第118話 危機

 ガーディアンが『体当たり』の体勢になったのを確認したとき、セージは洞窟の壁の近くを走っていた。

 フィルとマイルズはセージと合流しようとしたところで、ベンとブレッドも近くにいる。

 全員反対側の壁に走った。

 セージは一瞬立ち止まりガーディアンが飛び出す寸前に走り出す。


(これでもギリギリ無理か!)


 二度目ということもあり、完璧なタイミングで駆け出したが、ガーディアンが飛んだ瞬間に避けきれないと感じた。

 ベンとブレッド、マイルズは安全圏まで退避できていたが、フィルはセージの一歩前だ。

 速さを上げる薬を使ったセージはフィルより少し速く、追い付いたのだ。

 ガーディアンが目前まで迫った状況では二人とも間に合わない。

 その時、フィルがセージを掴んで思い切り投げた。


(えっ?)


 セージはすんでのところで『体当たり』を回避。

 フィルはそのままガーディアンの腕に当たり撥ね飛ばされる。

 フィルは盾で防御し、弾き飛びながらもどうにかHPをわずかに残して耐えた。


「ハイヒール!」


「オールヒール」


 マイルズの『ハイヒール』とセージの『オールヒール』が合わさる。セージは複数人巻き込まれると考えて『オールヒール』を唱えていた。


(危なかった。とりあえず立て直さないと)


 一旦全員ガーディアンから離れようとするが、起き上がったガーディアンはポンと飛び跳ねる。

『はねる』が発動され、着地したのはフィルの真横。

 そこから地面が波の様にうねり、全方位に広がった。

 近距離にいたフィルが直撃、マイルズ、セージ、ブレッドもダメージを受ける。


(焦るな。まだ大丈夫だ)


 セージは自分に言い聞かせながら対応を考える。

 どうにかして戦いを立て直すことが必要だった。

 ガーディアンは両手を開いて特技『手からビーム』を発動する。これは名前のまま、全方位ランダムに手から光線を出す特技である。

 全方位に向かうため『目からビーム』より威力が低く、セージにとっては楽な攻撃といえる。


(よし。これなら時間がかせげる)


 そう思った瞬間、フィルとブレッドに光線があたり、フィルのHPが0になった。


(えっ!?)


 そのことに皆が焦りの表情を浮かべる。

 光線はランダムに放射されるため、当たっても一人だけだ。しかも、フィルは構えていた盾ではなく足に当たっていた。

 まさか、こんな時に限ってピンポイントで当たるとは思っていなかった。


(くそっ運が悪い!)


 フィルの最も近くにいたのはセージだ。HPが0になってからアイテムを使うことはできない。

 回復魔法を準備している状態で蘇生の魔法『リバイブ』を唱えることはできない。それに、唱えるより蘇生薬『神木の粉末』を使う方が早い。すぐにでも『神木の粉末』を使いたかった。


 しかし、セージはボスのターゲットになっているため近づくわけにはいかない。

 フィルを攻撃に巻き込むわけにはいかないからだ。

 それにすぐ気付いたベンが『テイルウィンド』を発動。セージから貰っていた蘇生薬『神木の粉末』をフィルに使うため走る。


「オールヒール!」


 そして、セージは回復魔法を唱える。フィルが復活してからの方が良かったが、ブレッドのダメージも大きかったからだ。

 それに回復魔法はマイルズやブレッド、ベンも唱えている。


(焦るな。まずは回復だ。この状況を脱しないと)


 ガーディアンの後ろにいるフィルに向かったベンを巻き込まないよう、セージは洞窟中央へ移動する。

 ガーディアンはそんなセージに対して特技『ボディプレス』を発動。

『ボディプレス』はポンとジャンプして体で押し潰すように倒れ込む特技だ。

 ガーディアンの巨体があれば倒れるだけでも脅威であり、受け止めることはできない。


(これは避けれるよな?)


 特技『体当たり』は高速で飛んで迫ってくるが、『ボディプレス』は落下である。

 攻撃の速度はそこまで早くはない。

 セージは少しの余裕を持って避けることができた。


(よし! これはいける!)


『ボディプレス』の追加効果で全方位に地面の波が発生する。

 それと同時に、フィルのHPが1に回復。その瞬間、ベンとブレッドが『ハイヒール』を唱えてフィルが全回復した。

 ブレッドは回復に気を取られて発生した波を避けきれなかったが、その後すぐにマイルズが『オールヒール』を発動して全員のHPは全回復した。


(とりあえずは何とかなったけど、体当たりの対応を考えないと。けど、どうする?)


 セージが一旦落ち着いて頭を回転させているとき、起き上がったガーディアンが手を前方に突き出す。

 特技『ロケットパンチ』の構えだ。


(やばっ! ミスった!)


 ロケットパンチは当たるまで追尾してくるため、『シールド』で受け止めるのが基本だ。

 ただし、ロケットパンチはわずかに時間差がある二連撃。一人では一発目はガードできても、そのすぐあとに来る二発目に対応できない。

 これのためにセージはマイルズやフィルと動いていたのだが、今はセージ一人である。

 『体当たり』や『ボディプレス』を避けているうちに離れてしまっていた。

 『シールド』を使えば一瞬動きが止まるため、二発目に対応するのは至難の技だ。


(直撃一発は耐えれ……ない! どうする!?)


 セージの装備は耐魔法寄りで、防御力はそれほど高くない。ステータスもまだ成長途中だ。

 ブレッドたちなら一発は耐えられただろう。

 しかし、セージに格上のボスの高威力物理攻撃を受け止める耐久力はなかった。

 焦るセージに容赦なくガーディアンの『ロケットパンチ』が発動する。

 セージは『神木の粉末』を口に含んだ。


(気を失うのは避けたい……)


 HPが0になった瞬間に飲み込めば効果がある。しかし、限界を超えたダメージによって気を失う可能性がある。そうなれば命の危機だ。

 しかし、受け止める以外方法はなく、覚悟を決めて『ロケットパンチ』に向かって盾を構える。


 その時、セージを守るように前に躍り出る者がいた。一瞬見えたその横顔はセージの良く知る者である。

 神霊亀戦でもセージの盾となったラングドン家長女、ルシール・ラングドンだ。


(ルシィ?)


 ルシールは前に出た勢いのまま、右手の『ロケットパンチ』を盾で殴り付けるように受け止める。

 そして、そのまま左足を軸に回転し、首元までの髪をふわりとなびかせ、盾を突き出しながら特技を発動した。


「シールド」


 凛とした声と共に、左手の『ロケットパンチ』を盾が完璧に防ぐ。

 セージは今まで見てきた中で最も美しい動きだと感じた。

 ルシールが呪文を紡ぎ始めて、ハッと気づく。まるで物語の勇者のような姿に見惚れてしまっていた。


「みんな! 攻撃!」


 固まっていたのはセージだけではなく、ブレッドたちも呆然としていたのだ。

 ブレッドたちはセージの言葉を受けて、にわかに動き出す。

 ロケットパンチを引き戻したガーディアンは特技『ちょっと休憩』を使いHPを回復した。


(ふりだしに戻ったけど、ルシィがいたら何とかなる?)


 それと同時にルシールも自分に対して『ハイヒール』を発動し、セージに一瞬目を向ける。


「今度こそ守りきってみせる」


 その真剣な眼差しにあるのは決意。ルシールは覚悟を持ってガーディアンを見据えた。

 マーフル洞窟や神霊亀戦でセージに守られたこと、騎士としてセージを守りきれなかったこと。ルシールは一度も忘れることはなかった。

 セージはその姿を見て、ルシールを信じた。


(とりあえず作戦変更!)


「マイルズは前衛で回復! フィルは攻撃魔法を増やして離れて! 僕につかなくていい! 固まらないよう位置取りに気を付けて!」


 マイルズたちは突如として現れセージを守った者が誰かわからなかったが、戦いの最中なので信じるしかない。


(反撃だ!)


 セージはMP回復薬を一気飲みして、呪文を唱え始めた。

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