第317話 悠久の軌跡

 アルヴィンが『テイルウィンド』を使いながらエヴァンジェリンに向かって真っ先に走ったため、カイルはベンへと走る。

 マルコムとミュリエルは空中から降りて物理攻撃するタイミングで攻撃するために移動し、ジェイクとヤナは後方支援に回った。


(アルヴィン、良く見ているな。ベンもだが、まずは特にエヴァンジェリンを休ませた方がよさそうだ)


 着いたばかりだが、見る限りエヴァンジェリンの状態は危険。

 ベンもかなり疲れているだろうことがわかった。

 カイルはベンの前に出て『シールド』を発動する。


「ここまでで攻撃は?」


「していません! 行動は想定通り、能力は五割増です!」


 ベンは周囲に聞こえるよう叫ぶように言った。

 カイルだけでなく他のメンバーにも今の状況を知らせるためだ。


(五割増か。相当強くなっているな)


「ベン、しばらく休憩をとれ」


「でも急に代わるのは――」


「ここは俺に任せろ」


 その言葉にベンは一つ頷いて素直に後方へと下がる。

 セージの情報があるとはいえ、邪神相手に初見で挑むのは厳しい。

 ベンが戦い始めた時は、安定して戦えるようになるまでしばらくかかっていた。

 そのため少しの間は共に戦おうと思ったのだ。


 しかし、ベンはカイルの姿と言葉でその考えをあらためる。

 カイルであれば問題ない。

 そう思わせる力強さがあった。


(さて、邪神ルシフォルの力はどんなものか)


 カイルにとっても邪神ルシフォルは未知数の相手。

 ただ、耐えられないとは思っていなかった。

 ベンとエヴァンジェリンで耐えていたのだ。

 それなら耐えられないはずはないと思えるだけの自負はある。


「来いよ、相手してやる」


 カイルは『ハウリング』によって注意を引くと、盾を構えた。

 邪神に対して『ハウリング』の効果は小さいが、全くないわけではない。

 ルシフォルはカイルに対して剣を叩きつける。

 その攻撃を大盾で匠みに受け流し、次の剣撃を防御。

 軽く防いでいるようだが、そこには幾度となく攻撃を受け続け、改善し続けた努力の結晶がある。


(たしかに強力だな。この間戦った邪神より数段上のようだ。だが、耐えられないほどではない)


 二撃、三撃と受けても半分以上残るHP。

 その時点で耐えられることを確信した。


 カイルが耐えている間にミュリエルとマルコムがルシフォルに攻撃を加える。

 ダメージを確認して弱点となる部分を探すためだ。

 お互いにアイコンタクトを取りながら次々に攻撃を加えていく。


 そして、ルシフォルが再度飛び上がったとき、ヤナが『オリジン』を発動した。

 ジェイクによりバフはかかり続け、回復魔法も用意されている。

 この安定感が『悠久の軌跡』。

 その要となるのがカイルだ。


(戦いに問題はない。ここに来る時、他二体の邪神が倒されたことはわかっている。準備をして飛行魔導船に乗り、ここに来るまでまだ少しかかるだろうが、そう時間はかからないはずだ。この程度の攻撃だと到着までに第二段階になることはないだろう。むしろ、もう少し攻撃を……んっ? あれはまさか?)


 カイルはルシフォルとの戦いを考えながら『七色の魔弾』や『天の裁き』に耐えていると、キィンっと剣を鞘に収め、背中から盾を取った。

 その予備動作は初見ではあるが、セージから聞いたことがある。

 第二段階に移る合図だ。


(まだHPは大きく減っていないはずだ。時間経過で変わるのか? この状況でそれは厳しいぞ)


 さすがにセージでも邪神戦で一時間以上も時間稼ぎをしたことがない。

 セージが知らないということは、当然カイルたちも知らない。

 そして、時間経過で変わるということはダメージなしで強くなるということであり、つまり強い状態になった邪神との戦闘が長引くということだ。


(まさかこんなことになるとはな。セージたちが来てからであれば、いや、まだ俺達が間に合っただけマシか)


 カイルは空中にいるルシフォルを鋭く見つつ、次の行動に備える。

 ルシフォルは剣で盾を打ち鳴らし『聖戦の呼鐘』を発動した。

 それは人族と同程度のサイズになったルシフォルの分身のような魔物を召喚する技。


(これは反則だろ。いったい何体の魔物がいるんだ)


 次々と現れ百を超えるおびただしい数になった魔物に戦慄する。

 セージから召喚してくることは聞いていたが、その数は十三体。

 数が大きく異なっていた。


 そして、魔物の群れは一斉に後衛へと向かう。

 それと同時にルシフォル本体も動きだした。


(後衛は……信じるしかない。俺たちはこいつに集中しなければ)


 ルシフォルは『邪なる審判』を発動。

 後衛のヤナに近づき、剣を振るう。

 その動きを読んでいたカイルはヤナの前で攻撃を受け止めた。

 そして、ルシフォルが間近に迫ろうともヤナは動じることなく『オリジン』を発動する。

 カイルが受け止めるという信頼があるからこその対応だ。


(強い……!)


 カイルのVITで二万を超えるダメージ。

 この場にそのダメージを耐えられる者はカイル以外いない。

 カイルはさらなる追撃を防御しつつ、その想像以上の強さに唸る。


(第二段階でこれか……脅威だな)


 さらにルシフォルはミュリエルの攻撃を盾で防御し『魔晄砲』を発動。

 盾の中心にある宝石のような球体から光が照射された。

 ミュリエルは咄嗟に回避行動を取ったが避けきれず吹き飛ばされる。


 さらにルシフォルは『善悪の翼』を発動。

 翼を使って飛び上がりながら、黒と白の羽根を無数に撒き散らした。

 黒の羽根は斬り裂くように高速で飛来し、白い羽根はふわりと舞って触れると爆発する。

 その発動と共に降り注ぐのはジェイクの『レインアロー』。

 次々に白い羽根を潰していく。


 そこに放たれるルシフォルの『一閃・双飛』。

 第一形態の時より範囲も威力も増した斬撃がジェイクに飛ぶ。

 ジェイクは防御したものの、ぐらりとバランスを崩した。


「お前の相手は俺だ!」


 カイルは再び『ハウリング』を使って注意を引くが、ルシフォルは盾を掲げて『混沌の魔核』を発動。


(厄介な技を……!)


 様々な色の光彩が揺らめく闇の球体が空中に浮かび、周囲の魔法を吸収する。

 この『混沌の魔核』がある間は魔法が使えない。

 特技は使えるが回復魔法が使えないのは厳しい制限だ。


 そして、ルシフォルはカイルへ『一閃・双飛』を発動。

 さらに続けて空中から急降下して『一閃・乱』を発動した。

 その相手はマルコム。

 剣筋がとらえきれないほどの速度で次々に襲いかかる。

 マルコムは避けきれないものは盾で受け流し、後ろに下がった。

 直撃はないもののダメージは大きい。


(ハウリングが効きにくい。もう少し引きつけられるといいんだが、物理攻撃を織り交ぜていくしかないか)


 カイルはヤナに合図を出してルシフォルの正面に向かっていく。

 そして『デマイズスラッシュ』を発動した。

 ルシフォルはそれを避けるようにと飛び上がり『善悪の翼』により白黒の羽根を撒き散らす。


 空中に飛ばれると手が出せない。

 さらに『混沌の魔核』により魔法が無効化されている。

 攻撃手段が限られ、カイルには『ハウリング』を発動してヘイトを貯めるくらいしかできない。


(想像以上に戦いにくい。戦えないわけではないが……)


 カイルは慌てずにルシフォルを見据え、攻撃の機会を待った。

 その時『混沌の魔核』にヒビが入り光があふれる。

 突然カッと全方位に照射される光。

 それにより大ダメージを引き起こす。

 その瞬間にジェイクの『オールフルヒール』、ヤナの『オリジン』が発動した。


(ダメージは与えられている。第三段階に移る前になるべくダメージを与えておきたいんだが……)


 それに対してルシフォルは『聖戦の呼鐘』を発動。

 さらにルシフォルの分身が増える。


(まだ戦いは長くなるというのに……! これを止める方法はないのか!)


 その時、後衛から怒号のような声が聞こえてきた。


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