第3話

「子供って……ほんとにそれ、大丈夫なのかよ」


「神の決められたことだ。間違いはない」


 あー、はいはい。そうでしょうとも。


 まあ、やるしかないってことだな。


「その者がこれを口にすることによって、力を発揮するとのことだ」


 そう言って、ラジエルが俺に渡したのは、スーパーのレジ袋くらいのサイズの布袋だった。


 中を開けると、青緑色の光を放つ果実が何個か入っていた。果実は地上に生息しているリンゴというものに似ている。


「これは?」


「知恵の実だ」


「知恵の実って、あの……」


 神の知恵の結晶で、万物の根源となるモノ──ということくらいは下級天使にだってわかる。ただ、実物を見るのは初めてだった。


「これをその『救世主』とやらに食べさせればいいんだな」


「そうだ。だが、むやみやたらに食べさせてはイカン。大事なのはタイミングだ。ここぞという時に知恵の実を口にしないと意味がない」


「そのタイミングってのはいつなんだよ」


「それは、お前が決めるのだ」


 キタァーー!!

 やっぱり……。むちゃ振りキタァーッ。


 まぁ、たいてい天使の仕事というのはこういったむちゃ振りが多い。


 俺はノータイムでクールに切り替えした。


「やだ!」


 当たり前だ。だって、そのタイミングを間違えたら、ヒトが滅ぶってことだろ?


 ムリムリムリ。ぜったい、ムリーッ!

 そんな大役、俺みたいな下級天使には荷が重すぎるって。


 後ろの天使たちがざわつく。ラジエルは穏やかに俺を非難した。


「おまえは神のご意思に背くというのか?」


「なんで俺なんだよ。天使なら他にもいっぱいいるじゃねーか」


「おまえは選ばれたのだ。神のご意思は常に正しい」


 俺はため息をついた。ラジエルは俺が「うん」と言うまで延々と説得するだろう。このオッサン、温厚そうに見えて一度決めたら絶対に譲らないのだ。 そう、こういう事を言う時のラジエルの目には“光彩”というものがない。人の意思を捨てまるでマシンのように、命令だけを下す。

 勿論、ラジエルは人では無い天使だ、だが例え話での人扱いはチョクチョク出るので覚えとくように。

 で!俺はどうしたかと言うと。


「わぁーったよ、やります。やればいいんでしょ?で、その『希望』とやらはどこにいるんだよ」


 それを聞いて、ラジエルは満足そうに微笑んだ。ほんっと、食えないオッサンだ。


「私立バベル学園にいる」


 バベル学園? ああ、選ばれた子供たちだけが通うエリート学校ね。


「その者は高等部1年のG組の生徒だ」


 高校1年生ということは15歳くらいか。ちょうど俺の外見と同じくらいだな。それなら話もしやすいだろう。


「よいか。知恵の実は3つしかないので、くれぐれも大切に使うんだぞ。わかったな」


「はいはい」


 ラジエルは「早く行け」というように顎を動かすと、後ろの天使たちに向かって呼びかけた。


「次の者」


 後ろに並んでいた天使が前に出る。


「ちょっ、ちょっと待て! 早く行けってどうやって探しゃいいんだよ!」


するとラジエルはニヤリとして言った。


「”自分で探す“それこそが運命だと言ったらどうするんじゃ?」


それを聞き周りは静まり返った。


「何言ってるんだよ、これは仕事なんだから指示もらえないと動けませーん!」


それを聞いて周りは呆れ返った。

そしてラジエルは重い口を開いた。


「なんとまあ志の低いやつじゃ、


じゃあ、どうしても見つけ方を今知りたいんじゃな?」


「どうしても知りたい!」


「どうしてもじゃな?」


「効率が悪い!!」


「じゃあ仕方がないな...

救世主はな、実は...」


「早く言えよ!!」


「なんじゃその偉そうな姿勢は!

そういう態度だからいつもいつも...!!」


「わーったよ、わーったよ!

俺が悪かったです、早く教えてください!」


つづく!!!

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