第206話 強襲・神鳴鳥
「セージ! どうする!?」
ルシールの言葉にセージは撤退と言いかけて言葉がつまった。
逃げても追われ続ける可能性がある。
そうなると、足場の悪い岩場を下りながら戦わなければならない。
それならここで戦った方がマシだった。
(逃げられないけど、どうやって戦う……?)
神鳴鳥は今までに登場したことがない魔物である。
セージはFSの知識から今まで出現した魔物の九割は知っていた。
魔物の弱点、攻撃方法、能力がわかっており、適した戦い方が瞬時に判断できる。
そして、残りの一割も知識からある程度想定できる場合が多い。
しかし、ここまで強力な未知のボスとなると別だ。姿は神命鳥と似ているが、明らかに属性が変わっており、属性が変われば技が全く異なる。
しかも、今は耐火属性と耐魔法の装備で、雷属性に対応していない。
(どうしようもないぞこれ。神炎の息吹みたいな技があったら終わる)
答えられないセージの強ばる表情を見たルシールは「全員広がれ!」と叫ぶ。
ルシールはレベル五十以上になってからランク上げをずっとしてきた。
レベル五十以上にもなるとギルドで魔物の情報が得られないことの方が多い。
セージがいなければ、未知の敵など日常茶飯事のことである。
「全員回復薬を持て! 復活魔法を唱えろ! 開幕の攻撃がくるぞ!」
構えた剣をしまい、代わりに回復薬を持つ。
ルシールの声にハッとしたセージも回復薬を出した。
(そうだ、考えないと。勝つために)
魔法の届かない上空を旋回している神鳴鳥。
山を眺めるように一周すると戦闘を開始するはずだ。
それを見上げながら、ルシールはあえて落ち着いた声音で問いかける。
「セージ。最初はメイルシュトロームを使うか?」
「うん、まずはメイルシュトロームから。攻撃役は対空魔法、接近したらデマイズスラッシュを使って!」
英雄ランク50で使える特技『デマイズスラッシュ』は賢者の魔法『オリジン』と対になる最強の剣技。
今までの『アクアブレード』に比べて消費MPが格段に上がるが、その分威力が高い。
悠々と飛んだ神鳴鳥が再び火口の真上に戻ってくる。
(あの高度なら開幕先制遠距離攻撃のはず。息吹なら火か氷属性。雷なら火の方が近いけど、雷属性の息吹ってあるのか? どちらかというと……)
「盾を真上に! 状態異常無効の腕輪を装備して!」
「キュォォォオオオオオ!!!」
セージが言い終わると同時に神鳴鳥の鳴き声が空に響き渡る。
セージが言ったのは勘だった。
神鳴鳥のモーションの初動を見て、息吹ではないと直感的に感じたのである。
「鉄壁の盾!」
セージが特技を発動した瞬間、神鳴鳥の声に呼応するかのように幾筋も雷が落ちた。
薄暗くなっていた周囲が、直視できないほど眩しい雷光に包まれる。
その直後には空気を裂く轟音が轟く。
神鳴鳥の特技『神雷の領域』。
無数に落ちる雷は一撃が重く、さらに攻撃範囲は広い。
全員防御しているがHPが急激に減る。
(ぐぉお、やっぱりか! しかも連撃!)
雷が当たり、すぐさま回復薬を飲んでいるところで、さらに雷が落ちる。
そして、間を置かずにもう一撃。
(くそっ、この装備でもキツいな。でもサラマンダーの腕輪があってホントに良かった。これがなかったら全滅してたな)
神命鳥の技は火と風。火は腕輪だけで耐性ができるため、耐魔法装備にしていた。
それによって魔法は60%減という世界最高峰の耐性を誇る。
『神雷の領域』もその魔法耐性により60%減になっているにも関わらず3000ダメージをゆうに超える威力。
それが約三発当たるのだ。
もし、サラマンダーの腕輪がなくて、他の装備で火耐性をつけていたら、確実に耐えられなかっただろう。
ただ、サラマンダーの腕輪から状態異常無効の腕輪の装備の切り替えが間に合わなかった者が倒れている。
一撃目で麻痺になり、回復できずにそのままHP0になっていた。
さらに雷の中を動いて運悪く四発当たった者、盾で防ぎきれなかった者など、HP0になった者は半数にのぼる。
耐えた者たちは復活魔法を発動して、アイテムを出しながら回復に走っていた。
呪文を唱えるよりアイテムで回復する方が速いからだ。
雷に耐えた者たちもHPは三割を切っている。
そんな壊滅的な状態でアイテムを節約するわけにはいかない。
(鉄壁の盾は貫通、MND無視、魔法系特技、麻痺確定、ランダム攻撃……)
セージは回復薬を飲んでから、呪文を唱えつつ神鳴鳥の攻撃について考える。
『神雷の領域』を受けながらもセージは自分とパーティーメンバーのダメージを計算していた。
どう対応するかを判断するため、ステータスとダメージから相手の特技の特性を予測しているのだ。
その間に『神雷の領域』を放った神鳴鳥は再び「キュオオ!」と一鳴きして、羽ばたきながらゆっくりと高度を下げ、十メートル程度のところまで降りると急接近してきた。
「メイルシュトローム」
セージが魔法を発動し、ルシールも続けて『メイルシュトローム』を発動。
しかし、神鳴鳥は怯むことなくそれを通り抜けてくる。
(効きが悪いな。やっぱりオリジンかメテオを当てるべきか)
セージは『オリジン』を唱え、ルシールに『メテオ』を使うように合図を送る。
神鳴鳥は『雷旋刃』を発動。
急旋回するとその勢いのまま円を描くように全員へ物理攻撃を仕掛けた。
パーティーは何とか壊滅状態から復帰しており、回復役は防御、攻撃役は『デマイズスラッシュ』を発動する。
「鉄壁の盾、大防御」
セージは特技『メモリー』で覚えた防御系特技を発動し、寸でのところで高速で近づいてくる神鳴鳥に盾を合わせる。
特技が有効かはわからなかったが、とりあえずどんな技かを確認するためだ。
(ダメージ軽減が入った。おそらく魔法効果付きの物理攻撃だな)
その時、ニックから回復魔法がかかって、HPが全回復する。
セージはクリフパーティーのクリフと交替したパーティーを組んでいた。
ニックとメリッサは常に回復魔法を用意している。
(助かる。できるだけ安全にいきたいし)
セージはそんなことを思いながら呪文を唱える。
一旦飛び上がった神鳴鳥は「キュオオオッ!」と鳴き声を上げてルシール、ニック、アンナ、ジミーに『サンダーボルト』を落とした。
そこへ、すぐに回復魔法がかかる。
(耐魔法装備でよかった。この感じだと危険なのは開幕の雷攻撃だけか)
アンナたち攻撃魔法組四名が『インフェルノ』『ロックブラスト』『ヘイルブリザード』『テンペスト』を発動。
神鳴鳥は『テンペスト』を受けても、やはり大きなダメージを受けた様子はなく、さらに上空へ飛び上がりその他の魔法は掠める程度だ。
(安定はしてるけど、ダメージを与える方が難しい)
魔法は、上空に打ち上げるような軌道をとるようにはできていない。
どうしても下方向へ向かったり、高さに限界があったりする。
それに『ウォータービーム』のような直線で飛ぶものであっても、当然のことながら永遠に真っ直ぐ飛ぶわけではない。
上空の敵に向かって放つ場合、山なりの軌道になる。
(やっぱり鳥系は厄介だな。まだアイテムはあるけど、この調子で飛ばれて長引いたらまずい。どうにかして落としたいけど、オリジンとメテオも難しいか)
神鳴鳥は高さ十メートル近い場所を飛んでおり、物理攻撃は届かない。
そして、飛んでいる魔物に対して使うのは風魔法が多い。
ただ、その効果が小さいとなると、他に使える魔法はほとんどなかった。
融合魔法『オリジン』は『インフェルノ』、『メテオ』は『ロックブラスト』と同じようなタイプなので期待はできない。
(近づいてきたときに一発入れるしかない)
神鳴鳥は翼を広げて『エレキフェザー』を発動していた。
羽状の雷が数えきれないほど降り注ぐ。
一撃のダメージは小さくても、数が多いとダメージは大きくなる。
防御する者と隠れる者に別れてダメージを減らす。
回復役は回復魔法を唱え、攻撃役は魔法『テンペスト』を仕掛ける。
神鳴鳥は高く飛んで魔法から逃れて「キュォォォオオオオオ!!!」と鳴き声を上げた。
(またか!)
全員盾を上に構え、何人かはそれに加えて回復魔法を放つ体勢をとる。
特技『神雷の領域』によって襲いかかる雷の奔流。
全員が状態異常無効の腕輪を装備しており、今回は何とか全員が耐えきった。
ただ、残りHPはわずかだ。
セージとルシール以外の全員で回復を急ぐ。
二人は賢者をマスターしており、攻撃の要となるので、攻撃魔法優先だ。
(これが続くとまずいぞ。何とかしないと)
再度降りてきた神鳴鳥は物理攻撃をしかけようとセージに向かって急接近する。
(よし! きた!)
「オリジン!」
神鳴鳥は十二個の球体から発せられるレーザーを受けながらその範囲を高速で抜ける。
「メテオ!」
ルシールが魔法を発動した瞬間、パリィッと静電気のようなものが走った。
その次の瞬間。
神鳴鳥は目の前にいた。
特技『迅雷』。
視覚で反応できる速度ではない。
盾で受け止めた、というよりたまたま盾に当たったセージはゴロンと後ろに転がる。
発動した『メテオ』は神鳴鳥を掠めることもなく、地面に突き刺さる。
そして、神鳴鳥は急上昇。
再び上空へと戻った。
(ほんとに厄介だな! とりあえずメテオを当てたいけど、タイミングがシビアすぎ! ハウリングを使ってみるか? むしろメイルシュトロームを連発してダメージとヘイトを稼ぐか?)
融合魔法『メテオ』は周りを巻き込みやすく、直線で飛ぶため正面から発動した方がいい。
しかし、神鳴鳥が必ず正面からくるとは限らない上に、また『迅雷』を発動されたら外す可能性がある。
それに、神の魔物に『ハウリング』は効きにくく、ヘイトを稼いだところで遠距離攻撃を多数持つ神鳴鳥が都合よく接近してくるとは限らなかった。
(メテオはタイミングを考えるとして、他にいい方法は……)
セージは何とかして素早く討伐する方法はないかと考える。
その間にも、神鳴鳥は攻撃の手を緩めず『サンダーボルト』を四発落としてきた。
そんな中、ギルが神鳴鳥に背を向ける。
そして、軽くしゃがみ、なにかを持ち上げるように手を組んだ。
(はっ? なにやってんの?)
急にそんな体勢になったギルを、セージは戦闘中にも関わらず二度見してしまった。
そして、そこに走り込むルシール。
(えっ? どういうこと?)
神鳴鳥は『エレキフェザー』の発動モーションに移っていた。
そんな状況でも関係がないかのように、ルシールがギルの手に足を乗せる。
「ムーンサルト」
特技を放ったのはギル。『ムーンサルト』は後方に宙返りしながら蹴り上げる武闘士最強の技だ。
その反動を使いながらギルはルシールを打ち上げた。
『エレキフェザー』をすり抜けて、空高く飛び上がるルシール。
その高さは約十メートル。
神鳴鳥に匹敵する高さだ。
(まじかよ……!)
ルシールは神鳴鳥に手を向け、魔法を放つ体勢をとる。
「メテオ!」
セージは盾に隠れながら、空中で魔法を放つルシールに目を奪われるのであった。
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