないけど十川さんの能力を試してみたいな。


「好きに試していいよ」


読まれている分、話が早くて助かる。

お言葉に甘えて試させてもらおうかな。


『156+156は?』


「312」


『タロットカードのダイアルカナの3番は?』


「女帝」


すごい。話さず思い浮かべただけなのにあっさり答えられてしまった。


適当に数字を言っても三桁の数字なんて当てられる訳がない。

しかも十川さんが知らないであろう、タロットカードの問題も出したけどそれもあっさり答えている。問題も答えも同時に読めるのか。


これだけ完璧に読めるならイカサマや嘘の可能性はない。


「そこまで細かく読めるんですね。


「カンニングとかやり放題じゃないですか?」


「できるけどやらない」


「そんなに凄い力があるのになんで悪用しないんですか」


「心だって自分の力を悪用していない。そういうこと」


まあ、私はコールドリーディングで伊澤さんが男だとつきとめたりしたから悪用してる気もするが、犯罪や人道に反することをやろうとは思わない。

その辺りは十川さんにかなり共感できる。


「本物はやっぱり凄いですね。私とは格が違います」


小手先の話術で人の考えを見抜いている私とは全然違う。


「私は考えていることを読めるけど伝えられない。心の方がすごいよ」


「え?どういうことですか?」


「優に気をつけてって言ったのに心の話術にあっさり引っ掛かった。私の忠告が下手だった。いくら読めても相手に伝わらなかったら意味ない」


伊澤さんの様子だと私が手紙で全部ばらして良いですと言うまでは十川さんは私のことを一切ばらしていないみたいだった。

流石に何もわからない状態で気をつけてと言われても何に警戒すれば良いかもわからないから厳しいだろう。


十川さんは他人のプライベートを勝手にばらさないようにする優しい人だからそこを避けて説明しないといけなくて、結果としてわかりづらい説明になるということだろう。


「流石にそれは仕方がない気もしますけどね」


もし私が伊澤さんではなく十川さんに先に会っていたら間違いなく返り討ちにあっていたと思う。そう考えるとやはり負けている気がするが褒められたし素直に受けとることにしよう。


「今日十川さんを呼んだのは聞きたいことがあって」


「生徒会のポスターのこと?麗のも頼まれてるし心のもやってあげてもいい」


「えっ」


「対等の方が良い。それにチョコのお礼」


そういえばさっき十川さんが食べていたチョコレートは私が昨日あげたものか。どうりで見覚えがあると思った。


「いいんですか?てっきり十川さんは一ノ瀬さんの味方だと思っていましたけど」


「味方。でも心の手伝いをすることは裏切りにはならない」


「どういうことですか?」


確かに伝えるのは下手くそだ。相手の考えていることがある程度わかる私でも何を言っているのかがわからない。でも何故か十川さんが本心で言っているということは伝わって来た。


「それはまだ言えない。でも心配しなくてもいい。これで私と麗の仲が悪くなったりはしない」


「よくわからないですけど手伝ってくれるならなんでも良いです。今日の放課後でもいいですか」


「うん、放課後にパソコン室」


「はい、わかりました。そろそろ昼休み終わりますしまたあとで話しましょうか」


結局、ポスターを作ってくれることになったけど何故手伝ってくれるのかは聞けなかった。


考えが読める人に勝てるとは思っていなかったが想像以上に会話のペースを握られてしまった。



放課後になり十川さんと約束したパソコン室に向かうと十川さん以外にも先客が座っていた。

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