第3話 父 考察
僕の名前は久留美秀人。
父の名前は久留美紀之。
32歳の時に僕を産んだ、腹を痛めなかった方の親である。
久留米の家の長男であり、一人の弟がいる。家業などは特になく、会社を起こそうという気もなかっただろう。友人が経営する自動車整備会社に入社し、昇格も昇給もほとんどないまま、今に至る。
親の人生に然程興味もなかったため、僕は父、紀之の人生を知らない。母親との馴れ初めさえ、僕は知らない。
兄は紀之にとっては真面目に親の言うことを聞く優等生であった。そのせいか、教育の方法は正しいと、そう思い込んだ。
それでいて、兄や僕がいじめられていることに、大して気づいてはいなかった。
仕事をし、ある程度の自由を子供に与える。それが正しい父親だと考えていたのだろう。
家事はほとんどしていなかったように思う。仕事が休みの日に、気まぐれにご飯を作るくらいで、それもチャーハン、カレーライス、ビーフシチューなど、決まった料理しか作らなかった。洗い物もしていなかった。
休日の多くは自身の趣味に時間を費やしていたように思う。その趣味の一環として、兄や僕、妹に習い事をさせてみたり、日曜大工を手伝わせてみたりしていたように、今更ながら思う。
それが子供たちにとって良い経験になると、本気で信じていたのだろう。
三人目の子で待望の女の子が生まれてからは、妹にばかり付きっ切りで、上の二人には飽きていたようだった。
子供の僕からしたら、父は大して子育てなんてしていなかった。
仕事から帰れば自分の見たいテレビのチャンネルに変え、勉強はやっているのかと聞くだけ聞いてきて、子供たちよりも早く寝る。
自分勝手な人だと、僕は思った。子供を持つという責任を果たしているとは、到底思えなかった。
兄をきちんと育てるのに必死になって、僕は手付かずになり、その間に妹が生まれたせいでそちらばかりになって、流されるまま、生活しているようだった。
子供たちが成人してからは「しっかり働け」とだけ、口だけで、詳しいことはなにもなく、放任している。
ちゃんと育ててやったのだから、働いたら親に返せ、とまで言わないだけ、マシかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます