第318話 後衛のライナス

 邪神ルシフォル戦、その後方では出番を待っている者たちがいた。

 ストンリバー神聖国騎士団および魔法騎士団である。

 そこにいるのは騎士たちは全員上級職、勇者か精霊士。

 ストンリバー以外の国であれば確実にトップになれる人材である。


 しかし、この場では上級職は力不足。

 メインで戦っているのは特級職しかいない。

 上級職の者たちは後方で戦いから帰って来た者たちの回復役くらいしかできなかった。


(俺はまた力不足なのか)


 その騎士たちの中でライナスは歯噛みする。

 強さを求め、手が届くと思えばさらにその先が見え、突き進んでもさらなる高みがそびえ立つ。

 そして、その中で自分がもがいているだけで、肝心な時に役に立たない。

 学園対抗試合では大きな成果は挙げられず、神閻馬戦、魔王戦があってもメインで戦うことはなかった。


 勇者になりライナスは強くなった。

 ストンリバー神聖国騎士団の警備部隊に所属し、その中でも、上位層の強さを誇る。

 警備部隊として各地に派遣されたりしても、当然誰よりも強い。

 ただ、それでも邪神との戦いでは力不足。


 ライナスは騎士に助けられ、自分もそうなりたいと憧れて騎士を目指した。

 そして、騎士になったというのに今も守られる方にいる。

 そのことが何より悔しかった。


(俺ならどう戦うか。考えろ、次のために)


 ライナスはそれでも自分の成長のために、これからのために学び、吸収できることを探す。

 これがライナスの強さの源。

 どんな状況でも強くなることを考えられるからこそ、周囲より遅れた状態から今の強さにのし上がれた。


(カイルさん、流石だな。あの盾さばきは今の俺では真似できない)


 ライナスが戦いの中で注目していたのはカイル。

 注意を引いて防御するという地味な役回りだが、ライナスにはただ盾で受けているだけではないことがわかる。

 技の受け止め方、力のそらし方、次の攻撃への繋げ方、どれをとっても最適。

 まるで次の攻撃が読めているかのような動き。

 マルコムが目立っているが、カイルの腕も飛び抜けている。

 特に騎士としてはカイルの戦い方に惹きつけられるものがあった。


 今のライナスにここまでの技術はない。

 それでも、少しでも近づくために観察する。

 悠久の軌跡が加入したことで戦いは安定化し、そうしていられるだけの余裕があった。


(たった五人で邪神を抑えるなんて。その中でもカイルさんは――!)


 その時、ルシフォルの分身が大量に現れる。

 それを見た瞬間、ゾクリとした。

 想定外のことが起こったからか、おびただしい数の魔物という脅威を目にしたからか、あるいは自分の戦いができるという喜びからか。


(第二段階がまさかこんなことになるとは……! やってやる!)


 ライナスは魔物たちを睨み、臨戦態勢になった。

 周囲の者たちも一斉に臨戦態勢に移る。


「魔物が来るぞ! 総員魔法準備!」


 サイラスの声と共に一斉に飛んでくる分身ルシフォル。

 それをライナスたちは魔法を発動する姿勢で待ち構える。


「放て!」


 その号令と共に発動された数百もの『ヘイルブリザード』で、空中が白く染まった。

 勇者が百五十名、精霊士が五十名、さらにエルフ部隊、ドワーフ部隊、魔物軍団の魔法が荒れ狂い、凄まじい威力となる。

 しかし、分身ルシフォルはそれを突き抜けてきた。


(やっぱり倒せないか)


 それは予想通りのこと。

 倒せないことはわかっていたが、大きなダメージを与えたことは事実である。

 ここから接近戦で撃破していくことは決まっていた。

 剣と盾を構えて待ち構えるが、分身ルシフォルは予想外の行動をとる。


(まさか、魔法?)


 分身ルシフォルは接近戦になる前にライナスたちに手を向けていた。

 それはセージからの情報にはない行動。

 分身ルシフォルは特技のみの接近戦タイプのはずだ。

 その予想を裏切り、分身ルシフォルは特級風魔法『テンペスト』を放った。


(しかも特級魔法か!)


 さらに分身ルシフォルはその魔法の中を突き進んでくる。

 風を無効化する『シルフの腕輪』はそんなに数がない。

 ライナスたち後衛部隊は持っていなかった。

 分身ルシフォルに風属性魔法は効かないため『テンペスト』の影響を受けるのはライナスたちだけである。


(こいつら……!)


「グランドスラッシュ!」


 吹き荒れる嵐の中で迎え打つライナス。

 それができるのはガルフの弟子たちが量産した装備のおかげだろう。

 神霊亀戦で得た大量の素材により、勇者部隊には国宝級の装備が支給されていた。


 ただ、嵐の影響をないことにはできず、攻撃は防御されて反撃がくる。

 それを受けたのは魔物軍団の一体、スパークルタイガーの尻尾。

 体は小さいが、高いSTRをもち遠心力を使った攻撃は分身ルシフォルの攻撃を弾くだけの威力を持つ。

 さらにそこを起点に反転し、鋭い爪で攻撃した。


(ここだ!)


 スパークルタイガーの攻撃を防ぐ分身ルシフォルに、ライナスは会心の一撃を叩き込む。

 かなりの手応えを感じつつ、流れるようにつなげる連撃。

 そこで分身ルシフォルは『乱流斬』を発動した。

『テンペスト』の影響がなくなったが剣撃と共につむじ風が起こり視界が悪くなる。


「オールフルヒール!」


 後衛の仲間、エルフ族のユスティーナが回復魔法を使った。

 分身ルシフォルは接近戦になると想定していたので、エルフ族は回復役に回っている。


「グランドスラッシュ!」


 巻き起こる風の中で強引に斬りつけるライナス。

 分身ルシフォルはそれを巧みに防御し、さらに攻撃してきた。

 それを防御するライナスと、その横から尻尾を叩きつけるスパークルタイガー。

 そして、分身ルシフォルがスパークルタイガーを狙えば、ライナスが攻撃役に切り替わる。


(まさか魔物と連携が取れるとはな)


 意外と戦いやすいことに驚きながら分身ルシフォルに『グランドスラッシュ』を発動した。

 魔物とタッグを組むこともそうだが、エルフ族とパーティーを組むなんてことも普通ならありえないことだ。

 周囲で戦う者の中にはドワーフ族や獣族もいる。

 もちろん数の比でみると人族が最も多いが、これだけ多種多様な種族が集まるというのは、ありえないことだと言ってもいいくらいだろう。


(不思議なもんだ。セージはただランクを上げながら好きに世界を飛び回っているだけのはずなのに)


 ライナスはある時聞いたことがあった。

 町にどんどん種族が増えていくのはなぜかと。

 セージはその問いに少し考え、各地でランク上げをしていたらいつの間にかね、と答えたのだ。


「シールド!」


 分身ルシフォルの攻撃を受け止め、スパークルタイガーに攻撃を任せる。

 連携はさらに良くなっていた。


(俺もセージに引き寄せられた一人だから、気持ちはわかるが――!)


 分身ルシフォルの動きや能力がわかり戦い方を理解し始めた時、さらに分身ルシフォルの増援が現れる。


(これは……どんどん追加されていくってことか!?)


 まだ第一波の分身ルシフォルは八割残っている。

 それなのに次に現れたのも百体を超えているように見えた。

 ということは、分身ルシフォルの復活でも補充でもなく追加。


 悠久の軌跡がいくら強いとはいえ、邪神ルシフォルを一パーティーですぐに倒すことなどできない。

 最初に使った全員による魔法攻撃。

 それで大きなダメージを与えているにも関わらず現時点で八割しか倒せていない。

 つまり、このままでは分身ルシフォルは急速に増えていくということだ。


(それはキツいぜ……!)


 誰もが厳しい戦いになるとわかる光景。

 しかし、誰一人として逃げたりはしなかった。

 そして、サイラスが大声を上げる。


「気合いを入れろぉおおおおおお!」


 それは、具体的な指示をするタイプのサイラスにしては珍しい言葉。

 この戦いの厳しさを物語っている。

 そして、気合い、気持ちで戦いが大きく変わることを知っているからこその言葉。


「よっしゃああああ!」


「やってやるぜぇえええ!」


「来いやぁ! グランドスラァァァッシュ!」


「シールドォォオッ!」


 皆があえて声を出して気合いを入れる。

 その声はビリビリと肌で感じられるほどの轟音となり、戦場に響き渡る。

 その声に後押しされてライナスも気合いを入れる。


「シールドバッシュ! グランドスラァッシュ!」


 安定を重視した戦い方を変え、多少被ダメージの増加を許容し、少しでも相手にダメージを与えにいく。

 多少無理をしてでも攻撃重視にしなければ数に押しつぶされるとわかっていた。


(一対一か! 俺は負けない!)


 第二波が加わり、回復役はいるものの、前衛としては半数以上が一対一の戦いになる。

 スパークルタイガーが別の一体と戦い始めたため、ライナスも一対一だ。

 剣撃を見極め、最小限の動きで防御し、わずかな隙を探り、攻撃につなげる。


(いける……戦えるぞ!)


 戦いの中で研ぎ澄まされていく感覚。

 相手の攻撃を一瞬の動きから反射的に読み取り、頭で考える前に動く。

 読み違えれば一気に状況が悪くなる綱渡りのような戦いの中で、ライナスは渾身の突きを放つ。

 その剣は吸い込まれるように分身ルシフォルの首元へと入り、そのままヘルムを弾き飛ばした。


(よしっ! 倒した!)


 ライナスはすぐに隣の戦いの援護に入り、戦いを始める。

 そこで、再び響く盾を叩く音。

 分身ルシフォルが再度召喚された。


(やるしかないっ!)


 ライナスにできることは早く分身ルシフォルを打ち倒すことだけ。

 集中して剣を振るう。

 もっと早く、もっと強く、もっと正確に。

 戦いがライナスを成長させていく。


 それでも第三波が来るとそう上手くはいかない。

 最初は二対一だった戦いから一対一、そして今は一対二になりつつある。

 第三波の分身ルシフォルは一対一で戦える相手がいないとわかると、特級魔法『テンペスト』を発動して仲間を援護し始めた。

 それはライナスも巻き込む。

 視界も動きも制限される中で今までと同じような戦いを続けるのはむずかしい。

 それでも集中を切らさず分身ルシフォルに目を向ける。


 攻撃を避けてカウンターを入れようとした時、ドンッと肩がぶつかった。

 隣で戦っていた獣族だ。

 混戦の中で近くで戦っていたことはわかっていたが『テンペスト』で視界が悪く、お互いの接近に気がつかなかった。


(しまった――!)


 痛烈な一撃を耐えて、追撃を避けるため後方に飛びながら回復薬を飲む。

 そこで気付かないうちに溜まっていた疲労がどっと押し寄せてきた。

 慌てて『千寿の雫』を飲みながら分身ルシフォルの攻撃を剣で防ぐが、一度崩れた戦いを立て直すのは難しい。

 通常なら『ウィンドバースト』で相手を飛ばして仕切り直したいところだが、風属性魔法はルシフォルには無効である。


「飛行魔導船が来たぞっ!」


 その声は希望。

 空中にいるルシフォルのさらに上に一隻の飛行魔導船が飛んでおり、さらにその後ろにもう一隻飛んでいるのが見えた。

 しかし、それと同時に絶望的な状況を知らせるルシフォルの盾を打ち鳴らす音。

 それでもライナスは折れなかった。


(間に合わなくとも、俺はっ!)


「シールドバッシュ!」


 分身ルシフォルによる攻撃の直撃を受けながら『シールドバッシュ』を胴体に叩きつける。


「いくぜっ! グランドスラッシュ!」


 第三波の時点で崩れ始めている後衛組は、第四波が合流すれば総崩れになるだろう。

 飛行魔導船が安全なところに着陸し、仲間が出てくるまでには時間がかかり、それまでは確実にもたない。

 それでも、自分にできるのは目の前の敵を倒すこと。

 少しでも時間稼ぎし、首都への攻撃を減らすのが自分のすべきことだと考える。


「グランドスラアアアアアアッシュ!!」


 ライナスの渾身の一撃。

 その間に分身ルシフォルの第四波が空中に揃う。

 再び百体超えの分身ルシフォルが浮かぶ光景は悪夢だ。


 その時、突如として空中が燃える。

 次の瞬間、分身ルシフォルに降り注ぐ隕石。

 召喚されたばかりの分身ルシフォルに容赦ないダメージを与えていく。


 それは希望の光、職業『魔帝』のセージによるINT6000オーバーの融合魔法『メテオ』だ。

 分身ルシフォルの上を飛んでいた二隻目の飛行魔導船からセージとルシールが飛び出していた。


 さらに先行していた飛行魔導船が戦場の真上に降りてくる。

 そして、そこから飛び降りてくる青いオーラを纏う影。

 ラングドン郡団である。


「デマイズスラッシュ!」


 空を飛ぶ分身ルシフォルを次々に攻撃しながら戦場に落ちるという強引な降り方。

 それらは余裕なく戦っている者たちの目をさえも引くものだった。


「まだ終わってねぇぞ! 気合いを入れろ! 反撃だ!」


 その声に皆、目の前の敵に集中する。


(まだまだやってやる!)


 ライナスもまた援軍の登場に気合いを入れ直すのであった。

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