第8話 成長期カモン!





 一か月間、俺は黒の森をさまよった。

 出口と白色を探す為に。

 命は取らないとの発言の通り、食料と健康診断を与えられながら。


 しかし無情にも、どっちも見つけられないままに月日が流れて行った。


 三年後。

 黒の森の影響なのか、成長期が遅れているだけなのか。

 少年から青年へと成長しているはずの俺の身体はちっぽけなまま。

 けれど、身体能力だけは格段に上がっているようで、ユニコーンさんたちと並走することさえ可能になった。

 今。

 俺は最初に話しかけてきたユニコーンさん、シダイと共に黒の森からの脱出を試みることにした。

 紫の靄に囲まれているシダイは表向きは魔法を反対しているが、その実、俺に魔法を取得させたいのだそうだ。

 闘いの前に根元から折れてしまった長く鋭く丈夫な角の再生の為に。

 シダイには七体の好敵手が居るそうで、成獣になったら闘い合おうと決めていたらしい。

 成獣になるまではあと、十年はあるそうだ。

 その間にどうにかしたい。と、並走しながら話してくれた。


『おまえが魔法を悪に使おうとしたら、俺が蹴り殺せばいいだけだしな』


 紫の靄に囲まれているのでまったく表情など見えないが、すごく荒々しい鼻息からして、すごく凶暴な顔をしていたに違いない。


 正直、魔法がなければ、このまま黒の森に居ついてもいいと思った時もある。

 食料はくれるし、健康診断は受けさせてくれるし、構ってもくれるので、心身共にずっと健康体のまま過ごせていたのだ。

 出入り口は見つからないし、白も見つからないし、諦めてしまえばこの地ほど心地よく過ごせる処は。まあ、他にもあるけど。心地よく過ごせる一つに数えられていた。

 このまま野生児として生きるのも悪くはないのでは。

 けれど。

 どれだけ月日が流れようと、俺の魔法への、あいつへの情熱は消えはしなかった。


 理屈を考えさせる余地なく、ただ、すごいと感激させたい。






「小童。準備はいいか?」

「おう」


 紫の靄化しているシダイの上に跨っている俺は、ふわふわそぼそぼみょいみょいしている紫の靄を掴んでいた。

 何でも、出入り口はユニコーンさんたちしか見えないようで。

 通りでいくら駆けずり回っても見つからないはずだ。


「でも。俺を勝手に連れ出したら、村八分にされるんじゃないか?」

「強さと速さがすべての世界だからな。帰ってきた時に両方備えておけばいいだけだ。文句は言わせん」

「シダイ」


 ひょーーー。かっけーーー。

 惜しむらくは紫の靄に隠されてその凛々しい顔が見えないことだけだ。


(すまねえ、シダイ。必ず魔法取得しておまえを紫の靄から解放させてやるからな。まあ、俺にしか靄は見えてないんだけど)


「行くぞ」

「おう」


 疾風迅雷の如く、低く駆け飛ぶシダイの上でもろに浴びる風圧に身体を大きく揺らしながら、真昼間に俺たちは黒の森からの脱出に成功したのだ。

 意外にもあっさりと。






 そうして久々に下界、じゃなくて、元の世界に、でもないけれど、慣れ親しんだ世界に戻って来た俺は、気のせいか、呼吸しやすい空気をもっと満喫しようと、大きく腕を広げて、めいっぱい空気を身体に取り込もうとした時だった。


「へっ」


 俺が魔法で感激させたいあいつが俺たちの前を横切ったのだ。

 空に浮かした透明タブレットから、俺たちを一瞥して、すぐさま前を向いて、ゆったりとその場を立ち去って行った。

 のんきにお馬さんに乗って遊んでいい御身分ですねえ。

 と、蔑みに蔑んだ視線だったし、ひょろかった身体が青年に相応しくほどよく筋肉がついて背も伸びていて、心なしか顔もシュッとしていた。


(キエェェェェェェェェ)


 俺の成長期カモン!











 黒い森にて。


「選別はどうだった?長」

「終わってはおらぬ。選別中だ。シダイがこれからも共にする中で判断する」

「だが、出ていくことを赦したということは、少しは見込みがあるんだろう?」

「黒い森を受け入れていたからな。少しは」

「莫迦弟子を鍛えてくれて感謝する」

「ふん。これで終わりにしてほしいものだ。魔法など。消え去るべき代物なのだから」








(2021.9.30)


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