男が家に帰るとめずらしく彼女が家にいた。

「早かったのね」女が男に言った。

「いつもと変りないよ」男が答える。

 男はふと、彼女はいつもこの時間より遅くに家に帰ってくることに気づく。

 当たり前のことだけれど、気にもしていなかった。そして彼は、この状況に違和感を感じる。

 男は冷蔵庫から冷凍食品を出して電子レンジの中へ。

 そしてボタンを押す。電子レンジがオレンジ色に光り、鈍い音を立てて回転する。

「飲みたければどうぞ」

 彼は缶ビールを開けたあと彼女にそう言った。

「それじゃ、あたしももらおうかしら」

 女が立ち上がる。

 彼はマンションを見上げながら、駅に向かって歩きはじめる。

 ガード下でタバコをふかしている女。まるで娼婦のようだと男は思った。

「今どきそんな女なんているのかい」

 彼女の声が聞こえる。

 行きかう人に紛れて彼女も駅のほうに歩きはじめる。

「どこに行ってたの」女が男に尋ねる。

 男は黙って通り過ぎようとする。

「別れるのはつらいよね」

「あたしもさびしいの」


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