文化祭8-1
生徒会で劇をやることが決定してから二日が経ち、雪さんから劇の台本ができたという連絡が生徒会のグループライソで送られてきた。
いつもながら本当に仕事が速いな。
今は午前の授業が終わったばかりだから放課後まで3、4時間あるけど、雪さんがどんな台本を書いてくるのかがかなり楽しみだ。
まあ放課後にならないと読めないし、とりあえず前の席の会田さん達と昼御飯を食べようかな。
お弁当を取りだそうとしていたら、教室のドアの方で五條さんと一ノ瀬さんが話していた。
「あれ、生徒会の一ノ瀬さんじゃないっすか。優さんを呼びますか?」
「いいえ、今日は伊澤先輩にではなくて十川先輩に用事で」
「神無さんっすね。今呼ぶからちょっと待っててください」
五條さんが神無の方に向かって行った。
僕に用事かと思ったけど神無に用事なのか。
傍目から見ていると会田さんが弁当を開きながら僕に話しかけてきた。
「伊澤ちゃん、ハーレムのメンバー来てるけど行かなくていいの?」
「だから、ハーレムじゃないって。それに、今日は僕に用事じゃないみたいだし」
神無が教室のドアの方に行き、少しだけ一ノ瀬さんと話したかと思ったら僕の方に来た。
「優、生徒会室の鍵貸して」
「いいけど、なんで?」
「麗と話す」
「放課後も集まるけど今のほうがいいの?」
「うん」
「わかった。終わったら返してね」
「うん」
二人が教室を出ていってから会田さんが興味津々で僕のほうを見ている。
「二人って仲良いの?」
「うーん、どうなんだろう」
正直あんまり話している所を見たことがないんだよね。喧嘩とかじゃなければ良いけど。
「伊澤ちゃんの取り合いで喧嘩してるんじゃない?」
「取り合いって、そんなわけないよ」
「でももしそうだったら面白いじゃん」
「他人事だと思って好き勝手言ってるね」
「ごめん、ごめん」
昼御飯を食べ終わり、会田さんと話していると神無が教室に戻ってきた。
「優、鍵」
いつも明るい訳ではないし、表情も読めないけど今日の神無はいつもより暗い気がする。
「うん、ありがとう。一ノ瀬さんと何かあったの?」
「別に、もう戻る」
僕に鍵だけ返してすぐに自分の席に戻ってしまった。
放課後になり、神無と一緒に生徒会室に行く途中もどこか元気がないままだった。
「神無、体調悪かったら今日の生徒会はでなくても良いんだよ」
「大丈夫、出る」
「そっか、無理だけしないでね」
生徒会室に行くと今日も僕たち以外のメンバーは揃っていた。
一ノ瀬さんはどこか気まずさを感じているような顔をしている。
「全員集まったわね。台本ができたから見て感想を頂戴」
物語は簡単に言うと優柔不断の佑真(僕)が美女二人(一ノ瀬さんと神無)のどちらかを選ぶというストーリーだった。
「雪って意外とこういう話好きよね」
神崎さんが台本を見ながら笑っている。
「雪さん、ヒロインを選ぶシーンが2つに分岐しているんですけど、まだ完成していないってことですか?」
「そこは当日あなたが選びなさい。そっちの方が面白いでしょ」
「いや、流石にそれは…あと、登場人物が三人しかいませんが」
「花宮さんにはナレーションをやってもらうわ」
「はい、別に目立ちたくないですし、事前に言われていたのでナレーションで大丈夫です。それに話はかなり面白いと思いますよ」
この前、雪さんが花宮さんと耳打ちしていたのはこのことだったのか。
「でも、この話はちょっとドロドロしすぎじゃ無いですか?神無と一ノ瀬さんはどう思う?」
多数決で内容を撤回しようとして二人に話を振ると、一ノ瀬さんは不適な笑みを浮かべ、神無は先程よりも明らかに元気になっていた。
そのあと、一ノ瀬さんが神無の方を軽く見ると神無はすぐに頷いた。
もしかして一ノ瀬さんも神無みたいな能力があったりするのか。
「私は面白いと思いますけど」「これで良い」
一ノ瀬さんと神無がまさかのノリノリだった。
「優以外が賛成なら多数決で決定ね。どんな話でも選ばれたほうは幸せで選ばれなかったほうはバッドエンドでしょ。男ならちゃんと一人に選びなさい」
「そうですね」「うん」「その通りですね」
一ノ瀬さんと神無、花宮さんが一斉に頷いた。
どうやらこの話をやらないと言う選択肢は無いようだ。
「演目はこれで決まったようね。でも雪、伊澤ちゃんが男って言うのはどういうこと?」
「「あっ」」
僕が雪さんの方を睨み付けると、慌てて雪さんが吹けもしない口笛を吹きながらそっぽを向く。
神無の方を見るともう手遅れだと言わんばかりに首を横に振っていた。
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