第119話 跳躍
特技『ちょっと休憩』を終えたガーディアンは、仕切り直しとばかりにカッと目を開く。
(よし、目からビームだ)
想定通りとばかりに前に出ようとするセージ。
ガーディアンはランダム行動だが、『ちょっと休憩』の後は『目からビーム』の可能性が高い。セージはすでに前へ出る体勢でいたのだ。
「スケープゴート」
セージがルシールの前に出ようと動いた時に、ルシールはセージに手を当てて特技を発動。その動きの流れで、セージの後ろに移動していた。
ビームが放たれた時には、それを受け止める準備が整っている。
(さすがルシィ。動きがいいなぁ)
『スケープゴート』はダメージを肩代わりする特技だ。
ガーディアンの『目からビーム』のダメージは全てルシールに入り、セージは無傷である。
「インフェルノ」
セージはビームを受け止めた後、仕返しとばかりに魔法を発動した。
(結局『体当たり』をどうするかなんだよな。ルシィなら避けられそうだけど、ダメージソースが俺だし、ルシィとは別パーティーだし。確実に俺がターゲットになるから、結局自分でなんとかするしかない)
再び呪文を唱えつつ、ルシールが別パーティーで入ったことで、どう戦っていくのがベストなのかを考えていた。
その間にガーディアンは『ロケットパンチ』の構えに変わる。
するとセージとルシールは位置を入れ替えた。
そして、ロケットパンチを完璧に防ぐと『フルヒール』を唱えて回復した。
「インフェルノ」
セージは守られているため心置きなく魔法で攻撃する。
その後、ルシールは『はねる』も完璧に避け、続く『目からビーム』と『手からビーム』は前に出るセージに『スケープゴート』を発動した。
(打ち合わせもしていないのに良く俺の動きに合わせられるなぁ。ルシールと一緒に戦ったのってそんなに多くないはずだけど。ステータスが高いから?)
何も言わなくてもルシールが動いてくれることに、セージは内心驚く。
そうしているうちに、ガーディアンは『体当たり』の発動体勢に移った。
(来たか。さっきのタイミングなら呪文を破棄して『テイルウィンド』でギリギリ間に合うか?)
特技『テイルウィンド』は追い風が起こるため、直線的な移動であればわずかに速く移動ができる。
今回はセージとルシールしかいない。そして、ルシールはセージより速いことは明白だ。
ただ、結局はセージ自身が避けなければどうしようもないのである。
「逃げます!」
ガーディアンが跳ぼうとする前にセージは走り出す。
「テイルウィンド」
ガーディアンが『体当たり』を発動した。
しかし、ルシールはセージのように走っていない。
(ルシール狙いか!)
ガーディアンの『体当たり』は発動直前の対象の場所に飛びかかる。
ルシール目掛けて飛び、セージは狙われていないことがわかった。
ルシールはセージと別パーティーであり、いくらセージがターゲットを取ろうとルシールにも攻撃がいく可能性はある。
それにルシールはセージを支援する特技や回復魔法を使っているため、ヘイトは稼いでいた。
そのルシールは『体当たり』が発動した時、ガーディアンに向けて一歩踏み出した。
(ルシール?)
二歩、三歩、四歩目でルシールは跳躍。目前に迫っていたガーディアンの上に跳んだ。
ガーディアンを余裕で飛び越えられる高さである。
(そんなのあり!?)
ガーディアンはそのままルシールの下をすり抜けるように飛んで地面に激突し、ゴリゴリと地面を削った。
ルシールは何事も無かったかのように綺麗に着地すると、髪をなびかせて離れてしまったセージの方に走る。
(ええーマジかー。なるほどなぁ)
ルシールの動きは、セージからすると目から鱗が落ちるようなことであった。
セージがFSのゲームでガーディアンと戦ったとき、キャラの操作上ジャンプで避けるような動作はできなかった。
なので今回も走って避けることしか頭に無かったのである。
(考えてみればそういうやり方もありなんだよな。ルシィは余裕だったし俺でもできるのでは? 次は跳んで避けてみるか)
セージもルシールの方に近づきながら考える。
合流したところで、起き上がったガーディアンがロケットパンチを繰り出した。
ルシールはそれを防御し、セージは『インフェルノ』を発動する。
(もしジャンプで避けれるなら確実に倒せるな。むしろちょっと余裕ができるかも)
セージは戦いをシミュレートして勝ちを確信する。
ルシールがセージをサポートしている限り、『体当たり』以外でどの攻撃パターンになろうと対応できる。
つまり、『体当たり』の対応方法さえ確立してしまえば何も問題がなくなるのだ。
さらに、セージは特技や回復魔法を使う必要がなく、攻撃魔法を放ち続けられる。
負けることは無いと考えられた。
ガーディアンは炎に包まれながら『はねる』を使った後、再び『体当たり』の体勢をとった。
(来たか!)
セージは内心テンションを上げてガーディアンを見る。
新たな避け方を知ったセージは試したくて仕方がなかったのだ。
(よし、ここで)
ルシールがセージの行動に気づいて、少しリードするように一歩を踏み出す。
セージも一歩、二歩、三歩とガーディアンに立ち向かうように走り、四歩目で跳躍した。
(これは、ギリギリか?)
ルシールとセージではステータスに差がある。
ガーディアンを飛び越えるのに、セージでは余裕とはいかない。
(よいしょっ! おっと)
体を反らせるようにして何とか避けきるが、着地でバランスを崩す。
後ろに倒れそうになるところを、ルシールが手を出してセージを支えた。
お互いに呪文を唱えているため声を出すことはないが、ルシールの微笑みにセージも笑顔で答えた。
(マジで格好いいな。見た目は可愛い系だけど。かっこ可愛い? いや、もうちょっと別の言葉は無いかな?)
「インフェルノ」
セージが無駄なことを考えながら攻撃魔法を発動する。その余裕はガーディアンに勝つことを確信したからだ。
懸念事項だった『体当たり』も、何度かすれば完全に避けきれるだろうと感じたのである。
そして、ガーディアンの攻撃パターンは大きく変化しない。HPが三割を切ると徐々に攻撃の間隔が短くなるため大きな隙がなくなっていく程度である。
その程度であれば問題なく対応できると想定した。
ブレッドたちも危なげなく戦い続けている。
ガーディアンの側にいても、ターゲットはセージかルシール。どちらにせよ足下に攻撃は来ない。
注意するのは『はねる』くらいであった。
順調に戦闘が進み、ルシールが加入してからわずか十数分後。
セージの『インフェルノ』を受けたガーディアンは、目をカッと開ける。そして、炎が消えると同時に後ろ向きにドシンと倒れた。
ブレッドたちはその動きに警戒して飛び退く。倒せたと思っても油断しないことは冒険者として重要だった。
倒れたように見せかける、倒れた状態から技を発動する、変身するなど何が起こるかわからないからだ。
しかし、セージは倒せたことがわかっているため、ふぅと一息ついた。
それに気づいたルシールも一息つき、顔を見合わせた二人は笑みを浮かべた。
(最初はどうしようかと思ったけど、ルシィが来てから楽しかったというか、テンション上がったなー。アドレナリンとかそんな感じの脳内物資がダバダバ出てたような気がする)
「土偶は倒せたよー。これで終わりー」
セージは少し離れたところにいたブレッドたちに声をかける。
こうしてガーディアン戦は終了するのであった。
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