文化祭8-5
「つ、疲れた…」
寮の自室に入ってすぐにベッドに突っ伏してしまった。
二人に告白された後は、クラス全員が自分の作業を放置して僕を質問攻めにしてきた。
それのせいで寮に戻る頃にはクタクタになっていた。
確かに、あんなことがあれば、質問攻めにしたい気持ちはわかるけど、僕が一番混乱していたので、そっとしておいてほしかった。
心の中では神無と一ノ瀬さんは僕のことが好きなんじゃないかと思ったこともあった。
でも、あんなに性格も良くて可愛い二人が僕を好きになってくれるなんて事はないと否定していた。
本当は好きな人に告白されてすごく嬉しかった。その場で僕も好きですと言いたいくらいだ。
でも、それは僕が普通の高校にいたらの話。女子校で女装して学校生活を送っている僕はそれを受ける権利はない。
もっと違う出会い方をしていれば良かったのにな。
そんな男らしくないことを考えていると部屋のドアがノックされドア越しに声が聞こえた。
「優、開けて」
「神無?待って今開けるね」
告白されてからまだ数時間しか経っていないし、できれば今日は会いたくはなかったけど仕方がない。
ベッドからおりて、ドアの方に向かい鍵を開けると、神無が僕のお腹に抱きついてきた。急にラグビーのタックルみたいに来られて思わず後ろに倒れこんでしまう。
「神無!?」
「そのまま聞いて」
「でも、この体勢はちょっと」
「目を見ないようにするため」
確かに神無が僕の目を見てしまうと何もかもばれてしまうので僕もそっちのほうが助かる。
でも、神無の頭が僕のお腹のところにあり、尚且つ抱きつかれているこの体勢は流石に照れてしまう。
神無のきれいな銀髪をこんなに近くに見たのは初めてこの寮で会って挨拶をしたときに抱きつかれた時以来だ。
思えば、あのころからすでに神無は僕が男だって気づいていたんだよな。
「わかった。でもどうしたの?」
まさか、2人の告白は冗談だったとか?
そうだったら流石に死にたくなってしまうんだけど。
「明日から優とは学校行かない」
「えっ何で?」
「近くにいると目を見ちゃうから」
「そっか、気を使ってくれてありがとう」
「私も見たくないし、麗にも悪いから。でも、文化祭が終わったらまた一緒に学校行く」
それは神無なりに、もし僕が神無のことを振ったとしても友達関係はなくならないと言ってくれた気がした。
「うん、ありがとう」
体勢のせいで神無がどんな顔をしているかは見えないけど、今日だけは見えなくて良かった気がする。だって神無の顔が見えていたら今の僕の顔も見られるってことだから。
「じゃあ私は戻る」
神無は僕と目が合わないように立ち上がるとすぐに後ろを向いて早足で部屋に戻っていった。
神無が部屋に来た後も僕はベッドに突っ伏していた。そんなことをしていると、しばらく時間が経ち、またドアがノックされた。
また、神無かな?
「優、私だけど今いいかしら」
「雪さん?ちょっと待ってください。今開けます」
ドアの向こうから雪さんの声が聞こえてきた。
何かと思い、急いでドアを開ける。
「優、ちょっと部屋入れて」
「良いですけど何かあったんですか?」
部屋に入り、ドアを閉めると急に雪さんが頭を下げ始めた。
「ごめんなさい」
「え、何のことですか?」
「劇のこと」
いつものハキハキとした話し方ではないからなのか、何のことを謝られているのかよくわからない。
「恋心を劇のネタにしたみたいになってごめんなさい。あの二人が優のことを好きだとは思わなかったのよ」
「雪さんは3年生なのにもう告白のことを知ってるんですね」
「当然よ。放課後学校にいた人は全員知っているわ」
流石女子校だ。噂の周り方が異常に早い。
明日学校に行くころには、学校中の人が知っていてもおかしくはないかもしれない。
でも、神無と一ノ瀬さんの人気を考えれば当然かな。
「もうそんなに広まっているんですね。でも、謝るなら僕にじゃなくて神無と一ノ瀬さんに言ったほうがいいんじゃ」
「もちろん、二人にはもう謝罪したわ」
流石、雪さんだ。いつものようにやることが早い。
「一ノ瀬さんには電話で、十川さんにはついさっき謝ったけど、なぜかありがとうって言われたわ。それに、二人とも、謝るなら優にって言ってたわ」
「え、僕ですか」
「なんでそう言ったのかわかる?」
一瞬、なんで僕なんだと思ったけどすぐに二人の考えはわかった。
だが、雪さんにそれを言うことは僕にはできなかった。
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