バベルの救世主は最後の願いを天使に言った。

サワキエル

第1話

創世記 11章 より


 俺が聞いた話では、ヒトが話す言葉は1種類だったらしい。


 日本語も英語もフランス語も中国語もなく、「ヒト語」という一つの言葉だった。


 だから神はヒトに安住の地を見つけることを許したらしいんだよね。


 ヒトは地上界に住居を作って暮らし始めた。


 最初は木とか石とか漆喰とか、神がヒトに教えた素材で住居を作っていたらしいんだけど、そのうちにもっと丈夫で長持ちする素材を発明したんだ。


 レンガとかコンクリートとかね。


 それで、今までより大きな建物を建てられるようになったヒトは、超巨大な建物を作り始めたんだ。


 そして、その建物は、天界まで到達するんじゃないかって高さになってきた。


 これにザワついたのは、エルダー評議会と呼ばれるえらい天使たちの集まりで、ミカエルという一番偉い天使を中心に、なんでこんなことになったのかと議論して、一つの結論を導き出したんだ。


 その答えとは、


1,彼らは【単一民族】であった

2,彼らは【単一言語】であった


ということなんだよね。


 で、じゃあどうすればいいかということで、神が出した結論というのが、


1,ヒトを【多民族】とする

2,ヒトを【多言語】とする


ということだった。


 確かにヒトは神の意志を超え、発展しすぎてしまったのかもしれないね。


 なんたって、女子高生まで存在したのだから。


※※※※※※※※※※




キーーーーン

    キーーーン



 さっきから耳鳴りが止まらない。


 あたりに立ち込める硝煙の匂い。


 ここはいったいどこなんだろう。


 わたしは誰かに抱えられ、横たわっていた。


 誰なんだろう? 男の人?


 やだ…、どうしよう…。


 逆光で顔はよく見えないけど、いかつい鎧に身を包んでいる。


「つまり、これで人々は再び歩み出すんだ、そうバベルの塔は終わる。

心よりも先に、不安を察した全身が未来への覚悟を教えてくれる」

 

 この人何を言ってるの?


 学校は?みんなは?


「慣れればきっとワクワクするさ!

まあ、今は不安でそれどころじゃないけどさ。

結果として不条理の中、未来は全く不透明!

でもそれが生きてるってこと!」


 意識が遠のいていく。


「おっと、ダメダメ。君はただ呼吸をしてくれればいい。

さあ、吸って〜吐いて〜」


「すーはーすーはー」


 彼の言葉に合わせて深呼吸する。


「そうだ、それにしても俺たちはこれからどうするかな〜」


「わからないの?」


「うん。君の未来を決めるのは君自身だから」


 彼の手は私の血で濡れていた。その言葉を受けて私は答えた。


「生きることより大切なことがきっとあるよ」


「……」


「ねぇ、一つだけお願いを聞いて、それはね……」


 この問いを受け止めるため、深い期待と不安と決意をもって

彼は私の言葉に耳を傾けた。


――――――――――――――――――――――――――


 明るい日差しが差し込む、それは定番の朝日。


 私は女子高生。


 でも今はパンダの寝間着にくるまって、更に毛布にくるまって

目を覚ます事を否定したい気持ちでいっぱい。


 目覚まし時計は抵抗を続ける私に屈服し、もう鳴りくたびれてしまったのだろうか

静かに時を刻んでいる。。


 夢の中にいたあの人誰だったんだろう。

 私…何を言おうとしてたんだろう。


「りんこ〜、レモンちゃんが迎えにきてるわよ」


 階段の下から母親の声がする。


「えっ、ちょっちょっと待って」


 するとちょっと機嫌の悪そうな女の子の声。


「りんこ~、早くしないと学校遅れるよ~」


「レモン、ちょっと待って! あわわわわ」


 こうして私は慌てて身支度を始めた。


うーん、それにしてもあの人いったい誰だったんだろう……。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※


 そしてここからいきなりその「誰」、つまり”俺”の話になる!!


(つづく)







PS.著者:中川裕介 監修:サワキエルより

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