第116話 ソンドン洞窟四日目

 四日目になると、ソンドン洞窟での戦いも慣れたものである。

 最初は肩慣らし程度に復活した魔物を倒しながら、ぐんぐん洞窟の奥に進んで行く。

 ソンドン洞窟は広くて分かれ道もあり、すぐに攻略できるものではない。

 それに魔物の殲滅をしながらということもある。四日目になってもまだ探索は終わっていなかった。


 ある程度奥まで進むと光が少なくなってくる。そうなると奇襲を受ける可能性が高まるため、セージが光魔法『ルーモス』を唱えて光源を作っていた。

 他の者だと戦闘中に剣を振り回すので、光源が動き回ることになり見にくいからである。


 奥まで進んで現れ始めたボーンゴーレムとの戦闘が終わり、ブレッドが口を開く。


「アックスオーガも出てこなくなってジャイアントゴーレムとボーンゴーレムが増えてきたな」


「ゴーレム系は耐久力があって嫌なんだよなぁ。エッジモールの方がマシだぜ」


「ホントにな。ベン、索敵代わるぜ」


「ありがと」


 周りの警戒はベンとブレッドがメインで行っている。会話をしているのはブレッドとマイルズで、ベンはちょくちょく加わる程度だ。

 セージとフィルは魔物出現と共に魔法を放つため、移動中も呪文を待機させていることが多い。

 話すと呪文が破棄されるため、基本的に会話に加わることができない。これは魔法使いの宿命とも言える。


(うーん。確かにゴーレムが増えてきたなぁ。でもここのボスはファントムだから、アンデッド系が出始めたと言うべき? ボーンゴーレムはアンデットでもあるし)


 ファントムとはアンデッド系の強力なボスである。セージはファントムには挑まないでおこうと思っていた。

 想定通りの強さであれば勝てるのだが、ボスに挑むなら余裕を持って戦いたいと考えているからだ。

 そんなことを考えていると、索敵をしていたブレッドが声を上げる。


「ボーンゴーレムが来たぜ! 奥にはヴァルキューレがいる!」


(ヴァルキューレ? 倒せるけど、ちょっと強いな。ここの最奥で出てくる魔物だったような。もうそろそろ洞窟も終わりなのかな?)


 FSでのヴァルキューレはボーンゴーレムと同様にアンデッド系とゴーレム系の両方に入る魔物だ。

 全身甲冑の戦士の姿をしているが、中身はない。細身の剣と円い盾を装備し、動きが速く魔法を使うので強敵である。


「ヘイルブリザード」


 セージはボーンゴーレムが効果範囲に入った瞬間に魔法を発動した。

 続いてフィルも『フレイム』を発動する。

 ちなみに、フィルは『フレイム』が得意であり、たいてい『フレイム』を使う。

 ブレッドとマイルズが前に出たところで、ベンが後ろから迫ってきている魔物に気がついた。


「後ろからガーゴイル3体!」


(えっ? まさか……!)


「撤退! ルサルカ、サモン!」


 セージは唱えかけた呪文を止めて叫び、召喚を行う。その言葉に全員が驚いたものの、特に反論することはない。


「フィル、ベン! ガーゴイルを頼む! マイルズ、回復任せた!」


 ガーゴイルは物理攻撃が効きにくいが、魔法が効く。ブレッドはすぐに判断して二人を向かわせ、退路の確保を考えたのだ。


(出現情報のないガーゴイルが出るなんて。ファントムは移動しないタイプだし、別のボス? いや、移動しないって決まっているわけじゃない。でもガーゴイルはアンデッド系じゃないし、ゴーレム系が来る可能性が高い)


 ボスは通常その場に出てくる魔物と相関がある。現状余裕を持って戦えているため、ボスにも勝てる可能性は高い。

 それに、目撃情報がないだけで、ガーゴイルも普通に出現する、つまりボスとは関係がない可能性もある。

 しかし、もしボスと会えば逃げることができない。何かわからないボスが出るかもしれないという状況で戦う気にはなれなかった。


(ボスがいるって決まったわけじゃない。考えすぎなら良いんだけど)


 ルサルカを『マウント』したセージはボーンゴーレム戦のブレッドたちを物理攻撃で支援しながら、ガーゴイルに対して魔法を発動する。


「ヘイルブリザード」


(とりあえず逃げよう。ギルドに戻って報告だ)


「引くぞ!」


 ボーンゴーレムとガーゴイルを倒したところでヴァルキューレが近づく前に逃げようとした。しかし、ベンが声を上げる。


「待って! ジャイアントゴーレムが復活してる!」


 後方にはジャイアントゴーレムの群れが出現していた。大量という程ではないが、広い範囲にいるため避けることは困難である。


(なんで?)


 魔物はここに来るまで根絶やしにしつつ来ていたはずであった。これは何かあったときに退路を確保するためでもある。

 もちろん魔物は時間と共に復活するが、これほど短時間で戻ることはない。


「こっちはヴァルキューレが接近してるぞ!」


「どうなってやがる!」


(作為的なものを感じるな。そういう罠? イベント? ジャイアントゴーレムの間を突っ切る、のは無理か)


 ジャイアントゴーレムは耐久力があり、戦闘をしている内にヴァルキューレに追い付かれてしまう。無視して突撃して囲まれたら逃げるどころか全滅の危機に陥る可能性さえある。

 ヴァルキューレは今までの魔物より強い。後ろから攻撃されると危険な状態になるのは明らかだ。


「ヴァルキューレを先にやるぞ! 五人でかかる!」


 ブレッドが号令をかけて戦闘態勢をとった。そして、セージが魔法を発動する。


「ヘイルブリザード」


 いつも通り戦闘開幕の『ヘイルブリザード』を放ち、ブレッドたちが接近する。

 ヴァルキューレは魔法に怯むことなく駆け抜けた。


「フレイム!」


 先制してフィルが魔法を発動。しかし、ヴァルキューレはすでに散開しておりギリギリ二体にしか当たらない。

 そして、ブレッド、マイルズ、ベンがそれぞれのヴァルキューレに一撃を入れる。


「「グランドスラッシュ!」」


「メガスラッシュ!」


 それと同時にヴァルキューレも応戦するが、すぐにブレッドたちは一旦引いた。連戦でルサルカを『マウント』状態にしていたセージが魔法を発動する。


「ヘイルブリザード」


 両端の二体はすぐに効果範囲から離脱した。直撃を受けたのは一体。その一体も盾で身を守りながら駆ける。


(厄介だな。すぐに終わらせたいのに)


 さらにヴァルキューレは反響音を鳴らしたかと思うと上級火魔法『クリムゾンスフィア』を発動。

 十個の球体が輪を描くように出現し、マシンガンのごとく打ち出される。

 これは接触すると爆発する球体だ。

 ブレッドとマイルズ、ベンは回避行動を取るが、全ては避けきれない。盾で打ち払いつつ走り、接近してきたヴァルキューレに剣を振るう。

 ヴァルキューレは特技『空破斬』や『散烈斬』を発動。ブレッドたちは猛攻を受け止め、反撃を入れる。


「ウィンドバースト!」


 マイルズと戦っていたヴァルキューレに回り込んでいたフィルが魔法を発動した。直撃を受けたヴァルキューレはブレッドの方の個体に吹き飛ばされる。

 そして、セージがタイミング良く魔法を発動。


「ヘイルブリザード」


 二体に直撃し、ヴァルキューレたちが逃げていく。残りの一体はすでにブレッド、マイルズ、ベンの三人で倒していた。


「オールヒール」


 マイルズが回復魔法を発動。追加の魔物も見えず後はジャイアントゴーレムをなぎ倒して帰るだけだ。


「よし! 撤退を急ぐ……」


 ブレッドたちは反転して走り出し、すぐにバッと振り返る。


(遅かったか)


 セージがそう悟った瞬間、ボスの範囲に入る感覚がした。

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