第17話
りんことレモンは学校に向かう道を歩きながら、ずっと学校にフクロウを連れて行くことの是非について議論していた。
どうして女子というのはこうも結論の出ない話をするのが好きなんだろうか。
俺は2人の会話をあくびをしながら聞いていた。
それにしても、さっきはビビッたね。
レモンとかいう子は俺のことが見えるのかと思っちゃった。
1人でも大変なのに、もう1人救世主がいたらこっちの体が持たない。
そろそろ学校に着くなあと思っていると、突然、背後から大きな声が聞こえてきた。
「ハハハハハ、あいかわらずにぎやかだねーッ!」
振り返ると、2メートル近い長身の男子生徒が立っていた。
「おはよう、ブラン」
りんこが挨拶すると、ブランと呼ばれた男子生徒はまたしても大きな声で、
「おはよう、りんこ!! おはよう、レモン!!」
と挨拶を返した。
その大声にびっくりして、りんこの帽子の中でアモンが飛び跳ねる。
「いま、りんこの帽子、ジャンプしなかった?」
かつてネフィリムと言われた巨人を彷彿とさせる巨体をぬぅと近づけてりんこの帽子を覗き込むブラン。
「き、気のせいだよ」
りんこは慌てて帽子を押さえる。
どうやらアモンのことはレモン以外には秘密にしておきたいらしい。
「それよりも、聞いたか? 巨人の話」
ブランは歩きながら話題を変えた。
「巨人?」
「中央広場のある森の中で3メートルくらいの巨人を見たってヤツがいるらしいんだが」
ブランは目をキラキラさせながら言った。
「えー、きょ、巨人を見たって……そっそれはすごすぎます。でも本当かな〜私もみたいなそういうの」
「りんこ、すごい食いつきだな。流石おたくという感じだな……」
ブランもやや引き気味……。
「いや、まあ、そんなに急に食いつかれても本当かどうかまだ分からないただの噂だけどな」
「いえ、巨人である以上はその真相ワクワクしないわけがない!ねえレモン?」
とりんこが隣のレモンに同意を求めると……。
レモンはお腹を押さえながら真っ青な顔をしている。
「どうしたの? だいじょうぶ?」
りんこが心配そうに尋ねると、レモンは引きつった笑顔で、
「だいじょうぶよ。先に行くわね」
と言って不自然に腹部を押さえながら走り去っていった。
「レモン、まってぇ~」
後を追うりんこ。
「おい、待てよ」
俺もりんこを追いかけることにした。
最後にちらっとブランを振り返った時、彼の顔には寂しそうな表情が浮かんでいた。
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時として人間の行動というのは不可解だ。
教室に入ると、レモンはウソのようにスッキリした表情で座っていた。
「レモン、だいじょうぶなの?」
りんこが心配そうに声をかけると、レモンは余裕を画に描いたような顔で答えた。
「ええ、もう平気よ」
「そう。よかった。急に行っちゃうから心配したんだよ」
バベルの塔の救世主はホッとして笑顔を浮かべた。
正直、俺もホッとしていた。
レモンを追いかけて走っている時、りんこが何度か転びそうになったからだ。
こいつのHPは1だから、きっとコケただけで死んでしまいかねない。
さて、と。
授業が始まってしまえば、俺はほとんどやることがなくなる。
教室では命を落とすような危険もないだろうし、知恵の実を食べさせるタイミングが来るとは到底思えない。
ひさしぶりに地上界での自由を満喫させてもらおうと、校内をブラブラすることにした。
天使には学校はない。
誕生した時にはすでに天使としての知識を身につけ、先輩の指導を受けながらだけれどもいきなり現場に放り込まれるからだ。
究極のOJT、オンジョブトレーニングだ。
だから、ちょっと「学校」というものに憧れる。
みんなで机並べて、先生の話を聞いて、給食の時間はみんなとメシを食い、放課後は部活動に明け暮れる。
ザ・青春って感じじゃん。
俺には青春なんて無縁だからなあ。
ラジエルに怒られ、ラジエルに叱られ、ラジエルに呆れられ……。
あーあ、なんかむなしくなっちまったな。
教室に戻るとするか。
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そして、事件はその日の昼休みに起こった。
つづく!!
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