第19話 お礼を言うべきこと

「あ、そういえば……」

「うん? どうかしましたか?」


 そこで、私はあることを思い出した。

 リンドラ様に、お礼を言っておかなければならないことがあるのだ。


「ラルリアさんに、私の様子を見るように言ってくれていたのですね」

「ああ、そのことですか」

「ありがとうございます。おかげで、無理をしないで済みました」


 リンドラ様は、私が仕事で無理をしないように取り計らってくれていた。

 その優しさが、私はありがたかった。そのため、お礼を言わなければならなかったのだ。


「別に、特別なことではありませんよ。あなたを気遣うのは、婚約者として当然のことです」

「リンドラ様は、いつも謙遜しますね」

「いえ、別に謙遜している訳ではないのですが……」


 私の言葉に、リンドラ様は謙遜していた。

 いや、本人としては謙遜のつもりはないのだろう。

 そういう所も、リンドラ様のすごい所だ。自身の行いを、当然だと思っている。それ程に、リンドラ様は人間ができているのだ。


「……それにしても、よく私が休まないとわかりましたね? 何か、理由でもあるのでしょうか?」

「ああ、それはわかりますよ」


 そこで、私は一つ疑問に思った。

 どうして、リンドラ様は私が手を止めないと思ったのだろうか。

 その疑問に、リンドラ様は少し笑っていた。わかって当然という態度だ。一体、どういうことなのだろう。


「サフィナ様は、そういう性格です。今まで接していれば、簡単にわかりますよ」

「簡単にわかる? そうなのでしょうか……?」

「ええ」


 どうやら、私の性格は簡単にわかるものだったらしい。

 そんなにわかりやすかったのだろうか。なんだか、少し恥ずかしい。

 しかし、同時に嬉しくも思った。リンドラ様が、私のことを理解してくれている。そのことが、とても嬉しいのだ。


「サフィナ様、少しいいですか?」

「え?」


 そんなことを考えていると、リンドラ様が私を引き寄せてきた。

 私の体が、リンドラ様にしっかりと抱きしめられる。


「リ、リンドラ様、急にどうしたのですか?」

「サフィナ様、無理をしてはいけませんよ」

「え?」

「あなたの体は、大切なものなのですから、大切にしてください」


 困惑する私に、リンドラ様はそのように言ってきた。

 どうやら、私に注意するために抱きしめてきたらしい。

 恐らく、私が大切だと表してくれているのだろう。

 それを理解した瞬間、とても嬉しくなってきた。リンドラ様は、私のことをとても大切に思ってくれているのだ。


「リンドラ様……」

「サフィナ様……」


 私は、リンドラ様に体を預けていく。

 リンドラ様の優しさが、その温かさから伝わってきた。その優しさに、体を預けたくなったのだ。

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