第79話 ライナスはさらなる高みを目指す
作戦会議が終わるとライナスたちは広がって、試合開始の位置を慎重に決める。この距離の取り方は授業でも習うことだ。
magnus修飾上級魔法を放たれても被害が少なくなるように計算されている。
ライナスたちの準備が整うと教官に合図を送る。教官はセージにも確認して、大きく息を吸い込んだ。
「開始!」
教官の声が響くと同時にライナスたちは走りだし、セージは呪文を唱える。
「ウィンドブラスト」
予想していた氷魔法ではなく風魔法が襲いかかる。
魔法の種類は違うとはいえ魔法が来ることはわかっており、構えていたはずだ。それにもかかわらず、強烈な暴風が叩きつけられライナスたちはなすすべなく薙ぎ倒された。
(この威力……特級魔法か!? 全員巻き込まれている!?)
HPを確認すると半分程度削られていた。一度の魔法でここまでHPが減ることなど初めてで、さらに全員が巻き込まれていることに愕然とする。
次にこの魔法が放たれた場合、パーティーが壊滅状態になるのは明らかだ。
焦りながら起き上がって走り出したライナスに速度低下がかかり、さらに魔法が発動される。
「ファイアウォール」
セージが手を向ける地面を中心に巨大な炎の壁が立ち上がり、ライナスたちの行く手を遮った。
発動した瞬間にライナスは右に走る。
(行動としては想定内だが、まさかこんなことになるとは。しかし、ファイヤウォールはこんなに大きかったか? もう少し小さかっ……)
ライナスが回り込むために走りながら考えていた時、突撃したはずのシルヴィアがファイアウォールから倒れ込むように出てくる。
その時にはもう首輪は外れていた。
(何があった!?)
前衛の中でシルヴィアのHPの減りが最も少なかったのだが、ファイヤウォールに入った瞬間から急激に減った。
パーティー全員が視界の端にあるHPを意識していたため、これには衝撃を受ける。
ライナスはHPの減り方を確認しており、三段階で減ったことはわかっていた。しかし、呪文を唱える時間は無く、物理攻撃にしては大き過ぎるダメージに何をしたか推測すらできない。
ライナスは驚きで止まりそうになる足を動かして回り込んだ瞬間、土の壁に阻まれた。
(くそっ! やられた!)
「メガスラッシュ!」
怒りを込めてアースウォールに特技を叩きつけるがびくともしない。
アースウォールは破壊することができるのだが、攻撃力が魔法の威力に勝っていることが必要だ。セージのINTでgrandis修飾されると、もはや特技を使おうとレベル50で対応できる強度ではない。
また、魔法士の場合は火、風、水なので、時間経過で壁が無くなる上にダメージ覚悟で通り抜けることができる。
しかし、魔導士の氷、土魔法の場合は、時間経過でただの氷、土に戻るが、無くなるわけではなく、もちろん通り抜けることはできない。
ライナスは手応えで確実に壊せないことを悟り、すぐに回り込もうと走り始めた。
(ハドリーとゴードンと合流させるつもりか)
セージはライナスに対してハドリーたちの方に戻る方が早くなるようにずらして魔法を発動していた。セージとしては挟み撃ちされると困るためである。
挟み撃ちしようと無理に遠回りした場合、ライナスがセージに近付く前に戦闘が始まってしまう。
アースウォールは全く向こう側が見えないため、何があっても対応できず、遠回りしているうちに戦いの場所が離れている可能性もある。
そう考えるとライナスは一旦戻るという選択肢しか選べなかった。
ライナスが土壁に阻まれて戻っていると、チャドのHPが減り始めた。そして、ファイヤウォールが消え去った時にはチャドが倒されるところだった。
しかし、ハドリーとゴードン、そしてライナスは確実にセージに近付いている。
「アイスウォール」
逃げるセージは振り返って手を伸ばし、魔法を発動。今度は至近距離に氷壁が形成された。
「回り込むぞ!」
ライナスの言葉を聞いて、ゴードンと別々に回り込もうとする。しかし、ハドリーはアイスウォールに剣を振りかぶった。
「やめろ、ハドリー!」
「メガスラッシュ」
しかし、ハドリーは止まらない。ハドリーは剣を振るったが、セージが作った氷壁は強靭で全く歯が立たない様だった。
ガキンッと響く音に目を向ける。
(やはりハドリーでも無理か。どれだけ魔法が……あれはっ!)
ライナスはセージがハドリーに手を向けていることに気づく。入学試験でスティールを発動されたことを思い出しすぐに叫んだ。
「逃げろ! ハドリー!」
その直後、ハドリーの手から剣が消えていた。
驚きの表情で固まるハドリーを置き去りにして、セージはゴードンの方向に走る。
(やはりそっちに行くか!)
「ハドリー! ゴードンの方に行け!」
その行動をライナスは予想していたのだが、それでも二手に別れるしかなかった。一方向からまとまって行くと、反対方向に逃げて魔法を放たれる危険性があるからだ。
ハドリーがゴードンと一緒に行動したら良かったのだが、出遅れている上に剣もない。
ハドリーがゴードンの方へ走り始めたのを確認してライナスは氷壁を回り込もうとした。そこで、猛烈なスピードで飛んでくるものに気付く。
直視できないほどの輝きになり、高速で飛来する物に、思わずライナスは氷の壁から出る直前で一旦止まる。
(この魔法はなんだ?)
ライナスは聖騎士をマスターしている。当然、光魔法は全て覚えているつもりだったが、知らない魔法だった。
盾を構えて警戒したが何も起こらず、光はライナスの前を通り過ぎる。
(何だったんだ今のは!)
ライナスは戸惑ったが今それを考えている時間はなかった。ゴードンのHPが減り始めていたからだ。
再び走り出しゴードンの方に向かう。
ライナスはゴードンの残りHPから間に合いそうだと思ったが、セージはゴードンが倒れる前にさらに逃げた。
しかし、闘技場は逃げ続けられるほど広くはない。それに、ゴードンの後ろにはハドリー、横からはライナスが迫っており、逃げ道はなかった。
(追い詰めたぞ!)
ライナスたちはセージを追い、とうとう闘技場の端まで来ていた。セージの後ろには後十メートルもない。
そこでセージは振り向いて魔法を発動する。
「ウィンドウォール」
中級風魔法ウィンドウォールにゴードンは吹き飛ばされて首輪が外れた。
ハドリーとライナスは少し後ろにいたため巻き込まれなかったが、セージに時間を与える訳にはいかなかった。
(行くしかない!)
シルヴィアのHPの減りから、中級魔法なら耐えられそうだとわかっていた。ライナスはそのままウィンドウォールに突入し、セージに斬りかかる。
「メガスラッシュ!」
鋭い剣閃をセージは盾で受け止めた。それと同時に、リタイアしたゴードンから剣を奪ったハドリーが一歩遅れて飛び込んで来ており、特技を放つ。
「メガスラッシュ!」
セージはそれを剣で受け止めるが、ハドリーの力に押される。そこをライナスはさらに攻める。
(これは勝てる!)
セージの口元がすでに動いていない、つまり呪文を唱え終わっていることはわかっていた。しかし、魔法を放つためには手をかざす、セージであれば右手に剣を持っているため左手を向けなければならない。
それに注意して攻撃していれば問題ないのである。
「シールドバッシュ!」
特技を放つライナスに、セージは後ろへ飛んで避ける。すると入れ違いにハドリーがさらに踏み込んだ。
今まで一緒に訓練してきたので連携はしっかり取れるようになっている。逃げようとしても二人がかりなら抑えられた。
セージは踏み込んでくるハドリーに向けて剣を振るうが、その剣閃に鋭さはない。
ハドリーは軽々とそれを避けたが、その剣はセージの手から離れてハドリーの斜め後ろにいたライナスに向かって飛ぶ。
(なっ!)
ライナスはまさか剣が飛んでくるとは思っておらず驚き、反射的に避けた。
ハドリーは丸腰になったセージに対して遠慮なく剣を振るう。
「メガスラッシュ!」
「シールド」
セージは唱えていた呪文を破棄して上級職である勇者の特技を使った。
シールドは一度の物理攻撃を防ぐ勇者の特技である。ハドリーの剣は強靭な壁に阻まれたように弾かれた。
(何だ!?)
連携をとっていたライナスもその光景には驚きを隠せない。セージはその瞬間にしゃがみこみ特技を放った。
「ハステイラ」
武闘士の特技、足払いの技ハステイラを発動され、ハドリーはバランスを崩す。前に出ようとしていたライナスにハドリーがぶつかる。その間にセージはそのまま後ろを向いて走り出そうとしていた。
ライナスはハドリーを押し返し、踏み込んで剣を振るう。
「テイルウィンド」
セージは地面を蹴りながら狩人の特技を使う。セージにだけ追い風が吹き、加速。ライナスの繰り出すメガスラッシュを避ける。
空振りとなった剣撃は地面を抉った。
(くそっ惜しいっ!)
「サラマンダー、サモン」
壁際まで追い詰められたセージは、赤い髪に筋骨隆々の男の姿をした精霊サラマンダーを召還する。
(これは、精霊!?)
ライナスはすぐに精霊であることに気づいて、とっさに逃げた。気づけたのは精霊の持つ雰囲気もあるが、物語に出てくる姿に良く似ていたからだ。
「フレアインパクト」
その言葉と同時にサラマンダーは地面を滑るようにセージの前に移動し拳を振り上げる。
ライナスは精霊を見た瞬間にすぐに逃げていたが、ハドリーは接近していた。
「メガスラッシュ!」
しかし、精霊に攻撃は効かない。その剣はサラマンダーをすり抜け、ガンッと地面を叩く音が響く。
それと同時にサラマンダーの拳が大地に突き刺さった。
その衝撃を表すかのように発生する炎の波動。至近距離にいたハドリーを打ち倒し、さらに扇状に広がっていく。
ライナスは急速に迫る炎から逃げきれないと考えて振り向き盾を構える。そして、フレアインパクトの炎の波はライナスに当たる直前で止まった。
ライナスは構えを解いてセージを見る。
ギリギリのところでライナスは助かったが、そこから動けなかった。
精霊は消えていたが、セージがライナスに手を向けているからだ。魔法使い相手に距離をとってしまい、パーティーは全員麻痺で倒れ、ライナスもHPは残り僅か。まさに壊滅状態である。
(これが上級職、いや、セージの力か。反則だろ)
ライナスは思わず笑ってしまった。
たとえ万全の状態であったとしても、この状態から勝つことなどできないだろう。今まで繰り返してきた対セージ戦のイメージはより明確になり、勝てないことを悟る。
「降参だ」
時が止まったかのような静けさの後、教官の指示によって他の一級生たちが麻痺を治すために走った。
そんな中、ライナスはほっと一息つくセージを見て思う。
(見た目だけでいえば子供なんだがな)
セージの姿は特別ではない。最後に剣を合わせた時も手応えはあった。それでも五対一で負けたのだ。
(最後は逃げずに精霊を無視してセージに攻撃するべきだったか。それより最初のファイアウォールに全員で突入すべきだったのか? それなら……いや、こちらの行動がわかっていたとしたらダメージを受けるだけだ。そもそも、何故ファイアウォールだったんだ? 精霊を出せば良かった……)
ライナスは先程の戦いの反省をしていてふと気づく。
(そうか。セージを倒すことに気を取られていたが、これは魔法使いを知り、多彩な技を知る訓練だ。学園対抗試合で勝つために)
ライナスは気持ちを切り替えた。ライナスが学園に入った当初、シルヴィアと歴然の差があったが、追い付いてきている。
今度はセージの領域を目指すだけのことだ。全てを貪欲に吸収し強くなる。そう切り替えられることがライナスの強みでもあった。
(今は学べということか。セージ。いつか、必ず追い越してみせる)
ライナスは気持ちを新たにさらなる強さを求めるのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます