生徒会長編5-10

急に生徒会長の声色が変わり、蓮川さんを睨み付ける。


「ご、ごめんなさい」


生徒会長の目付きが恐いのか、怒られて悲しいのか蓮川さんは青ざめて涙も出ないようだった。僕でもあの威圧感で来られたら恐くて声も出せないかもしれない。


「いいえ、私こそ言い過ぎたわ。でもさっきの演説も上手だったし、才能を言い訳にしなければあなたはもっと色々なことができると思う。だから頑張りなさい」


生徒会長の優しい言葉に今度は泣き出した。


「ごめんなさい。本当はわかってたけど、認めたくなくて…」


泣いていた蓮川さんを生徒会長はただ優しく抱きしめていた。


それからしばらく経ち、蓮川さんは泣き止んで教室に戻った。


蓮川さんの騒動が収まり、一ノ瀬さんの方に向かう。


「一ノ瀬さん、さっきはありがとう。一ノ瀬さんが割り込んでくれなかったら僕は蓮川さんにかなりきつく怒っていたと思う」


「いえ、そんなにたいしたことはしていないので」


「ありがとう。そういえば、僕に用事って?」


「ちょっと気になったことがあったので聞こうと思ってたんですけど今はやめておきます。明日の放課後空けといていただけますか?」


「ええ、いいですよ」


「ありがとうございます。それじゃあ失礼します」


彼女は一礼して教室に戻っていった。

何の話があるんだろう。彼女とは初対面だったと思うんだけど、先程までと違いやや楽しそうな声色になっていたことが少し気になる。


「伊澤さんちょっといいかしら」


僕が一ノ瀬さんのことを考えていると、生徒会長が何とも言えない表情で話しかけてきた。


「とりあえず当選おめでとう」


「ありがとうございます。生徒会長もミスコンおめでとうございます。あと、ミスコンの賞品を生徒会の活動資金に充てていただいてありがとうございます」


「別に気にしないで。元からまた貰えたらこうするつもりだったから。それよりもさっきの蓮川さんとの話だけど」


言いづらいことを言うかのように生徒会長は僕に聞いてきた。


「はい、先程はすみません、騒ぎを起こしてしまって」


「そんな騒ぎになってなかったから大丈夫よ。あなたが怒る直前で一ノ瀬さんが割り込んでくれたおかげでもあるけど。それより、あなたが放送演説の時と今回怒ったのは私が馬鹿にされていたからよね?」


「いいえ、100%僕自身のために怒りました。生徒会長はあれを面と向かって言われても多分怒らなかったと思います。でも僕が生徒会長の努力を否定する言葉を許せなかったから怒った。それだけです」


生徒会長の顔が急に赤くなり、僕の耳元に近づく。


「こんな格好なのに、意外と男らしいところあるね。怒ってくれて嬉しかった」


周りの生徒には聞こえない小さい声だったが耳元で生徒会長の素の綺麗な声で言われ、僕も顔が真っ赤になった。


流石に恥ずかしかったのかお互いすぐに離れて少しの間沈黙が流れた。

沈黙が耐えきれなかったのか、生徒会長が口を開いた。


「そういえば、あなたって私のことずっと生徒会長って呼んでいたでしょう。来月からはなんて呼ぶつもりなの?」


「元生徒会長と呼ぶつもりでした」


「じゃああなたのこと生徒会長って呼ぶわよ」


ジト目でこちらを見てくる。流石に生徒会長に生徒会長と呼ばれるのは抵抗がある。


「それはちょっと嫌ですね」


「そうよね、じゃあこれからは名前で呼びなさい。私もあなたのことは呼び捨てで呼ぶから。これがミスコンの時に言ったお願いよ」


「わかりました」


壇上でお願いを聞いてもらうと言われた時には、どんな無茶振りをお願いされるのかと思ったけど呼び方を変えるだけなら全然問題は無い。むしろあれだけ練習に付き合ってもらったのにそんな事だけでいいのだろうか。


「じゃあ同時に呼ぶわよ。せーの」


「天野様」「優」

再び沈黙が2人の間に流れた。


「ぶっとばすよ?」

「すみません。上の名前ってことかと」


「そんなボケいらないわ。しかもなんで様付けなの!?」


「蓮川さんとかが天野様って読んでいるのでつい」


「十川さんは普通に私のこと名前で呼んでいるじゃない」


「神無は誰に対してもそうじゃないですか」


「まあそうだけど…じゃあさん付けでもいいから下の名前で呼びなさい」


「はあ、わかりました。雪さん」


「よろしい」


僕が名前を呼ぶと彼女は素の時しか見せないどや顔をした。


「あんな天野様初めて見ました」

「お可愛らしい」


話に集中していて完全に忘れていたけど体育館で話していたんだった。

雪さんも声は学校モードだが話し方が素になっていたし。


「あんた達、縦ロールちゃんとの言い合いの時よりも目立ってるわよ」


驚いて横を見ると副会長が呆れたような顔でこちらを見ていた。


「朱音うるさい!私たちもそろそろ戻るわよ」


「はいはい」


副会長の手をひき帰るのかと思ったら、僕のほうを振り向いた。


「とにかく、これからが忙しくなるんだから頑張りなさい、優!」


「はい、頑張ります。任せてください」


雪さんと副会長は軽く微笑んで教室に戻っていった。


最初は交換条件で嫌々、生徒会長に立候補したが今は雪さんの後継として恥じないような生徒会長になりたいと心の底から思った。

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