第5話

大空を舞う。


 縦横無尽に空を駆け巡る。


 それだけで俺の心は躍った。


 なんだかんだで地上界が好きだ。


 いい香りに満ちている天界と違って、地上界はいろんなものの匂いが入り混じってちょっと臭いけど、それも含めて俺は地上界が好きなんだと思う。


 おっと、天使が地上界に強い憧れを抱くことは禁じられているんだっけ。


 天使になりたての頃、ラジエルに教えてもらった。


 あまり強く憧れすぎると、天使であることを捨てて地上界に降り、人間として生きることになる。


 それは「堕天」と呼ばれ、天界では最も重い禁忌とされていた。


 なんで人間になっちゃいけないんだろう。


 人間って、みんな、とってもいいヤツで、面白い連中なのに。



 さて、そろそろ地上界が見えてきたぞ。


 最初に目に飛び込んできたのは、広大な砂漠。


そして、そこには白骨化した巨大な生物の死骸が数多く横たわっていた。


かつてネフィリムと言われた巨人族の物だそうだ。


堕天した天使たちが人との間に作った子供、それがこのネフィリム。


ネフィリムは生まれたときは指先ほどだが、どんどんと巨大化し大地を荒らしてたそうだ。


ちなみにその時も神は今回のような鉄槌を下したらしいけど、そういうの聞くと神も忙しいよね…。


だめだ!まただめだ!今度もダメなのかよ!!くっそーっ、とやり直しばっかりして。


ちなみに白骨化したネフィリムは全長にして、小さいのでも20メートル以上、大きいのだと100メートルも超えてるよね…1キロメートル超えとかもいると聞いたけど、ヒュー!考えただけでゾッとするぜ。


さてさてそう言ってる間に、おーっと今回の目的地であるバベルの塔に到着でございまーす。


 いやあ、デカい。デカいなー。


 どのくらいデカいかというと、東京スカイツリーの10倍、いや20倍以上あるかな。


 太さもハンパない。あっちなみに、この話は旧約聖書の時代の話だけど、神の世界では未来も過去も平等。ということで俺もとある昔、東京スカイツリーのある未来を見てるんだよね~。


だから、たとえ話は今後もわかりやすく説明するぜ!


 それにしてもこの巨大さは圧巻だよな~。なんてったって、その中にはあらゆるものが揃っているんだから。


 まあ、言ってみれば、一つの「街」かな。


 住居があり、農園があり、病院や娯楽施設まで、ありとあらゆるものが揃っている。


 しかも、まだ完成していないというから驚きだ。


 確か「ニムロド」ってやつがこれを作ってるんだっけ、どうやってこんな巨大なものつくったんだろ?それにしてもそりゃ、エルダーも危機感を持つよね。


 俺は救世主が通っている私立バベル学園のある第2層に向かった。


 驚いたことに、塔の中だというのに空がある。


 もちろん作りものだが、人工太陽もあって、昼夜がきちんと再現されているようだ。


 今は太陽が真上にあるから、昼過ぎってところだろう。


 これだけの大きな塔だから住んでいる人も大勢いて、当然、学校の規模もデカい。


 さあて、こんだけ広い学校の中でたった一人の「救世主さま」を見つけるというのはなかなか至難の業だぞ。


 どこから手をつければいいのやら……。まあ取りあ合えず登場を決めるか。


こうして俺は、かっこよく人の姿へと姿を変え、スーパーヒーロー着地で大地を踏みしめた。


「ふっ決まったな、これが歴史を変える瞬間だって、あれ??なんだなんだ?」


急に足元がぐらつき始めた。


「わわっじっ地震かよ、わわわわわ!!!」


しかしその地震も直ぐにやんだ。


「ったくなんだよ、こりゃ早くしないとやばいってことじゃないの~?

さてさて、肝心の救世主ってどうやって探せばいいんだよ~、あ~あ…」


 その時、俺はか細い女性の声を聞いた。


「たす……け……て……」


 最初は空耳だろうと思っていたが、何度も繰り返し聞こえてくるので、不思議に思ってあたりを見回すと……。


 赤いベレー帽を被った制服姿の女の子が木の陰に倒れているではないか!


 髪は黒く、肌は白い。


 瞳は透き通るような青。


 目は大きく鼻筋は整い、その下にはちょうどいいバランスで柔らかそうな唇があった。


「君、だいじょうぶかい?」


と駆け寄ろうとして、ハッと思い出した。


 そうだ、俺は天使だった。


 人間には姿が見えないのだ。声も聞こえない。


 つまり、空気と同じ。


 いくら俺が心配して声をかけても虚しい努力というわけ。


 この子には申し訳ないが、誰かがここを通って見つけてくれるという幸運を願うしかない。


「お……ね……が……い……そこの……男の……ひ……と……」


 えっ!?今なんて言った?


 男の人?


 あたりをキョロキョロと見回すが、周囲には誰もいない。


「えっ?俺?」


 自分を指差してその子に聞くと、彼女はコクンとうなずいた。


「はい……変な帽子を被った、青い服のあなた……」


 変な帽子とは余計なお世話だ。


 しかし、どうやら本当に俺のことが見えているらしい。


 えっ?


 えっ? えっ?


 ということは…………。


 この子が「救世主」ってことか!?



つづく!!!

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