後輩6-15
今日は一ノ瀬さんと約束していたモデルの撮影日だったが2回目ということもあり、モデルの仕事は滞りなく終わった。
「今日は一ノ瀬さんも一緒に帰れるんだね」
「ええ、二人で話す時間を作りたかったので、片付けは他の人に頼みました」
まあ二人きりといっても車の中なので使用人の東雲さんもいる。
「たしかに生徒会室でもモデルの仕事でも二人で話す機会はあんまりないもんね」
「そうなんですよ。生徒会は伊澤ハーレムだから二人きりでは話せないですし」
「その伊澤ハーレムってなんなの?結構色々なところで言われているような気がするんだけど」
そんなの生徒会が美人の集まりだからに決まってるじゃないですか。
オブザーバーもいれると全学年の美人ランキング1位と2位が揃っていますし」
「雪さんと神崎さん、神無、一ノ瀬さん、花宮さんか。たしかにそうかも知れないけど本当にたまたまなんだよ。ちなみに2年の2位は誰なの?」
「あなたに決まってるでしょう」
「僕?一応男なんだけど」
「今回のミスコンで神無先輩の票数が少なめだったのは伊澤先輩の方にもかなりの票が流れたからですよ。それに先輩は直前の生徒会選挙の演説でインパクトありましたし」
神無の票が少なかったのが僕のせいだったとは思ってもみなかった。
僕が黙って考えていたら、一ノ瀬さんは勘違いしたのか僕のことをジト目で見ていた。
「もしかして本当に顔で選んだんじゃ」
「そんなわけないでしょ。本当に偶々だよ」
「でも、先輩って毎日告白されているじゃないですか。その人たちにお願いすればいくらでも集められたと思いますけど」
「そういう好意を利用するみたいなのは嫌だったんだよ。あとそういう感じで集めると後々揉めそうだし」
「たしかに、昼ドラ見たいになりそうですね。それならハーレムのほうがまだいいと」
「だから、ハーレムじゃないって」
「でも、十川さんに告白されていたじゃないですか」
「いや、あれは告白じゃなかったでしょ」
「まあそうですけど。仮に告白だったら受けていたんですか?」
「多分断っていたと思うよ」
「なんでですか」
「たしかに、神無はこの学校でできた初めての友達だし、一緒にいて落ち着く。別の形で会っていたら付き合いたいと思うよ」
「別の形?」
「うん、僕は今女装してあの学校にいるでしょ。もしバレたときに誰かと付き合っていたらその人にも迷惑をかけると思うからこの学校にいるうちは誰とも付き合えない」
「なるほど、だから片っ端から告白を断っていたんですね」
「うん」
「じゃあ今は偽彼氏で卒業してから十川先輩の本物の彼氏になるんですか?」
「いや、そもそも神無は僕の事を好きでもないと思うからそれはあり得ないよ」
「まあそれならいいですけど」
一ノ瀬さんが僕のお腹を無言でつねる。
「痛いって」
「せいぜい明日の彼氏役で死なないで戻ってきてください」
「え、神無の家ってそんなにやばいところなの?お金持ちとか?」
「伊澤先輩、十川さんのお父様のことを知らないでオッケーしたんですか」
「え、嫌な予感がするんだけど」
「電十って知ってますよね」
その会社を知らない人は日本にはいないと思う。広告代理店会社のトップで世界でも五指に入るほどの規模の会社だ。
「もちろん、知ってますよ。まさか…」
「そうです。十川さんのお祖父様が会長でお父様が社長です。ついでにいうとお母様は世界的な画家です。」
「行かないっていう選択肢は」
「日本に住めなくなってもいいなら行かなくてもいいと思います。」
それは流石に厳しいので行くしかない だろう。
でもその話を聞いて色々納得した。彼女が選挙のポスターとかサムネを作るのがめちゃくちゃ上手いのはそれが理由だったのか。
小学生の絵のコンテストにプロが混じっているようなクオリティの差だったもんな。
「そういえば、明日着ていく服はもう準備してるんですか?」
「いや、そんな大変なところだと思ってもいなかったので、普通の服装でいくつもりでした」
一ノ瀬さんは深いため息をついて呆れたようにこちらを見る。
「東雲、お父様の行きつけのスーツ屋に行くわよ」
「かしこまりました」
「いや、それは流石に申し訳ないよ。わざわざ連れていってくれるなんて」
「適当な服装で十川先輩のお父様にボコボコにされていいなら行かないですけど?」
「えっ?十川さんのお父さんってそんなに恐い人なの」
「お父様は武道の達人で業界の中ではかなり有名です。先輩弱そうだし、多分勝負したらボコボコにされると思いますよ。そもそも、電十の会長と社長と会うのに普通の服装でいくなんて失礼ですよ」
「僕も一応柔道黒帯なんだけど…でも中学までしかやっていないし、本気で闘ったらボコボコにされますね。たしかにボコボコにされるのは別にしても社長さんに会うのに正装で行かないのは失礼だね。東雲さん、申し訳ありませんがスーツ屋まで連れていってください」
一ノ瀬さんと東雲さんが心底びっくりしたような顔でこっちを見ている。東雲さんは運転に集中してほしい。
「先輩って意外と強いんですね」
いや、それは普通に失礼だな。
一ノ瀬さんには僕はどんな風に見えているんだろう。
そのあとスーツ屋に行きあまりの値段の高さに気絶しそうになった。
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