後輩6-4
これがあのファーストカレントの本社か。
エントランスは白を基調としているが、ただ真っ白というわけではなく清潔感の感じられる空間となっている。エントランスは会社の顔といわれるだけありおしゃれで清廉な社風がよく現れている。
東雲さんが受付で、手続きをしてくれたのでゲスト用の入館証を受けとる。
僕の今の格好はウィッグを外して男の髪型でレディース用の男っぽい服を着ているというなんともちぐはぐな感じになっているが性別はどっちだと思われてるんだろうか。まあ普通にウィッグを着けていなくても女の子に間違えられることはよくあったから女の子だと思われてそうだけど。
「おはようございます。弥月さん」
「あ、おはようございます。一ノ瀬さん」
ナチュラルに僕の芸名の方を呼んでくれたが、僕が呼ばれ慣れていないので驚いてしまった。
「その恰好も似合ってますよ」
他の人が聞いたら服装のことをほめていると思うだろうが、おそらく一ノ瀬さんは服ではなく男の姿の方を言っていると思う。
「では早速ですが今日の仕事の説明をさせていただきます。今回は全身コーディネートの所謂マネキン買い用の服のモデルをしていただくので上下で10組みほど着てもらいます。
服に合わせて化粧や髪形も変えていきます。とりあえず伊澤さんの感性を大事にしていきたいので服に合う髪型や化粧、カラコン、アクセサリーなどの組合せが思いついた順にどんどん自由に着ていってください。
思いつかない物はカメラマンや私が決めていきます。
紹介が遅れましたが今回カメラマンをしていただく近藤さんです」
紹介された近藤さんは身長が180センチほどあり筋骨隆々の怖そうなお兄さんだった。こんな人に写真を撮ってもらうのか。僕みたいな素人がポーズとかとったら怒られるんじゃないか。
「今日はよろしくお願いします。弥月です」
「弥月ちゃんね~、よろしく。
今日は麗ちゃんのイチオシが来るって聞いていたから楽しみにしてたのよ。
麗ちゃんこんな子どこで拾ってきたの」
前言撤回。凄い親しみやすそうな人だった。
「探してくるのにかなり苦労しましたからね」
「たしかに、これはかなりの逸材ね。もうこのまま撮影を始めたいくらいだもの」
「ありがとう、近藤さん。私もそう思います。なのでもう準備を始めましょうか。とりあえずさっき言った通り服の組み合わせはあそこにあるので自由に着てみてください」
「わかりました。準備してきます」
準備するとはいったがこれはかなり不味い気がする。女子高生に擬態するために女装は頑張っているしバレないくらいの完成度になってはいるが、ジェンダーレス男子の恰好に慣れてるわけではない。
とりあえず事前にcoocle先生で調べたジェンダーレス男子のモデルっぽい化粧とカラコン、アクセサリー類をしてみようかな。
「おお~」
「かっこいい」
一ノ瀬さんとカメラマンの近藤さん以外のスタッフは僕が更衣室を出たのを見てかなり良い評価をくれた。
そうこの二人以外は。
「麗ちゃん、これでいいの?」
「すみません、近藤さん。まだ準備ができていないみたいなので休憩していてください」
「オッケー、ゆっくり準備して良いわよ」
一ノ瀬さんは僕を引っ張り誰もいない外階段の方に連れ出した。
「伊澤さん、真面目にやってください。先輩の良さが完全に死んでます」
「真面目にやってるよ。僕なりにジェンダーレス男子のことも調べたし、それに似せたつもりなんだけどどこが間違ってるの?」
「全てが間違っています。他のレベルの低いモデルに合わせてどうするんですか」
「いやいや、仮にもプロのモデルを参考にしたんだけど」
「ちゃんと勉強してきてくれたのは嬉しいですけど、そんな付け焼き刃の知識よりも 先輩が退学にならないために頑張っている努力の方を出してほしいです」
たしかにそうかも知れない。一ノ瀬さんはレベルが低いと言ったが参考にしたのはプロのモデルだ。その人たちもモデルになるために並々ならぬ努力をしてきてその形に行き着いたものだろう。それを真似してもその人を越えられる訳がないし並ぶのすら無理だろう。
それよりも僕が女子校に転校してからやってきたことを出し切った方がまだマシになるかもしれない。
「一ノ瀬さん、ごめん。ぼくが間違っていた気がする。東雲さんを一時間だけお借りしてもいいですか?」
「ええ、良いですよ」
僕と一ノ瀬さんはスタジオに戻り一ノ瀬さんが東雲さんをこちらに呼ぶ。
「すみません。東雲さん。僕一人だと集めるのが難しくて」
「いいえ、何でも言って下さい。何が必要ですか?」
僕はスマホを取り出して化粧品のリストを東雲さんに見せる。
このリストは今まで僕が女装で使った全ての化粧品のリストと友達との話題に出そうな化粧品やアクセサリーをピックアップしたものだ。
「この化粧品かそれに近いものを全部集めていただけませんか」
それから10分程で東雲さんが全ての化粧品やアクセサリーを集めてきてくれた。会社内にいくつもの化粧品があるとはいえ的確にこんなにはやく集められるものなんだろうか
でもとりあえずこれで準備は整った。
僕はジェンダーレス男子がするような個性的なものではなくていつもの化粧をすることにした。ほかのアクセサリー類もアクセントに少しだけ付ける程度にしてほぼいつも通りのままの姿で出ていくことにした。
「これね」「これですね」
どうやらこっちであっていたらしい。
一ノ瀬さんと近藤さんのオッケーが出てやっと撮影が始まった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます