第85話 盗賊団との邂逅
ベン忍者バレ事件の後は順調で、魔物も程よく出現するためレベル・ランク上げも捗った。
ちなみに、忍者についてはベンによる必死の弁明を聞いてシルヴィアたちもとりあえずの所は納得した。
そもそも他者の職業に口出しするのがおかしいということもある。それにベンは上級職になろうとしてなったわけではなく、魔道具師を目指していて忍者になったのだ。
セージは忍者になるだろうと想定していたが。
旅に出る前になったばかりで未だに戸惑いがあることも含めて説明して、ベンは逆にどうすれば良いかと質問した。
これにはシルヴィアたちも答えに窮した。
忍者という職業のことも良くわからなければ、上級職になったからといって何かしないといけない決まりはない。
また、暗殺者の上の職業というのも良くない。盗賊、暗殺者の名前のイメージが悪い上、実際に特技も悪用できる。
暗殺者になるために必要な武闘士までイメージが悪くなるくらいである。
それに、ベンが忍者だったとしても、ランク1なので使える技は少なく、戦い方が大きく変わることはない。
結局、パーティー外には秘密にしておくことになり、今まで通りである。
ただ、ベンが上級職になったとわかったことで、シルヴィアたちの気合いがさらに高まった。
シルヴィアは魔導士、ライナスは武闘士、チャドは旅人の職業に変更していて、そのランク上げやレベル上げに集中する。
職業を変えたことによるステータスの変動があり、戦いは難しくなるはずだったが、セージがいることで楽に戦えていた。
セージたちの戦い方はシンプルである。
魔物が良く出てくるようになったため、セージが特級魔法を事前に準備しておき、魔物出現と同時に放つ。続いてシルヴィアたちの一斉攻撃。
レベル51に適した魔物が現れた場合はセージが遠慮なく倒すが、それ以外についてはセージはサポート役になっていた。
一回一回の戦闘が短く、魔物に囲まれることもない。
比較的安全に戦えるため、セージたちはぐんぐんラミントン樹海を進んでいく。
そして、さらに森が深くなった所の手前で行き止まりになっており、立ち止まった。
高い木々はキノコの笠の様に枝葉を広げ、分厚い雲の如く光を遮っている。木漏れ日もない森は暗く、聖騎士の『ルーメン』を使わないと進めなくなりそうなほどである。
「ここから先は混沌地帯、だと思うよ」
ベンが地図を見ながら言う。
混沌地帯とはラミントン樹海にある強力な魔物が出現する場所である。
ラミントン樹海をまっすぐ突き抜けることができればリュブリン連邦に着くのだが、それができないのは混沌地帯のせいである。
実質、この混沌地帯が国境となっていた。
(へぇー、これが混沌地帯か。雰囲気あるなぁ。入ってみたいけど、さすがにここは無理だ)
混沌地帯の魔物はほとんど調査されていないが、少なくともレベル50では太刀打ちできないことはわかっている。
「よし、ここまでね。来た道をそのまま戻るわ」
来た道を戻るだけだと魔物がほとんど出てこないので、道を変えたいところだがここまでずっと一本道であった。
(何かあると思ったんだけどなぁ。誰かが先に取って無くなったとか……んっ?)
シルヴィアたちが戻ろうとした時、セージにはかすかに物音が聞こえ、呼び止める。
「ちょっと待ってください」
「どうしたんだ?」
聞いてきたライナスにセージは口元に人差し指を立てて静かにするよう合図した。
(上から何か聞こえるな。人の声? 誰かに命令してる?)
セージは皆を集めてヒソヒソと話す。
「木の上から声がするんですが、あまり良くない会話の感じがします。隠れて様子を見ましょう。ベンさんはステルスを使って僕とこっちへ。ライナスさんたちは道を戻って隠れて、合図したらちょうど来た感じで出てきてください」
手早く作戦を決めるとすぐに実行する。
なるべく物音をたてないように、かつ迅速に隠れて様子を伺う。
森の中なので隠れる場所には困らなかった。セージとベンは木の影に隠れる。
すると、行き止まりの前にあった木の上からガサガサと音がして何者かが現れた。枝葉の隙間から辺りを見渡す。
すでに隠れていたセージたちには気付かず、上に合図をだした。
ぞろぞろと降りてきたのは十二名。そのうち三名は獣族であり、縄で縛られていた。
(捕まった、獣族? 誘拐事件? リュブリン連邦から来たのか? どうやって?)
頭が疑問符だらけになりながらも、セージは聞き耳をたてて観察する。獣族とは二足歩行の犬や猫、熊という様な姿をしている種族のことだ。
今回の三名は全員猫タイプの獣族のようだった。
「へっ、ここまでくりゃ問題ねぇな」
「上手くいったぜ」
「お前ら、気を抜くんじゃねぇ。まだ終わってねぇんだ」
獣族を引き連れた人族の話に親分のような人が注意を促す。
「親分。そうは言ってもこの辺の魔物なら知り尽くしてやすから余裕ですぜ?」
「ちげぇよ。依頼者のことだ。相手にしてんのは貴族だぞ。何してくるか分かったもんじゃねぇ」
そんな風に喋りながらも木の枝を螺旋階段の様に使って降りていくのが、枝葉の隙間から見える。
枝葉が多くて隠れているが、大人が歩ける程度の通路ができているようだった。
(あんな所に隠し通路があったのか。サーベイの効果が切れてたのか、それともサーベイに反応しない? それにしても依頼者が貴族か。誰だろう。誘拐を指示するやつはとりあえず潰さないと)
「それにしても、こいつらどうします? この森で逃がしやすか?」
「あぁ? 依頼を邪魔されたらどうする。この武器を渡すまでは連れていくしかねぇだろうが。その後は適当に放り出しときゃ勝手に国に帰るだろ」
セージは親分と呼ばれた男が持っている剣と盾を見て驚く。
(あれって、月鏡の剣と盾? まじで!? 欲しい! 盗品みたいだからダメだけど。これがあったら神霊亀戦ももう少し楽だったのになー。しかし、誘拐犯じゃなかったのか。でもまぁ罪は罪だから)
「でもこのまま逃がすってのはもったいねぇなぁ」
「獣族とお楽しみってやつか?」
「あぁ? 誰がやるか。売り払ってやんだよ」
「俺ぁ、獣族でもいけるぜ」
楽しそうに言う者に親分が睨み付ける。
「お前ら馬鹿なこと言ってんじゃねぇ。気ぃ抜くなっつってんだろ。そんなこと……」
「親分、誰かここまで来てるようですぜ」
一番先に降り立ち辺りを観察していた子分が、親分の言葉を遮り静かに言う。その瞬間に全員がピリッと警戒した。
(足跡でバレたのかな? 何か仕掛けがあった? もう少し話を聞きたかったんだけど)
「周辺を探れ」
セージとベンは近くに隠れているため確実に見つかってしまう。しかし、移動すると気付かれるだろうし、出ていくわけにもいかない。
(これはマズイな。頼むぞ、シルヴィア!)
セージが小石を投げて合図を出し、シルヴィアたちが動いた。ガサガサと森を歩く音に、警戒感が強まる。
「冒険者か!?」
「そうだ!」
魔物の可能性もあるため、姿が見えないときは声をかけるのが常識だった。
シルヴィアたち三人は親分が見える位置で立ち止まる。
「見ねぇ顔だな。この辺の冒険者じゃねぇな」
(ってことは、こいつらはこの辺の冒険者なのか? いや、冒険者のフリをした盗賊団?)
シルヴィアは親分たちを黙って観察し、一番後ろに捕らえられた獣族がいることに気付いた。
セージは特技『ラビットイヤー』を使って盗み聞きしていたが、シルヴィアたちは聞いていない。
「ここに来るまでに誰かとすれ違わなかったか?」
「さぁな。武器を盗んだ盗賊団がいるという話は騎士から聞いたがここまでは会わなかったな」
親分が僅かに表情を変化させただけだったが、周りの子分は動揺していた。
(ふむ、何だかおかしいな。本当に盗賊団なのか? 誰から武器を盗んだ?)
「そうか。俺たちは森にこもっていたせいで全く知らなかったぜ。さて、この先は行き止まりだ。引き返すんだな」
「せっかくここまで来たんだ。私たちも行き止まりに何かないか調べよう」
「その必要はない」
「それは私たちが決めることだ。それとも何か都合が悪いことが有るのか?」
シルヴィアの声は冷静だが、目に怒りがこもっている。
ここで戦わずに騎士へ報告した方がリスクは低いとわかっていた。ラミントン樹海で行動するということはレベル50程度の力はあるということだ。そうなると人数的に不利である。
しかし、戻っている途中で魔物と戦っている時に後ろから襲撃される可能性がある。また、セージたちが隠れていることが見つかれば危険だ。
何より、シルヴィアが来る前に子分のうち三人が獣族を連れて隠れたのだが、木々の隙間から見えていたのである。捕らえられた獣族が危害を加えられる可能性を考えると、シルヴィアの正義感が逃げることを許さなかった。
セージはそんなシルヴィアの姿を見ながら思う。
(気持ちはわかるけど、なぜ正面から喧嘩を売る? もう少し油断させるように話をしてもいいのでは?)
「なんだ? 疑うのか?」
「疑う? 何を言っている。後ろに隠れた者が見えなかったとでも……」
「シィル、ちょっと待って。すみません、先輩方。こいつは今気が立ってまして」
シルヴィアと親分の話にチャドが割り込み前に出る。ライナスはシルヴィアに囁き下がらせた。
ちなみにシィルとはシルヴィアのことである。シルヴィアは名前が長いので、戦いの場ではシィルという愛称をつけている。
(おっ、チャドが収めてくれるのか?)
「生意気なガキだな。さっさと引き返せ」
「ええと、そうですね。僕らはその辺の森の中で待機するんで、先に行ってもらっていいですか?」
「そいつはできねぇな。早く行かねぇと痛い目を見ることになるぜ」
「そういわれましても……」
口ごもりながら一瞬森の中に視線を向ける。親分はそれを見て子分に指示を出した。
「クィン、二人連れてその辺を調べてこい。普通は五人パーティーだ。こいつらの仲間があと二人隠れているかもしれねぇ」
「へいっ!」
「あっ、それは……」
チャドは焦ったように手を伸ばした。
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