後輩編6-1
「ミスコンと生徒会長当選おめでとうございます!!」
「ありがとう!」
いつもどおり寮の食堂で夜ご飯を食べているが今日は僕の生徒会長当選と神無と雪さんのミスコン祝いもかねていた。
そのため普段はあまり揃わないが珍しく姉さんと寮生が全員集まっている。
姉さんが一緒にご飯を食べているからなのか花宮さんのテンションが高い気がする。
「この寮からミスコンが二人も出るってすごいですよね。流石十川さんと天野さんです」
「確かにすごいことね。でも去年はミスコンが3人いたのよ」
姉さんは淡々と言っているが寮生だけで全学年のミスコンを独占してたってかなり凄いことだよな。
「去年の三年生の人もミスコンとってたんですね」
「ええ、人気があってとても美人な先輩だったわ」
雪さんが懐かしそうな表情で花宮さんと話している。
「そうなんですね。ちょっと会ってみたいです。でも私が寮にいるうちはもうミスコンの全学年制覇はできないですね」
雪さんは卒業してしまうけど来年も神無と花宮さんはいるし、新一年生次第ではある気がするんだけどなぜだろう。
「なんで?花宮さんだってとれる可能性はあるでしょ」
「伊澤先輩、本気で言ってます?多分私の代は三年連続麗ちゃんがとりますよ」
「あー、麗ちゃんって一ノ瀬さんのことっすよね。確かにめちゃくちゃ美人っすもんね。花宮さんは一ノ瀬さんと仲良いんすか?」
五條さんが口にご飯を頬張りながら話に加わってくる。
「はい、かなり仲が良いですね。まあ私も麗ちゃんもそれ以外の友達はいないですけど」
なんか今とてつもなく悲しいことを聞いた気がする。
でも二人とも友達ができないというよりは興味がないから馴れ合わないというほうが近いんだろうな。
「花宮さんも一ノ瀬さんも広く浅くより、狭く深くの友達付き合いのほうが好きなのね」
「はい、そうかもしれないです」
姉さんに言われ、花宮さんは嬉しそうに微笑んだ。
その後、しばらく話しながらご飯を食べていると急に雪さんが、僕に話を振ってきた。
「そういえば、優。明日一ノ瀬さんと会うの?
「ええ、その予定です」
「なんでそんなことになってるんですか?」
花宮さんは心底驚いたように、僕の方を見ていた。
「ミスコンが終わった後に一ノ瀬さんから明日会おうと言われてね」
「麗ちゃんは人に興味をもつタイプじゃないのに珍しいですね。何の用なんですかね?」
「今日会ったばかりだし、そんなに重要な用事でもないと思うよ」
この時の僕はわざわざ先輩を放課後に呼び出すなんてことはよっぽどの話がない限りはしないということに気づくことができなかった。
放課後になり一ノ瀬さんと会う場所に向かう。
朝、下駄箱に手紙が入っていて、そこには校舎裏に来て下さいと書かれていた。そこは雪さんがvtuber活動をしているのを聞いてしまった場所であまり僕にとっては良い思い出がない場所だ。
僕が校舎裏に着くとすでに一ノ瀬さんがいた。
「伊澤先輩、時間を作ってくださってありがとうございます。昨日話してもよかったんですけどやっぱり証拠を掴んでからのほうがいいと思って今日にしました」
証拠?なんのことだろう。20ページくらいあるレポートみたいな物を持ってるけどこの事かな。
「伊澤先輩って男性ですよね?」
あまりに当然のように言ってくるので思わずそうだよと言いそうになる。
一瞬、頭の中が真っ白になりかけたが、なんでもいいから誤魔化さなければ。
「た、確かに自分の事を僕って言ったり口調も男っぽいけど女の子だよ」
「一応、うちの会社専属の調査会社に頼んで裏も取っておきました」
手にもっていた資料を僕に渡してくる。証拠ってこれのことか。確かに家族構成や僕の転校前の高校や中学なども調べられている。前の高校が男子校なので言い逃れのしようがない。
そもそも一ノ瀬さんはなんでこんなことを調べようと思ったんだ。確かに僕の個人情報を調べれば男と簡単にばれるがきっかけがないと調べようとも思わないはずだ。
生徒会長の時は裸を見られるという分かりやすい原因があった。
でも今回は何が原因なのか全く心当たりがない。
「な、なんで僕が男ってわかったの?」
「歩き方です」
「は?」
「歩き方です」
僕は女子校に入る前に、母さんに女性らしい仕草や立ち振舞いを叩き込まれている。歩き方でばれるはずがない。
「伊澤先輩の仕草は完璧です。でも普通の女の子よりも女らしすぎるんです」
「どういうこと?」
「私は仕事で女装をしているモデルの人をたまに見るんですけどあなたはその人達に近いです。意識して女の子の仕草をやりすぎるせいで普通の女の子よりも女らしさが出て違和感が出てしまうんです」
なるほど、さすが本物のモデルだ。僕の付け焼き刃の女性っぽい歩き方なんて簡単にばれていたのか。それでも昨日あったばかりで生徒会選挙で登壇しただけでバレるなんて考えもしなかった。
雪さんの時はなんとかなったがそれは向こうにとって得になることがあったからだ。
それが一ノ瀬さんには全くない。日本有数の大企業の社長令嬢で本人もモデルとしてすでに活躍している。ミスコンの賞品も断っていたし、そんな人に出せる交換条件なんて何があるというんだろう。
「さて、ここからが本題です。私はあなたの人生にさほど興味がないのですが、このままばらされると困りますよね?」
「実は今、高校生のジェンダーレス男子のモデルを探していまして、なってくれませんか?なってくれるなら私は誰にも言わないです」
「ばらさないでくれるなら何でもやるけど、僕がモデルなんてできるの?しかもジェンダーレス?」
彼女は何かのスイッチが入ったように目を輝かせて話し出した。
「間違いなくできます。ジェンダーレス男子というのは、性別にとらわれない格好を好んだり、化粧やカラコンなどもする中性的な人の事を指します。
モデルの業界は綺麗な人や可愛い人など色々な美貌を持った人はいますけど男の子で伊澤さんほど綺麗な人は見たことがないです。
美人が多いこの学校でも5本の指に入るほどですし、男子でありながら女子校に通っていて、ほとんど誰にもばれないほどの女子力、中性的な顔、女の子も嫉妬する程の肌の綺麗さ。
しかも化粧もご自身でやっているんですよね?他のジェンダーレス男子の人は女性よりはやはり化粧は下手です。上手い人も何人かはいますが、自分の色や個性を強く出す人が多いので、伊澤先輩のように女の子の様な化粧をできる人はいません。まさに伊澤先輩はジェンダーレス男子のモデルになるべくして生まれた人です」
早口と圧が強過ぎてあまり理解することはできなかったが今までの人生で間違いなく一番褒められたということはわかった。
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