第60話 受け流すノーマン

 ノーマンがセージのラングドン家到着の知らせを聞いたのは飛行魔導船が出発する三時間前だった。

 今回、飛行魔導船が出るのはノーマンが王都に行くためである。ついでにセージも同乗するということをノーマンは聞いていた。まさかここまでギリギリに到着するとは思っていなかったが。


 ちなみに、ノーマンが王都に行くのは王に会うためである。王国貴族は必ず年始に王国に出向いて謁見するのが決まりだった。

 すでに三月を迎えようとしているが、王宮内の新年会や公爵家との祝賀会、侯爵家とのダンスパーティーなどがあり、男爵は後回しにされてこれくらいの時期になる。

 例年は三月中旬頃になるのだが、今回は神霊亀の件があったので少し早まっていたくらいだ。


 セージは到着後、すぐにノーマンの所に来たので、到着の知らせから間もなく応接室に入ったことを知らされた。

 そこで、ノーマンも応接室に入り、お互いに座るとノーマンが口を開く。


「良く来たなセージ」


「ラングドン男爵閣下。神霊亀の件、凱旋をお断りすることになり申し訳ありませんでした」


 セージはまず謝罪から始めた。

 貴族の誘いを断っているのだ。さすがにセージもまずいと思っていた。

 だからといって、予定を変えたりせず、ランク上げを優先するのだが。


「問題ない。そんなに畏まってどうした。いつも通り話せ」


 ノーマンは貴族には珍しく、畏まった表現は必要ないと考えていた。ノーマン自身は貴族として生まれているが、曾祖父は元冒険者である。

 ノーマンもその血筋があるからか、貴族と交流を持つより、軍で剣を振る方が好きなタイプだ。


 それに、今回はセージの手柄を奪う形になってしまったので、畏まられると何かあるのではないかと勘ぐってしまうというのもある。


「謝罪くらいはしっかりしようと思いまして。あと武具の買取ありがとうございました。ノーマン様には献上すべきかと思ったんですが、どうしても素材などの経費が必要で売り付ける形ですみません。それにまとまった量の揃った装備なら良かったんですが、都合上バラバラになってしまって。見本品ということにしておいてください。ところで、武器は使えそうですか?」


「そうだな。まだ検討中だが使えるものはあるだろう。軍に配備するため量産することはできるのか?」


 検討中と表現したが、実際は送られてきたものの半分以上がノーマンの部屋に保管されたままになっている。

 無闇に出せないような品が多かったからだ。武具が送られてきている事を正確に知っているのはノーマンの他に執事長、トーリだけである。


「ええ、ケルテットの町のガルフという鍛冶師に頼めば作ってくれるでしょう。お金と時間はかかりますが」


「どれでもいいのか? 例えば、火炎の剣でも」


「火炎の剣、ですか? 構いませんが……」


 首を傾げるセージにノーマンが聞く。


「どうした? 火炎の剣は難しいのか?」


「いえ、そんなことはありませんが、ノーマン様に紅蓮剣・焔を送りましたよね? 火炎の剣より紅蓮剣・焔が上位装備なので、そちらをおすすめします」


 火炎の剣はドワーフ族から購入出来るため、高値ではあるが揃えても不思議ではない。

 ただ、ノーマンにはドワーフ族との繋がりがないので購入できなかったが。


 そして、紅蓮剣・焔はそもそも売ってすらいないものだ。そんなものを不用意に揃えたら王国から睨まれるだろう。

 王国に黙って配備したら、最悪の可能性として、反逆だと言われて攻め込まれる可能性もある。


「確かに紅蓮剣・焔もあるが、それは国王陛下に献上するつもりだ。男爵家があまり強力な装備を配備するわけにもいかん」


 その言葉にセージはまた首を傾げる。


「あまり国王様に気を使わなくてもいいのでは?」


「そんなわけにいかない。国王陛下は神の子であり、国を守り、統治する方だ。この領は国王陛下から賜り、俺が……」


「国王は神の子ではありませんよ」


 セージが不敬なことをさらりと言う。この時、ノーマンはトーリの言葉を思い出した。


 紅蓮剣・焔が届いたくらいの時のことだ。ありえないレベルの武具が破格の値段で売り付けられるのでセージは何者なんだとトーリに聞いたことがあった。


「セージは神の使者であり、この世界の真理を知る者です。国宝級の武器を作るくらいなんてことはないでしょう」


 ノーマンは冗談かと思ったが、トーリを見るとさも当然という顔をしていたのだ。

 そもそもエルフ族は神への信仰心が強いので、そんな冗談を言ったりしない。


 その時ノーマンは何と答えて良いかわからず「そうか」とだけ言い、話が終わってしまった。


 ちなみに、トーリはルシールからも少し話を聞いており、トーリの中で神の使者セージ伝説が膨れ上がっていた。


 何とも言えない表情をするノーマンにセージが話を続ける。


「それに、神霊亀が侵攻して来るというのに王都からの飛行魔導船に勇者どころか王国の騎士が一人も乗ってなかったんですよ。この領を守る気もありません」


 不敬な言葉に続けて文句を言い出すセージにノーマンが答える。


「この領を守るのは領主たる俺だ。王が任せたのだ。そして、それが貴族としての義務でもある」


 セージはなるほどという顔をして少し考え「確かにそうですね」と納得した。

 ノーマンは意外と素直に受け入れるセージに拍子抜けしていると、セージから何とも言えない質問が飛んでくる。


「ところで、ノーマン様は国王様が神の子だと思いますか?」


 それは、今のノーマンにとって答えにくい質問だった。年に一回は王に謁見するのだが、正直なところ王よりセージが神の子だと言われた方が信憑性がある。


 そして、神の使者疑惑があるセージは、国王が神の子ではないと断言しているのだ。

 しかし、ノーマンは王国の貴族として王を否定するわけにもいかなかった。

 口を閉ざすノーマンにセージは問いかける。


「国王様はこの領を守ってくれると思いますか? 結局国王様がいてもいなくても一緒。むしろ税やら献上品やらで領にとってはマイナスです」


「……国王陛下は国の頂点であり、国というのは在るだけで民を守っているのだ」


 もし国から離脱したとすると周りが全て敵になる。一国と一領では規模が全くことなるため、例えラングドン家が軍に力を入れてようと耐えられない。

 それにラングドン領は国境付近に位置する。他国からも攻められたら、ひとたまりもないだろう。


「そうですね。攻めて来られたら困りますからね。国と戦える力をつけるまでは気を使わないと。ということで、これをお渡ししましょう」


 いつの間にか王国に反逆を起こす計画がほのめかされていた。しかし、それが神のお告げという可能性もあり、ノーマンは肯定も否定もしない。

 ノーマンは考えるのをやめてセージが差し出した物を見る。


「これはなんだ? 金属のようだが」


「アダマンタイトです」


「アダマンタイト? 勇者の剣を作るために使ったと言われている物か? これが?」


 緑がかった鈍い輝きを持つ金属で、特に光輝いている訳でもなく、特別なものには見えない。

 商人ではないので鑑定が使えないノーマンは、アダマンタイトを見てもピンとこなかった。

 

「そうです。アダマンタイトは神霊亀から採れるんですよ。さらに、神霊亀撃退に使った精霊の盾をつけましょう。使用武具に戦利品、これで王へのお土産は完璧です」


「精霊の盾だと? アダマンタイトの上にそんなものまで渡してもいいのか?」


 先ほどまで王国に反旗を翻す話だったので、急な大盤振る舞いに驚く。

 しかし、セージにとってこれくらいは大きなことではない。アダマンタイトも神霊亀から複数個盗んでいる。その中でも一番小さい物を選んでいた。


 ちなみに神霊亀がシリーズの様々なところで出てくるのはアダマンタイトが神霊亀からしか採れないという設定だからである。


「いいですよこれくらい。僕は別の盾を持ってますから。それにアダマンタイトを扱えるのはガルフさんくらいでしょうし。あっそうだ。ノーマン様にもお土産があるんですよ」


 セージは無造作に置いていた袋から剣を取り出しノーマンに渡す。

 精霊の盾とアダマンタイトをこれくらいと言って渡せることについて思うところはあったが、ノーマンは気にしないことにした。


「おぉそうか。セージが扱うには大きすぎる武器だと思っていたが。立派な剣だ。しかし、見たことがないな。珍しい逸品だ。今まで見てきた剣の中でもこれほどの……セージ、この剣の名はなんという?」


 剣好きのノーマンのテンションが上がったが、剣好きだからこそ、鑑定をしなくても剣の質がわかった。

 これまでの傾向から安易に貰ってはいけない剣ではないかと感じてくる。

 そんなノーマンの気持ちは露知らず、セージは嬉しそうに答える。


「勇者の剣です。効果が魔族に対してプラス20%ダメージっていう微妙さなんですが、攻撃力は現在作れる中で最高峰ですよ。ノーマン様は剣がお好きだと聞いたので喜んで頂けるかなと」


 魔族というのは魔物ではなく魔王などを指している。つまり、魔王級のボス戦以外の時はただ単に攻撃力の高い剣となる。

 勇者の剣・雷など上位互換があるということもあり、セージの中では上の下くらいの装備だ。


 ただし、それはセージの中の話で、この世界では異なる。

 勇者の剣は他国の国宝である。このグレンガルム王国には存在しない。

 決して袋に詰めて適当に置いていて良いものではなく、効果が微妙などというものではない。


 しかし、ノーマンは注意しなかった、というよりできなかった。

 神からのお告げによって製法がわかり、勇者の剣を作ることができたという伝説が他国から伝わっているからだ。

 セージはガルフが作ったということにしているのだが、もちろんノーマンはセージがガルフに教えていることを知っている。


 つまり、セージが神のお告げをしているとも言えるのだ。ノーマンの中で、トーリの言葉の信憑性が高まっていた。


「……そうか」


 複雑な感情を心に秘めて一言だけ呟く。


「ところで、その代わりに、というわけではないんですが、お願いがあるんですよ」


 セージが笑顔で言う。ローリーとティアナの件など色々と伝えておくべきことがあるだけで、そんなに大したことではない。

 そんなことを知らないノーマンは勇者の剣の代わりに何をお願いされるのかと戦々恐々とするのであった。

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