後輩6-5
「弥月ちゃんいいわー。手をもうすこし上げて、はいストップ」
最初はひやひやしたが撮影は順調に進み、残りは一ノ瀬さんと二人で取る撮影だけになった。
カメラマンの近藤さんは最初の顔のイメージとは違い、優しく的確な意見をくれる。女性のような話し方ということもあり、話しやすく被写体である僕の緊張を解くのも上手い。やはりそういうところでもプロの凄さを感じる。
撮影が一段落して、僕が休憩している最中も、一ノ瀬さんと近藤さんは話し合いをしている。
僕がスタジオに入ってからもう7、8時間は経っているがこの二人が休んでいるところを全く見ていない。
少しでも良いものを作るために妥協をしていないのが言葉にしなくてもわかる。やっぱり一ノ瀬さんもプロなんだな。
「麗ちゃん、二人の合わせの服ってこれでいいの?」
「最初の予定はこれだったんですけどちょっと違いますね」
「たしかに何か違う気がするのよね」
「弥月さん、ちょっと来てください」
一ノ瀬さんに呼ばれて慌てて二人の所へ行く。
「二人で撮る用に準備していた服があまりしっくり来なかったので代案をだしているんですけど何かアイデアはないですか?」
「二人とも中性的な服を着て2パターン撮るとかはどうですか?」
「なるほど、まず一回撮影して服を入れ替えたパターンも撮るってことですね」
「はい、そんな感じです」
「それ、いいわね」
ジェンダーレス男子を調べたときに、その人達の中には恋人と服や化粧品を共有したりする人がいるというのを見たので駄目元で提案してみたけど以外と良い案だったらしい。
思い付きで言ってしまったけど、これ僕が着ていた服を一ノ瀬さんが着るのか。汗臭かったりしたらどうしよう。
何も考えずに言ったことを今になって後悔してきた。
一ノ瀬さんに面と向かって聞くこともできずに服を交換して撮影を進めたが近藤さんと一ノ瀬さんが納得のいくできにはなっていなかったらしい。
「何かが足りないわね」「惜しいけど違いますね」
一ノ瀬さんは眉間にシワを寄せて何かを考えていた。
「そうだ、弥月さん。私にあなたがいつもやっている化粧をしてください」
「え、何で!?」
「私と貴方の化粧は全然違いますし、並ぶなら統一した方がいいかと。それにさっき言っていたコンセプトなら化粧品を揃えた方が良いと思います。
化粧落として来ますのでちょっと待っててください」
自分の化粧は何回もしたが女の子の化粧をしたことなんてあるわけがないから緊張する。ミスコン優勝者の肌を触るなんて学校でやったらファンに殺されるんじゃないだろうか。
そんなことを考えていると、化粧を落とした一ノ瀬さんが僕の方に向かってきた。
これ本当にスッピンなのか。化粧をしてるときよりも高校生らしいあどけなさがでていてむしろ可愛く見える。
「スッピンを見られるの恥ずかしいので早くしてください」
僕が一ノ瀬さんに見惚れていると手で顔を覆って恥ずかしがっていて尚更可愛く見えた。一ノ瀬さんでもこんな顔するんだな。
「すみません、じゃあ失礼しますね」
いつも通りベースメイクから始めるが、一ノ瀬さんの肌は僕の肌と全然違い柔らかく艶があって驚いてしまった。
一ノ瀬さんは僕の肌を綺麗と言ってくれたがやはり本物の女の子である一ノ瀬さんのほうが肌が綺麗なのは間違いない。
そのおかげなのか自分の肌に化粧するよりも圧倒的に化粧がしやすくてちょっと楽しい。
「何か楽しんでます?」
「そ、そんなことないですよ」
いつも100均のキャンバスを使っている人が1万円のキャンバスに絵を描いたら描きやすくてテンションが上がるのと同じようなものだから許してほしい。
そこから20分くらいかけて化粧を完成させた。
「これはビックリしました。本当に上手いですね」
「ありがとう。逆に言うとこれしかできないんだけどね。最初僕がやったジェンダーレス男子風のメイクは微妙だったし」
そんなことを話していると近藤さんが僕たちに近づいてきた。
「これよ、今すぐ撮りましょ」
そこから何時間か撮影をしてなんとか一ノ瀬さんとの合わせの撮影も終わらせることができた。
「今日はありがとうございました。そういえば、SNSでアップする用のツーショットを撮ってもいいですか。モデルとしてサイトに載るのは一週間後ですけど、SNSで今日から宣伝をしておきたいので」
「全然良いですよ」
安請け合いすると、ろくなことにならないと言うことをこのときの僕はまだ知らない。
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