第100話 神閻馬戦3

 『死神の大鎌』が当たったテレーズが下がった後、一度目の一斉攻撃が始まった。

 他のパーティーメンバーはセージの話をちゃんと聞いていた様子で、問題なく戦いが進む。


(意外と順調だな。この調子ならそんなに時間はかからなさそう。神霊亀戦みたいに一時間戦いっぱなしとか辛いし。三十分程度で終わってくれたらいいな)


 そんなことを思いながら戦っていると、テレーズが復帰してきてメガフィストを放つ。


(あーテレーズか。まっ、とりあえずマルコムにお任せで)


 セージは一旦下がっていたのでマルコムに丸投げし、回復魔法や指示などをする。

 ミュリエルのマジックシールドを発動回数を増やしたりベンをミュリエルにつけたり微調整をしていく。


(こんなもんかな。あとは……あっ前に出るか)


 神閻馬の動きから『ダークゾーン』の発動を予測し、周りを確認しながら前に出る。すると、ドーム状に薄暗い空間が広がった。


(思ったより薄暗い。ゲームではもう少し見やすかった気がするんだけどなぁ)


 ダークゾーンの間、セージが前に出るのは耐久型になっているからだ。耐魔法装備かつMNDカンスト、さらに探究者でHPが上がっているセージなら十分攻撃に耐えることができる。そもそも神閻馬の攻撃の多くは避けられるのだが。

 ただし、基本は通常攻撃を行い、常に回復魔法を準備、安全第一で剣を振るうつもりでいた。


(これだとダークゾーンを連発されたら戦闘時間が延びるな。戦いに慣れてきたらダークゾーン内でも獣族なら何とか安全に戦える? 元々身体能力高いし)


 セージが攻撃を仕掛けて当たったものの、神閻馬にほとんどダメージを与えていなかった。元々のSTRが低く、探究者になっており、特技も使っていないからだ。

 それでも攻撃しているのは、単に神閻馬の注意を引いたり、行動を制限したりするためである。


「メガフィスト!」


 ダークゾーン発動後も残っていたテレーズが拳を振るう。


(あっこれはまずいかも。ミュリエル見えるかな?)


 セージはミュリエルにハンドサインを送る。魔法使いは呪文を唱えると話せなくなるため、手で合図を送ることが多い。

 ミュリエルとは一緒に行動していたこともあるため、お互いにハンドサインはわかっている。


 神閻馬はテレーズの攻撃をひらりと避けて『巡る闇』を発動した。

 そして、テレーズが神閻馬に向かって突撃する。


(あっまじか)


 セージは急いで『ランダート』を発動した。神閻馬の『廻る闇』はダメージを与えないと解放されないからだ。また、解放の動作のために動きが止まるということもある。

 そのまま跳んでもダメージを負うだけだ。


(これは間に合わなさそう。仕方ない)


 シルヴィアとマルコムが来ていることを確認し、テレーズが「みぎゃっ!」と弾き飛ばされたところで守りに入る。


(うーん。思ったより動きは速いけどダークゾーン内で戦えそうな、そうでもなさそうな……)


「早くさがるぞ!」


「にゃぁああああ!」


(えっ? 何があったの? 急にどうした?)


 突如叫びながら突撃するテレーズに困惑するセージ。テレーズに正面で戦われるとセージは近づくことができなかった。神閻馬の動きが読めなくなるからである。

 とりあえず回復魔法だけ準備し、援護できる位置を探った。

 その時、神閻馬が『影の荊』を発動する。


(これはヤバいかも。テレーズを下げるようにディオンに頼むか。俺からだと全然言うこと聞かなさそうだし)


 移動しながらポーチから蘇生薬『神木の粉末』を取り出し口に含み、神閻馬に突撃する。

 神閻馬が『死神の大鎌』を発動した瞬間、テレーズをかばうように跳んだ。


(よし、間に合ったか。さすがに仲間が死んだら嫌だし)


 セージは、『死神の大鎌』が当たりHP0になったのを確認すると蘇生薬を飲み込んだ。そしてHP1になった瞬間『フルヒール』を発動する。

 これは蘇生薬ができたときに検証していたことだった。回復薬は飲み込んだ時点で発動するため、口に含んでいる状態では何も起こらないことに気づいていた。

 ゲームでは自力復活は出来ないが、この方法を取ると可能なのである。

 ただ、攻撃による衝撃で吐き出してしまうとか、特技や魔法が使えなくなるなど問題が多くて使えないと思っていた。


(こんなところで役に立つとは。気合いの盾を持ってきてたら楽だったんだけど)


 一応、うまくいかない時のためにミュリエルにハンドサインを送って蘇生魔法を頼んでいたが、それは無駄になった。

 テレーズがディオンとマルコムに助けられるのを確認すると、セージは神閻馬に向かって「ハウリング」と呟く。


「闇を纏うって格好いい、まさに馬子にも衣装って感じだね!」


 神閻馬はハウリングで煽るセージに攻撃を仕掛ける。それを予期していたセージは軽く回避した。

 ダークゾーンの効果がなくなったらセージが引き、全体での戦闘が始まる。戦士たちの動きも徐々に良くなり、盾役と攻撃役の連携も上達していった。ミュリエルはしっかり役割をこなし、ディオンとアニエスはダークゾーン発動時も攻撃できるほど神閻馬の動きに慣れる。

 戦いのサイクルが安定して回り、神閻馬へのダメージは蓄積していった。


(ふぅ。一悶着あったけど、これならあと少しで終わるような気がするね。獣族の攻撃力はやっぱり高いなぁ)


 神閻馬が時折わずかに怯むのだが、セージはそれで残りHPを計算している。

 神閻馬は元々のサイズが小さいため個体差が分かりにくいのだが、ある程度のHPの想定はしていた。

 しばらくすれば想定の半分、神閻馬が逃げるHPになると考える。


(さて、神霊亀の時みたいにならず、素直に終わってくれたらいいんだけど)


 そう願いながら戦いを続け、十数回目のダークゾーンが晴れた時のことだ。


(あれっ? この動きはどっちだ?)


 神閻馬の動きの見極めは難しく、逃げの態勢に入ったか『影の荊』を発動するのか判断に迷った。

 神閻馬は今までで一番鋭い嘶きを上げる。


「ヒヒーーーーン!」


(逃げるのか!)


 急いで撤退の合図である光玉を投げて発光させる。

 その瞬間に『影の荊』が発動した。

 光玉の発光に全員急停止して撤退しようとしたが、すでに全員が神閻馬に近づいており、続いて特技『常闇』を発動された。


(両方発動!? そんなことできたっけ!?)


 特技『常闇』は一定範囲を暗闇にして、敵のHPを1にするという効果を持つ、神閻馬が逃げる時に使う特技である。

 丁度近づいていた時で、パーティー全員が『常闇』に巻き込まれた。

 基本的には足止めの技であり、神閻馬を逃がさないようにするには光魔法で対抗するしかない。今回はむしろ逃げて欲しいため、光魔法を使わず用意していた回復魔法を発動した。


「フルヒール」


 セージはまず自分のHPを回復する。それは、暗闇で『影の荊』に対応しなければならないからだ。


(俺だけハードモードじゃない? さすがに暗闇ではキツイぞ!)


 神閻馬は逃がすため光魔法は使いたくない。しかし、マルコムのような動きはできないし、暗闇でほとんど見えないので回避が厳しかった。


(まずは横にステップ、前に跳んで、斜めにバックステップ。直撃は避けれるけど、さすがにダメージは受けるな)


 セージは『影の茨』の動きを予測し、多少のダメージ覚悟で避け続ける。

 その時、ボスの範囲に入る感覚がした。


(ここでボス!?)


 実はこの場所は元々ボスが居た場所であった。神閻馬がいなくなったため、神閻馬から避けていたボスが戻ってきたのである。


(とりあえず回復して……どうしよ)


 暗闇の中で周りの状態がわからず、『影の荊』の攻撃を受け流しながら、回復魔法を急いだ。

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