おうぎを舞いし染の運命 二十二
仁の区画、漆黒町の
「
「はい。『雪芒』の長として『雪芒』は不要だと判断しました」
「『雪芒』を守る為?」
「『雪芒』にもう守る価値はありません」
「嘘つきだねえ~。『雪芒』を守りたいから、
「私にはもう関係のない娘ですので、どんな状態になっていようがどうでもいいです」
「あっはっはっ。はい。嘘つきちゃん。関係ないって思い込もうとしているのが見え見えです。最初から最後まで後悔だらけ。ああしなければよかったこうしなければよかった。で。今回もまた。『雪芒』から、家から追い出さなければよかったって後悔する。だから、わしが国王の特権を使って、氷月を『雪芒』に戻しておいたから」
「………そうですか」
「あらら。びっくり。余計な事をするなって怒鳴ると思ってたのに」
「どんな状態になっていようがどうでもいいですと言ったばかりですが?」
「ふ~ん」
錦秋は冷厳な表情を崩さない雪晶から雪晶の湯呑を見た。空っぽな自分の湯呑に反して、まだ並々と緑茶は残っていた。一口も含んでいないのだから当然と言えば当然なのだが。
「それ。貰っていいかい?どうせ冷めても飲むつもりだろうけど。温かい内に飲んでやりたいからさ。貴様が飲むってんなら、勿論遠慮するけど?」
「どうぞ」
雪晶は茶托に乗せたまま湯呑を錦秋の方へと押し出した。感謝する。錦秋は片手を上げてのち、両の手で包み込んだ湯呑を口に付けて、緑茶を数回に分けて小さく飲み込んで、無言で飲み終えたのち、静かに湯呑を茶托に乗せて自分の湯呑の横に並べた。
「『扇の舞』。わしと
「………命令ならば従います」
「うんそう。命令。じゃ。明日から特訓だから。逃げないでね。あ。見送りはいらないからね~」
立ち上がった錦秋に続いて立ち上がった雪晶はそう言われてしまったので、錦秋が部屋から出て行くのをその場で見送るだけに留めたのち、視線を小さく下げて、暫くの間、空になった湯呑を見つめ続けたのであった。
(2024.11.17)
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