第32話 仕事と試験準備、そして王都へ

 王都の学園の入学試験は十一月と五月にある。試験日に十二歳であれば受験でき、十一月に合格すれば四月に、五月に合格すれば十月に入学となる。

 今は七月なので、受けに行くまで三か月以上の空白があった。


 ということで、一応所長であるため研究所に行って仕事はしている。仕事と言うよりランク上げの作業のようになっているが。

 また、入学試験のために合間をみて騎士団の訓練に参加していた。


 研究所ではランク上げが捗った。それは、貴族のコネで上級の錬金術書と魔道具書が手に入ったこと、そして資金が潤沢にあることが大きい。

 出来たものは全てラングドン家の物になるのだが、ランクさえ上がればいいセージにとっては全く問題なかった。


 毎日新しい物に挑戦し、ランクが上がれば違う物を作り、そんなことをしていても怒られず、素材は自由に買える。明かりも使えるので夜も作業に困ることがない。

 しかも、そんな生活をしながら月給金貨一枚が支払われるのだ。


 ランク上げが趣味のセージにとっては、問題ないというより、むしろ最高の環境と言える。

 生産職に注力した甲斐もあって錬金術師はマスターし、魔道具師のランク上げにシフトしていた。ぐんぐん上がっていくランクに嬉しくなり、さらにランク上げに力が入るのであった。


 当主のノーマン・ラングドンは毎日のように届けられる魔法薬や魔道具が役に立つのか、どれくらい必要か、費用はいくらかかるのか、考えることが山積みになり忙しい日々を過ごしている。

 最近は騎士団を見に行く時間が無くなったくらいだ。しかし、生産される物は確実にラングドン家にとってプラスに働いている。


 代替わりしたばかりで改革しようとしているノーマンにとってはありがたいことで、止めることもできない。仕方なく毎日デスクワークに励んでいた。

 たまにセージが戦闘・支援職のランク上げに行くため留守にするときは実はホッとしているのであった。


 ちなみに研究所の所員も次々と来る生産依頼に追いついておらず、多忙を極めていた。それに、研究所というより生産場になりつつある。

 ただ、所員のランクはぐんぐんと上がっており、士気は高まっていた。


 セージが生産職のランク上げの合間に行っていた訓練によって、STRやVITなどが今までにないくらい上昇した。

 というのも、セージは前世も含めて本格的に鍛えた経験もなかった上に、実戦では薬品やバフに頼っていたためである。


 最初の一か月は基礎訓練についていくこともできず、途中お茶休憩をしながら参加するほどであった。

 騎士団の訓練に行けない日でも、毎日欠かさず自主練習をして地道に鍛えた。ギルやルシールも見に来てくれるため、セージ自身が驚くほど成長していた。


 剣術も最初は隙だらけであったが、今は一番下っ端の騎士となら打ち合える程度にはなっている。

 レベルはセージの方が高いのだが、物理攻撃に必要なステータスは同等で、体格の差があるため負け越していたが。


 そんな充実した生活を続けて、レベル40、聖騎士になった。あまりレベルや戦闘・支援職ランクは上がっていない。

 暗殺者の特技『ステルス』によって効率的に戦えるようになったとはいえ、そもそも研究所の所長である。生産職のランク上げに注力していて時間がなかった。

 セージのステータスは未だに魔法使いの形であるが、前衛としても少しなら戦える程度にはなってきている。


 セージ Age 12 種族:人 職業:聖騎士

 Lv. 40 

 HP 898/898

 MP 4514/4514

 STR 138

 DEX 266

 VIT 133

 AGI 144

 INT 570

 MND 559


 戦闘・支援職

 下級職 マスター

 戦士 魔法士 武闘士 狩人 聖職者 盗賊 祈祷士 旅人 商人


 中級職

 聖騎士 ランク4

 魔導士 ランク1

 暗殺者 ランク50 マスター

 探検家 ランク1


 生産職一覧

 下級職 マスター

 木工師 鍛冶師 薬師 細工師 服飾師 調理師 農業師


 中級職

 錬金術師 ランク50 マスター

 魔道具師 ランク23

 技工師  ランク2

 賭博師  ランク50 マスター


 セージとしてはランクをもう少し上げておきたいと思っていたが、試験の日が迫り、王都に来ていた。


(ここが王都か。煉瓦や石造りの町はやっぱり綺麗だな。ヨーロッパみたいだ。行ったことはないけど)


 馬車から降りて街中を歩く。馬車は大通りまでしか入ってはいけないからだ。

 セージは色々見て回りたかったのでちょうど良い。


(思ったより活気があるし、人が多くにぎわっているなぁ。東京とまではいかないけど、前世の町を少し思い出すな)


 この通りは学園に向かう道で、両側に様々な店が立ち並んでいる。ラングドン領より人が多いのはもちろん、お洒落な人も多い気がした。

 ただ、セージが気になるのは人よりお店の商品だ。


(やっぱり錬金術の店は気になるよな。おっ、品質が良の回復薬がある! 初めて見た! どうやって作るんだろう)


 新しい街に来たことでセージはテンションが上がっていた。商人をマスターしたことで使える鑑定をしながら歩く。


(あっ、隣は魔道具の店だ。金貨一枚って、めちゃくちゃ高い! 高すぎじゃない? いくら高級な素材を使うと言っても大銀貨1枚あれば揃うぞ。これが普通なのか、ここがぼったくりなのか)


 買うことは無いがアイテムを見て回っているだけで楽しかった。

 セージはゲームで新しい街に付くととりあえず全てを隈なく見て調べて回りたいタイプだ。


 もちろん現実ではそこまでできない。行ける部分に自由度がありすぎて入り組んだ裏路地を歩いて回ってたら日が暮れるだろう。観光客の様に店を見て回ったり、裏路地を覗いたりするだけだ。


 試験会場の場所を聞き、進んでいったところでわかったのが第一、第二学園と第三学園との格差であった。

 通りの突き当りにあった門は第一学園のもの、向かって左側の道の突き当りにある門が第二学園のもの、第三学園はそこにはなかったのである。


 第一学園の衛兵に聞くと、右側の道を進み途中にある第一学園の校舎と訓練場の間を通ると教えられた。

 その道はぎりぎり人がすれ違える程度の細い道で、上にいくつか橋が架かっていた。

 突き当りに門というより小学校の入り口のような雰囲気で第三学園があった。

 入るとすぐに広い運動場がありその奥に建物がある。建物はやはり石造りで日本とは雰囲気は異なるが、セージの通っていた小学校の構図によく似ており、懐かしさを感じた。


(ここが第三学園か。うーん、求める蔵書があるようには思えないな。第一学園の蔵書って見れるのか? 一番の目的はそれなんだからな。最悪忍び込むけど、できれば合法的に見たいよな)


 そんなことを考えながら運動場の真ん中あたりにある人だかりに歩いていく。


「走りなさい!」


 大声で怒られてセージは走り出す。


(騎士の訓練みたいだ。思ったよりしっかりしてそう。しかし、少し高い声だったな。たぶんあの子だ)


 第三学園には魔法の試験はない。十二歳という年齢的に男女差はなく、むしろ女の子の方が身体が大きい傾向にあるため有利だ。しかし、騎士を目指すのはやはり男の子が多いため、八割は男の子であった。


 その中で中心的人物に見える女の子がいた。セージはその子に向かって走る。

 十二歳にしては高レベルかつ騎士団で鍛えられていたため周りが驚くほど素早い。


「集合の時は常に走るのがここの常識よ。覚えておきなさい」


「はい!」


 セージは大きな声で返事して敬礼の姿勢をとった。

 セージは今まで日本人的にお辞儀をすることが多かったのだが、この世界ではそれは商人が良くする所作として認識されている。


 軍隊の王国式敬礼は指先をまっすぐ伸ばし、右手を左胸に置く動作である。

 これはラングドン領の第三騎士団で学んだことだ。ずっと繰り返していたため、なかなか様になっていた。

 ただ、平民が集まるこの場では珍しいことであった。



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