第204話 モンテ・ヴィテ3
インベット山脈最高峰モンテ・ヴィテの頂上には火口がある。
山は登るほど気温が下がるが、ここではマグマによる熱気、地熱で寒さとは無縁だ。
火口周辺は山頂にしては意外なほど広く、平坦になっている。
足元はゴツゴツとした岩であり、決して動きやすいわけではないが、今まで登ってきた場所を考えると悪くはないだろう。
そんな場所でセージたちは戦いを繰り広げていた。
ここにいるパーティーは二つ。
一つはセージ、キース、メリッサ、アンナ、ニックのパーティー。
もう一つはルシール、ギル、ダンカン、ウォルト、ジミーである。
他の者たちは新たに建てた山小屋の周辺を探索している。
攻略二日目に山小屋が完成してそのまま小屋で過ごし、三日目に登った時、数名にまた高山病の症状が出たのだ。
症状が出たのはキム、アンガス、ブレッド、フィル、クリフの五人。
症状の軽い重いの違いはあるが、頂上で戦闘することを考えると無理するわけにはいかない。
そこで神命鳥討伐隊十名とモンテ・ヴィテ探索隊八名の二手に別れることになった。
神命鳥は十名でも十分であり、未知の探索は危険であるが、八名いれば不測の事態にも対応できるだろうという判断だ。
探索隊の中で症状がない者は討伐隊と入れ替えながらであるが、ルシールとセージは『メイルシュトローム』を発動するため、必ず参加している。
「メイルシュトローム!」
「っしゃあ! アクアブレード!」
「いくぜ! アクアブレード!」
飛び上がろうとした神命鳥をメイルシュトロームで落とし、英雄の特技『アクアブレード』で滅多打ちにする。
『アクアブレード』は水属性の剣技であり、神命鳥に有効だ。
水属性の追加ダメージは魔法攻撃力のINTに依存する。
INTがそれほど高くないクリフたちは、勇者の特技『グランドスラッシュ』を使った方がダメージ量が少し多い。
しかし、消費MPが少ないところが利点であった。
神命鳥は反撃の『炎旋風』を巻き起こし、くちばしによる連続攻撃を仕掛ける。
しかし、それも想定内の行動。
全員慌てることはない。
「シールド!」
「オールヒール!」
そして、ポンポポポポンポンッと軽妙でリズミカルな太鼓の音が鳴りはじめる。
セージの攻撃力上昇のバフだ。
「アクアブレード!」
そして、再び総攻撃が始まる。
神命鳥も反撃するが、もうすでに行動パターンは全員が把握しており、対応は容易だ。
特技や魔法も数種類しか使わなくなっていた。
ここまで慣れているのも当然のこと。
今はモンテ・ヴィテ攻略の十日目である。
一週間、神命鳥と戦い続けたのだ。
一週間前、三日目のこと。
頂上に着いたセージたちは神命鳥との再戦に勝利。
戦闘終了後に盛り上がる中でセージは当然のように言った。
『さて、神命鳥がリポップ、というか復活するまで休憩です! 特製茶作りますね!』
全員その言葉にセージの方を向いた。
『どうしたんですか? あっ、復活までの時間ですか? そんなにかからないと思うんですけど、正直わからないんですよね。とりあえず待ちましょう』
神命鳥でランク上げをするとは聞いていたが、連戦するとは思っていなかったのである。
神命鳥の攻撃は全てが強力だ。
まさに死と隣り合わせのようなプレッシャーを感じながら戦っていた。
戦闘終了の解放感はなんだったのかというくらいである。
ただ、冷静に考えてみると、装備によって守られているので、ダメージ量としては大したことがない。
まだ回復薬も使っていないくらいだった。
そうして連戦を続け、四日目からは神命鳥と一日中戦い続けてランク上げに勤しんだ。
いくら凶悪な攻撃をしてくる神命鳥とはいえ、何十回も倒していれば慣れてくる。
今では倒したところで大した感慨もわかなくなっていた。
「メイルシュトローム!」
「アクアブレード!」
「アクアブレー……っと、終わりか」
神命鳥は炎を撒き散らして高速飛行し、火口へ飛び込んだ。
しばらくすると火口から復活してくるのだが、しばらくは休息となる。
「やっと英雄をマスターしたぜ!」
「おっ、マスターしたのか! 俺もだ!」
神命鳥を倒し続けることでランクが急激に上がり、続々と英雄をマスターしていった。
セージはすでに戦闘職を全てマスターし、レベルも90で止まっている。
あと残っているのは調教師のランク上げだけだ。
セージだけならすでに山を下りていても良かったのだが、他の者はまだマスターしていないので戦いを続けていたのである。
何よりルシールは『メイルシュトローム』を使うためにも賢者をマスターしてから英雄のランク上げをすることになるので一番遅い。
「これでルシィさん以外は全員英雄をマスターできたみたいだね」
「そうだな。私はまだランク60だが、ランク上げは一旦終わるか?」
一週間連続で戦い続けるのはかなりハードである。
しっかりした小屋で休めることで問題は出ていなかったが、そろそろ下りるべきかとも考えていた。
「うーん。でも、せっかくだからルシィさんもランクあげておこうよ」
「あと30回倒す必要があるぞ」
「それなら二、三日で終わるでしょ? そういえば、これで倒したの100回くらいになる?」
「ここで戦ったのは99回、フォルクヴァルツで戦ったのも合わせればちょうど100回だな」
セージはもうランクが上がらないが、ルシールは上がるので、ランクを数えれば神命鳥の倒した数がわかるのだ。
「おっ! ちょうど100回目だったんだ! まぁだからといって何があるわけでもないけど。次も同じように戦うだけだし」
「私だけのランク上げに付き合わせるのもな」
「何言ってるんですか団長! ランク上げくらい、いくらでも付き合いますよ!」
「団長がメイルシュトロームを使えるおかげでランク上げができてるんですし」
「ここで止めるってなったら俺らの方が気を遣いますって」
「それに、下でランク上げしてるパーティーはまだ時間がかかりますしね」
モンテ・ヴィテ探索隊のメンバーの中で、ブレッド、アンガスの二人は五日目になっても頂上まで登りきることができなかった。
なので、ずっと探索隊としてランク上げを続けている。
モンテ・ヴィテはインベット山脈の一部であり、広大な山が連なっているので魔物は多い。
それに、根絶やしにしながら進んできたわけでもないので、魔物はかなり残っていた。
最初は順調にランクが上がっており、神命鳥を倒すより少し早いくらいだった。
しかし、翌日には逆転。さらに日数が経つにつれ、神命鳥討伐は戦い方が効率化され早くなり、魔物討伐は徐々に減って遅くなる。
十日もすれば周辺は根絶やし。魔物と遭遇するために、かなり遠くまで進む必要があった。
(まぁ何にせよ、あと数日でランク上げは終わるな。それはいいんだけど、この後どうするかだよなぁ)
特製茶を皆にいれながら、セージは次のことを考えていた。
英雄のランク上げが終われば、残りは調教師のランク上げしかない。
ただ、魔物を仲間にするのは簡単ではなかった。
仲間にしても連れて歩くことができないからだ。
(調教師のランク上げだけなら仲間にして逃がせばいいんだけど……さすがになぁ)
実はセージはスライムを仲間にしたことがある。
調教師に興味があったので、ケルテットまで装備を受け取りに行ったとき、神木の道に寄ったのだ。
スライムを仲間にするのは簡単である。
仲間になる確率は非常に高い。
この時は最初に会ったスライムを倒したら仲間になろうとしてきた。
仲間になる場合、スライムからパーティー申請をしてくる。
それを受ければ完了だ。
セージはそれを確認して、ふと思った。
このスライム、どうすればいいのかと。
とりあえずパーティーから外して帰ろうかと思ったのだが、パーティーから外してもセージについてくる。
このまま町に連れていくわけにはいかないし、隠し切れるものではない。
スライム一匹なんて成人男性なら棒で倒せる弱さ。
何を食べるのかさえわからない。
セージはなんとなく縁を感じてスライムを袋に入れて反対側の森に走った。
そして、パワーレベリングでスライムを強くしてから神木の道に帰した。
レベルが上がっても弱いスライムだが、神木の道ならスライムしかいないので、生き残る可能性は高い。
仲間になったが連れていくことはできない。
セージは音が聞こえるかも定かではなかったが、ついてこようとするスライムにそう言ってみた。
すると、スライムはついてくるそぶりはなくなり、セージが離れてもずっとその場で待機していた。
スライムはプルンとしたゼリーのようなボティに核があるだけの存在。なにも感じていないだろう。
それでもセージはその姿に哀愁を感じてしまった。
それで、安易な調教師のランク上げは止めようと思ったのである。
(とりあえず、住む場所と飛行魔導船を早く作らないとな)
結局考えたのは侯爵領に魔物が住む場所を整えること、そして、仲間になった魔物を連れていくための移動方法として飛行魔導船を作ることである。
(第一学園に作り方の資料があったらいいんだけどなぁ。学園長に聞いてみるか)
そんなことを思いながら特製茶を飲み、次の戦いの準備をしていると急激に暗雲が立ち込め始めた。
「嫌な天気になってきやがったな」
ギルが空を見上げて呟くように言う。
(雨か。やだなぁ。動きにくくなるし)
今までにもモンテ・ヴィテで雨が降ることはあった。
ただ、頂上に着くと必ず晴れており、これまでの神命鳥戦ではずっと雨はなかった。
(そろそろ復活だけど、雨が強くなるようなら一旦小屋まで下りそうかな。でも、神命鳥って雨だと弱体化するかも? それはそれでちょっと確認したい)
そんなことを考えていると、空気を切り裂く轟音と共に稲妻が火口に落ちる。
(雷はマズいな。撤退した方がいいか。でも、当たったらどうなるんだろ。HPで耐えられる?)
「ギルさん、雷って当たったら――」
その瞬間、火口から噴火するかのように飛び出す姿。
その形だけを見れば似ているが、神命鳥ではなかった。
(えっ……何あれ?)
雷を纏う鳥、神鳴鳥。
今までのFSでは登場したことのない魔物だった。
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