第26話 一番大切なこと

 いくら信頼し合っていても、仕事上の関係であることは変わらないだろう。それに比べて、私は妻という立場だ。仕事と家庭、その差はかなり大きいはずである。

 そのため、ラルリアさんが難しい質問だと思うのは当然だ。そもそも、観点が違うのだから、メイドとして答えられるわけはない。


 どうやら私は、少し考えが足りなかったようだ。

 この質問は、ラルリアさんにも難しいものである。


「すみません、どうやら、私は少し考えが足らなかったみたいです。メイドと妻では、大きく違う。そんなこともわかっていませんでした……」

「いえ、問題ありません」

「ですから、意見だけでも聞かせてもらえますか? こうしたらどうだという、曖昧なものでもいいので……もし思いつかなければ、それでもいいので」


 そこで私は、ラルリアさんにそう言った。

 明確な答えをもらうことは、できないだろう。だが、意見ならもらえるかもしれない。

 ラルリアさんは、とても聡明な人だ。そのため、意見だけでも、私にとってとても参考になるだろう。


「意見ですか……この問題は、正直私にもわかりません。そもそも、明確な答えがある問題という訳でもないしょうから」

「明確な答えがない……確かに、そうかもしれませんね」


 ラルリアさんは、私にそのようなことを言ってきた。

 確かに、これは明確な答えがない問題なのかもしれない。


「ですが、サフィナ様も悩んでいるようなので、とりあえず私の意見を言わせてもらいます」

「あ、はい……」


 しかし、それでもラルリアさんは意見をくれるようだ。

 本当に、ラルリアさんには色々と苦労をかけてしまう。


「とにかく、リンドラ様を思っていれば、それでいいのではないでしょうか」

「リンドラ様を……思う?」

「はい。サフィナ様が、リンドラ様を支えたいと思う気持ちは、とても尊いものだと思います。その思いを忘れなければ、きっと大丈夫だと思います」


 ラルリアさんの意見は、そのようなものだった。

 リンドラ様を支えたいと思っていればそれでいい。その意見は少し抽象的なものだった。

 しかし、考えてみれば確かにそうなのかもしれない。私が、リンドラ様を支えたいと思い、何か行動していく。それでいいのだろう。


「ありがとうございました。私、この思いを忘れないようにします。きっと、それが一番大切なんですよね」

「はい、少なくとも、その思いを忘れなければ、サフィナ様は間違った行動をしないと思います」


 結局、明確にどうすればいいのかという答えは得られなかった。

 だが、そもそも明確な答えを求めたのが間違いだったのだろう。

 大切なのは、リンドラ様を支えたいと思うことそのものなのだ。その思いを忘れなければ、私は間違った行動をしないはずである。

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