デート編(十川神音視点)

今回はデート編の十川神音(神無の母親)視点の話になります。


心の声は『』で表現しています。



「もしもし、今時間ある?」


「はい、大丈夫ですよ」


早苗さんから急に電話がかかってきた。このタイミングで電話が来たってことは優から告白の件を聞いたのかな。


「良かった~。実は明日、優と神無ちゃんと一緒にご飯を食べるの。あなたたちもどうかしら」


「いいですね。この話が出てくるってことはもう結果は知ってるんですね」


「ええ、さっき優から聞いたわ」


「それは良かったです。ちょっと待ってください。今智和さんもいるので聞いてみます」


「智和さん、早苗さんが明日会いたいと言っているのだけど予定空けられる?あなたが行けないなら私だけで行ってくるけど」


「昨日会ったのに明日も会うのか?」


「明日は神無と優も来るみたい」


「ほう、それなら行く。結局文化祭では武司に遮られたせいで神無に会えなかったしな。優にも会いたいし」


「明日、19時からみたいだけどそれまでに仕事終わるの?」


「気合いで終わらせる。店は決まってるのか?決まってないならあそこを取るが」


あそこってあの料亭かな。敷居が高いからできればもっと楽に行ける場所が良いのだけれど。


「あ、もしもし。智和さんもオッケーみたいです。お店ってもう決まっていますか?」


「いいえ、人数が決まってから決めようと思って」


「じゃあ私達が取りますよ。6人ですよね?」


「うん、6人で間違いないわ。ありがとう~」


「はい、では明日を楽しみにしてますね」


「うん、じゃあ明日ね~」


相変わらず早苗さんはテンションが高い。早苗さんと話すとこっちまで元気を貰えている気がする。


「智和さん、本当にあの店で良いの?伊澤家の人はあんまりああいうところに慣れてなさそうだけど」


「料理も旨いし個室だからあそこで良いだろう」


あーなるほど。智和さんは優に神無とのこれからについて聞きたいから個室の店にしたいのね。



神無と優のラブラブっぷりを見るのを楽しみにしていたらあっという間に次の日になり、早苗さん達と会う時間になっていた。


案の定、伊澤家の人達はこの店の雰囲気に気圧されている。だからここはやめた方が良いと言ったのに。


早苗さん達の緊張が解けないまま、智和さんは話を切り出した。流石に結婚の話はまだ早すぎると思うんだけど。



「将来は神無と結婚したいと思っています」


優ははっきりと将来は結婚したいと言った。前にうちで柔道をした時もそうだが可愛い顔して男らしいところもある。そういうところを神無が好きになったのかな。


優が目を反らしているから気づかれてはいないが、神無は真っ直ぐに優のことを見て顔が惚けている。あまり表情に出ない神無も優のことになると丸わかりね。私の特殊な目が無くても神無の考えていることがわかり思わずにやけてしまう。早苗さんも嬉しいのか感情が溢れでている。


『きゃーホントにこの子達はラブラブね。昨日付き合ったばかりとは思えないわ』


あれ、この心の声のパターンって似たような事を声に出すやつじゃ…ヤバい止めなきゃ「早苗さん待っ」


「あらー。昨日付き合ったばかりなのに本当に仲が良いわね。胸焼けしそうなくらい甘いわ~」


ああ、間に合わなかった。これはもうどうしようもない。


そこからさらにテンパった早苗さんは優が女子校に通っていることも言ってしまった。


神無も顔には出ていないが頭の中は先程までの幸せの雰囲気から一転して焦りでぐちゃぐちゃになっている。


『どうしよう』


『大丈夫よ。優のこと信じてあげなさい』


『うん』


結局、優は今までのことを全部正直に話した。これで良かったのかはわからないけど、智和さんの性格ならはっきり行った方が受け入れると思うから間違いではないとは思う。


智和さんは優の話を全て聞いた後に神無と私の顔を見る。


『神無、神音話がある。神音、一応聞くがお前は初めて会った時には気づいてたよな』


「そうね」


智和さんの考えていることは私と神無が理解できるので、喋る必要はないが私の考えは智和さんに伝わらないので言葉にだす。



『それでも、俺達の家にあげたのはなぜだ』


「それは私が答えなくてもわかっているでしょう?」


『まあな…神無、お前はなぜ付き合ってもいない男を俺に紹介したんだ』


「紹介したかったから」


『それだけじゃわからん』


「あの時から好きだったから紹介した」



『そうか。そういえば優は、神無の目のことも知っているのか?』


「ええ、ついでに私のことも知ってるわ」


『なるほどな。さて、どうする。神無にこれ程好かれるやつは二度と現れないかもしれない。だがもし一人娘の彼氏が女子校に通ってるなんてことがばれたら、うちの会社の評判は大変なことになる。社員を食わせていく立場の俺はそんな危ない橋を渡る訳には行かない。普通に考えれば別れてもらうしかないだろう。

だが、神無のことを考えると、神無の目のことを知ってそれでも付き合える男なんてそうそういるわけがない。一体どうすれば…』


智和さんは上を向いて私達に見えないようにしているつもりだろうけど目の一部でも見えればこちらには伝わるから全部筒抜けよ。



神無の方を見て神無に私の心を読んでもらう。


『神無、智和さんのこともわかってあげてね。大企業の社長だから責任がどうしてものしかかるものなのよ』


『わかってる。でも優とは別れない』


神無から感じられるのは絶対に別れないという明確な意思。これを見て助けないのは母親として駄目だろう。


『そうよね。じゃあ私がフォローしてあげるわ』


「すみません、10分ほど3人で話せる場所を貸していただけますか。席料は別途お支払いしますので」


「はい、かしこまりました」


店員さんを呼んで別室をもう1つ貸しきらせてもらう。


「私と智和さんと武司さんで話したいので席を外します。早苗さん達はちょっと待っていてください」



「私が智和さんを丸め込むので安心して待っていてください」


「神音ちゃん、ありがとう。お願い」


早苗さんにだけ聞こえるように耳元で話すと、少しだけ早苗さんは元気を取り戻した。


「ええ、任せてください」




部屋を移り、三人が座ったところで智和さんが話し始める。


「神音なぜこの三人にしたんだ?優ならわかるが武司は関係ないだろう」


智和さんの話を無視して、私は話を切り出す。


「智和さん、私はこの目のことを気にしないあなたが好きよ。多分神無も同じく気にしない優のことが好きなはずよ。だから、私は神無と優を別れさせたくない」


「そんなの俺も同じだ。だが…」


「ばれなきゃいいじゃない」


「は?」


私の突拍子もない意見に智和さんは思考が止まり、武司さんは自分がここに呼ばれたことを察したみたいだ。


「だからばれなきゃいいじゃない。隠し通せれば何も問題ないわ」


「それはそうかも知れないが、そんな簡単に隠し通せるものではないだろう」


「武司さん、言ってもいいですか?」

「ああ、もちろん」


一応了承をとるために聞いたがやはり武司さんはあっさりオッケーしてくれた。


「武司さんも他の人にばれずに卒業して早苗さんと結婚してるじゃない」


「はあ?お前も女子校に通っていたのか!?」


「ああ、そうだぞ」


「なんだと…初めて聞いたぞ」


「いや、それはそうだろ。言ってないしな」


「お前大学は俺と同じ東帝大だろ」


「ああ、女子校は高校の時だけだからな」


「そんな当たり前みたいに言うな。女子校出身ってかなり異常だぞ」


「まあ、それはそうだろ」


「だからなんで他人事なんだよ」


武司さんが他人事のように言うせいなのか、智和さんが今日の中で一番ヒートアップしている。


「30年以上前のことなんてそんなもんだ。俺は神音さんからとっくに聞いているもんだと思ってたけどな。」


「聞かれてもいないプライベートなことを神音は絶対に言わん」


「そうみたいだな。お前本当に良い嫁さんもらったな」


「まあな」


急に変な角度から褒められると照れてしまうし、話を戻そう。


「言った通りでしょ。武司さんみたいにばれなければいいのよ」


「俺も息子の彼女が良い子なのは安心できるし別れてほしくはない」


「まあ、そうだな。俺も別れさせたい訳ではない」


「なら学校でばれたら別れるでいいんじゃない?」


深い溜め息をつき智和さんは覚悟をきめたようだ。


「とりあえずそれで良いとするか。おっさんになるまで隠し通したやつもいるしな」


「おう、ありがとな。優すら一昨日まで俺があの女子校に通っていたのを知らなかったしな」


「おまえ、流石にそれは教えてやれよ…」


智和さんが心底呆れたように武司さんのことをみて呟いた。


話がまとまったので、三人で部屋に戻りまずは神無の方を見つめる。


『丸め込んだわ』


『ありがと』


『たまにはお母さんらしいことしないとね。仲が良いのはわかってるしね』


人差し指で自分のまぶたを2回叩いて今日のデートを全部見させてもらったよとジェスチャーを送る。まあこんなことをしなくて神無には私が全部知っているのはわかりきっているとは思うけどね。


『意地悪』


神無はぷいっと私から顔を背けて優の方を向き、「大丈夫だったみたい」と優に伝えていた。


優と早苗さんは心底安心したように、胸を撫で下ろしている。


私だって上手くいく自信はなかったから本当に安心した。


神無にとっての優は私にとっての智和さんみたいなものだから絶対に離れ離れになってほしくなかった。


特異な目を持っている私達はそれを心の底から気にしない、真っ直ぐな人としか付き合うことができない。


そんな人は智和さんと優しかいないよ。


だから、よかったね、神無。


優もここまで助けてあげたんだからもう他の人にばれちゃだめよ。

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