文化祭編8-6(天野雪視点)

今回の話は8-2から8-5までの天野雪視点になります。


「雪、朱音。今、2年の教室ですごいことになってるって」


同じクラスの美波が凄いテンションで教室に入ってきた。

今は放課後でクラスの出し物の手伝いをしている。私のクラスの出し物は男装喫茶で私と朱音は当日の接客班でやることがないので装飾班の手伝いでテーブルクロスを作成している。


「え、どうしたの。まさか喧嘩とか?」


「違う、違う。一年と二年のミスコンの可愛い子いるじゃん。その二人が同時に生徒会長に教室で告白したんだって!しかもその返事は文化祭の劇で貰うらしいよ。これすごくない!?」


「それは、中々凄いわね」


朱音はそれほど驚いていない様子で美波に返事をしていたが私は驚きすぎて何も答えることができなかった。


「私は色んな人に広めて来るね!」


美波はすぐにその場から立ち去って他の人に噂を広めに行った。


「朱音、ちょっと来て」


教室では素の自分で話せないので朱音を連れて屋上に向かう。


「どうしよう。私、あの二人が優のこと好きって知らなくてあんなふざけた台本作っちゃったんだけど」


泣きそうな私を見て朱音は何故か驚いていた。


「え、知らないであの台本作ってたの?」


「知るわけないじゃない。朱音は知ってたの?」


「見ればわかるでしょ。多分花宮さんも知ってるよ」


知らないのは私だけだったのか。


「というか知らないであの台本を作ったってある意味天才ね」


朱音はクスクスと笑っているが私からしたら笑い事ではない。


「笑わないで。恋心をネタにして劇を作ったと思われてたらどうしよう」


「別にそれでも問題ないとは思うけど?」


「いや、問題でしょ。とにかく、謝らないと」


「むしろお礼を言われるんじゃないかな」


「どういうこと?」


「説明しても良いけど謝りに行くなら、私から言わなくてもその時にわかるでしょ」


それからは、教室に戻りクラスの出し物の手伝いをした。私は一刻も早く謝りに行きたかったのに、朱音がすぐに謝りにいくほど深刻じゃないからと言って作業から開放してくれなかった。


それからしばらく作業をして、やっと解放されたので、すぐに寮に帰る。

十川さんは直接部屋に行って謝るとして、先に一ノ瀬さんに電話をかけることにしよう。


「一ノ瀬さん、天野だけど今いいかしら」


「はい、大丈夫です。天野先輩から私に電話だなんて何かありましたか」


確かに一ノ瀬さんとはあまり会話をしたことがなかった。ましてや電話なんて初めてしたし。


「ええ、実はあなた達の告白の件を聞いてしまって...」


「耳が早いですね。はい、告白しましたがそれがどうかしたんですか」


「あなたたちが優のことを好きだなんて知らなくて劇の台本をあんなふざけた内容にしてしまったわ。本当にごめんなさい」


「え、知らなかったんですか。知っていると思ってました」


朱音と同じことを言われてしまった。


私が鋭いと思われていたのか、誰でもわかることをわかっていないポンコツなのか一体どちらなんだろう。多分後者の気がする。


「とりあえず謝らないでください。先輩が作ったあの台本は面白いですし、私はあの話は好きですよ。それに...」


「それに?」


「いえ、何でもないです。もし謝るとしたら伊澤先輩に謝ってあげてください。私は天野先輩には、ありがとうございますとしか思ってないです」


「もちろん、優にも謝るけどなんでありがとうなの?」


「すみません、それは言いたくないです」


よくわからないけど聞かないほうが良い気がする。


「わかったわ。もし何か劇のこととかで変えてほしいことがあったりしたら何でも言って。直前でも台本は変えることはできるから」


「はい、わかりました」


その後一ノ瀬と少しだけ話して電話を切った。

怒ってはいなかったので安心はしたけど、なぜ御礼を言われたのはよくわからなかった。


でも、それを今考えてもしょうがないのでとりあえず十川さんに謝りにいこう。


十川さんの部屋のドアをノックすると、少し経ってから十川さんが部屋から出てきた。


「雪、謝らなくていい。ありがとう」


私はまだ何も言ってないのに、十川さんには全てわかっているようだった。


「一ノ瀬さんにもお礼を言われたんだけどどういうことなの?」


「上手く説明できない」


十川さんにもありがとうと言われて、もう全然訳がわからない。

ここで、催促してもしょうがないし朱音に聞こう。


「そっか、じゃあいいわ」


「私と麗に謝るよりも優に言ってあげて」


「一ノ瀬さんもそれは言っていたわ」


「うん」


「これから謝りに行ってくるわ。そういえば顔が赤いけど何かあったの?」


「それは気にしなくて良い」


「そう、まあいいわ」


それだけ言って私は十川さんの部屋から出た。


その後、優にも謝りに行ったが、優に聞いても何故二人が御礼を言ったのかはわからなかった。


優の部屋から自分の部屋に戻り朱音に電話をかけることにした。


「朱音、ちょっと聞きたいことがあるんだけど。


「伊澤ちゃん達の話?」


「うん」


その後、朱音に2人に謝りに行って御礼を言われたことを話した。


「やっぱりね。雪は本当にそういうのに鈍いね。多分、雪の台本が告白するきっかけになったからじゃない?劇で答えを貰うことにすれば告白の答えを有耶無耶にされることもないし」


「なるほど、確かにそれなら納得できるかも。じゃあ、一ノ瀬さんと十川さんが優に謝ってと言ってたのは告白の返事から逃げられなくなったから?」


「そうね」


「でも、優って告白されるのから逃げてたの?他の女の子から結構告白されてるけど普通に全部断っているじゃない」


「あの二人の告白は意味が全然違うってことでしょ。後輩三人の恋の行方を黙って見ておこうよ」


なるほど。あの二人の中に優の好きな人がいるってことなのかな。


「うん、そうだね。これ以上私が余計なことをすると拗れそうだしね」


「うん、劇を楽しみにしましょう」


優は私にとっては弟みたいな感じの後輩だし、優が後悔しない道を選んでくれたら良いなと思う。

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