後輩6-14

「十川先輩、急に何を言ってるんですか!?伊澤先輩、まさか受けたりしないですよね?」


一ノ瀬さんがいつもの鉄仮面のような表情からは想像もつかないくらい動揺している。

だが、僕の動揺の方が圧倒的に大きくあまりの驚きで思考がショートしてしてしまった。


僕が困惑していると神無が僕にではなく、一ノ瀬さんの方に質問をした。


「麗は優のこと好きなの?」


馬鹿にするでもなく、いじるために聞いたのでもない、純粋な疑問で神無は聞いたのだと思うけど、できればこれ以上状況をややこしくするのはやめて欲しかった。


「そんなわけないじゃないじゃないですか」


「麗ちゃん落ち着いて。どっちかわからないよ」


「とにかく、私が伊澤先輩のことを好きなんてありえないですから」


ありえないって言われるのも、ちょっと悲しくなるからやめてほしいんだけど。


「キスしたのに?」


「なんでそんなことまでわかるんですか!?」


一ノ瀬さんはキスの事をバラされて顔が真っ赤になっていた。


神無はなんでキスのことまで知ってるんだ。最早超能力者なんじゃないか。


「目を見ればわかる」


「そんなことでわかるわけないじゃないですか!?」


「でも麗ちゃん。今の反応はしたことがあるってことだよね」


「そ、それは」


一ノ瀬さんも反論できないのか僕にすがるような目でこちらを見ている。

いや、僕も誤魔化せないからこっちを見ないでほしい。


一ノ瀬さんだけではなく花宮さんもジト目でこちらを見ている。


「伊澤先輩がまさかすでに麗ちゃんに手を出していたとは」


「いや、手を出したんじゃなくて一ノ瀬さんからキスしてきたんだけど、あっ」


恐らく言ってはダメな事実を話してしまった。だからこっちに振らないでっていったのに。


「麗ちゃんからしたの!?」


「あれはただのお礼なの。あと伊澤先輩は黙っててください」


「もう、私のキスの話は一回忘れてください。十川先輩、なんでいきなり告白したんですか」


「告白?してない」


神無は特に表情も変えずに、当たり前のように否定した。

え?僕、告白されたよね?


「え、でも彼氏になってって」


「お見合いを断るための彼氏役」


再び空気が凍った。

僕が哀しげな顔をしていると、花宮さんは気の毒な奴を見るような目で僕を見た。


「伊澤先輩元気出してください」

「なんで一ノ瀬さんは嬉しそうなの」

「別に嬉しくないです。自意識過剰ですよ」


「これ以上言われたら泣くからもう許して」


「でも高校生でお見合いなんて本当にあるんですね」


「うん。この前帰った時に言われた」


そういえばGWに実家に帰っていたな。

やっぱり神無もこの学校に来ているだけあってかなり良いとこのお嬢様とかだったりするのかな?


「僕が彼氏役になるのは問題ないけど彼氏役って具体的に何をするの?」


「次の日曜日両親とお爺ちゃんと会ってほしい」


偽彼氏とはいえ、それはちょっと緊張するな。でもこれで選挙の推薦人をしてもらったお礼ができるならいいかな。

土曜日は一ノ瀬さんにモデルを頼まれたけど日曜日は空いているし。


「うん、大丈夫だよ」

「ありがとう」


それから神無は少しの間考えて、決心したかのように話を切り出す。


「優、やっぱり私も生徒会入る」

「えっ、いいの?」

「うん、多分日曜日は大変だからそのお礼」


元々は生徒会の推薦人をやってくれたお礼で何でも言うことを聞くっていう約束だったのにいいのかな。でも、生徒会のメンバーは集まりそうにないしここは神無の優しさに甘えさせてもらおう。


「ありがとう、凄く助かるよ」


「うん」


花宮さんに男バレしたり神無の偽彼氏になることにはなったけどとりあえず生徒会のメンバーが揃って良かった。


二日後、生徒総会で今年の役員を発表したが、あまりにも役員のメンバーが美人過ぎて伊澤ハーレムと呼ばれたのはまた別のお話。

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