第29話 セージ、町を出る

 それから二か月間セージは忙しい日々を過ごした。


 まずはルシールを連れてマーフル洞窟でゴースト系を狩り、その後街に戻って別の魔物を狩った。

 そして、鍛冶場では今回得た金を使って金属を購入し、まだ造ったことのなかった剣を何本も造って、さらに孤児院の改築を最後まで終わらせて、木工師と鍛冶師をマスターした。


 お世話になった鍛冶師のガルフには魔剣鍛造の技術、木工師のジッロにはトーリの店での販売権をプレゼントした。ついでにティアナの服もトーリの店で売ることになった。

 この三人にはセージの装備などを発注しており、また取りに来ることを約束している。


 トーリが薬屋からいなくなっても今まで通り高品質薬を店に並べるため、ラングドン家と話をつけて定期的に高品質の回復薬などを卸すことになった。

 回復薬はラングドン家から運ぶことになるのだが、利益の一部は孤児院に流れることになり、その名義はラングドン家としている。

 ラングドン家の懐を傷めず、慈善事業の一環として扱われるためラングドン家の株があがる。Win-Winの関係であり、その条件を基にセージが話を進めた。


 トーリがラングドン家の研究所で正式に働くことに決まったため、店の管理ができなくなる。

 そこで、孤児院から商会に就職していたローリーを無理矢理引き抜いて託すことにした。無理矢理とは言ってもローリーの話を聞いた上で引き抜いている。


 ローリーは一生懸命働いていて能力もあったが、やはり孤児院出身ということで待遇は回りと比べて悪いようだった。一般的に大人扱いされる15歳になってもそれは変わらなかったため、商会を辞めることに関して問題はなかったようだ。

 もちろん商会からすればローリーを手放したくは無かったので揉めそうになったが、セージはラングドン家の研究所長である。

 バックにラングドン家がいると知った商会はすぐに手を引いた。セージはこの時初めて研究所長になって良かったと思った。


 ちなみに、トーリの店は回復薬、服、木工品など雑多な物を扱う店になってしまったが運営はローリーに丸投げである。

 ローリーは十五歳になったばかりだが、ジッロもいるし、ラングドン家が納品している店に手を出してくるやつもいないだろうということで心配はしていなかった。


 そして、セージのステータスはラングドン家に行く頃には大幅に向上していた。


 セージ Age 11 種族:人 職業:暗殺者

 Lv. 34 

 HP 376/376

 MP 3872/3872

 STR 88

 DEX 249

 VIT 57

 AGI 101

 INT 490

 MND 363


 戦闘・支援職

 下級職 マスター

 戦士 魔法士 武闘士 狩人 聖職者 盗賊 祈祷士 旅人 商人


 中級職

 聖騎士 ランク1

 魔導士 ランク1

 暗殺者 ランク22

 探検家 ランク1


 生産職一覧

 下級職 マスター

 木工師 鍛冶師 薬師 細工師 服飾師 調理師 農業師


 中級職

 錬金術師 ランク14

 魔道具師 ランク1

 技工師  ランク2

 賭博師  ランク50 マスター


(ステータスが上がったとは言っても、職業補正が大きいし。相変わらず魔法タイプだし。生産職の中級職も全く変化ないし。もっと考えないとなぁ)


 セージは最初の中級職に暗殺者を選んでいた。まず勇者を目指すのであれば聖騎士であるが、暗殺者の特技にステルスがあり、ランク1から覚えられると知ったからである。

 ステルスは魔物に気づかれにくくなる特技である。ゲームではエンカウント率が下がるなどの効果だったが、この世界では視界に入るなどしなければ気づかれない。

 また、戦闘中に使えば攻撃のターゲットになりにくくなったりもするためランク上げに有用であった。


 ビッグタートルの大量発生やマーフル洞窟など特定魔物が多い場所であれば良いのだが、魔物を選別しながら特定の魔物だけを倒すのは非常に時間がかかるからだ。

 レベル20までに何年もの長い時間をかけたのはそのせいだ。

 自分のランクより低い魔物も高い魔物も避けて特定の魔物だけを倒すというのは簡単なことではない。


 ステルスを使えば無駄な魔物の回避が容易になり、ランク上げの効率が上がる。

 実際、暗殺者になってからのランク上げは今までより格段に楽になっていた。


 全ての用事を済ませると、街でお世話になった人たちに別れを告げ、セージは領都へ旅立った。

 そして、途中でルシールと合流し領都へ向かった。


 領都では色々と見て回りたい気持ちを抑えて、まっすぐラングドン家に向かう。


 領主の館は城などの類いのものではないが、豪邸であった。

 長辺が三十メートルくらいありそうな長方形、石造りでガラスの窓もある立派な館である。

 館に向かって右側には研究所と寮、その奥に使用人の建物、左側には騎士団の会議室や訓練場、馬などがいる牧場がある。中央は綺麗に整えられた庭があり、さすが貴族だとセージは思った。


 領主、そして研究所の人たちに挨拶をした。

 両方とも本当に挨拶をしただけで、研究所の全てはトーリに任せると伝えて丸投げである。

 見た目が子供で、さらにあと数ヵ月したら王都の試験を受けて、来年には学園に通うことになっている。研究所にいる時間はあまりないだろう。

 研究所の人たちは本当にセージが研究所長なのかと思っていた。


 一通り挨拶が終わり、次に騎士団の方に向かって庭を横切って歩いていた。


(よし。これで後はこの辺の魔物を調べて、ランクとレベルを上げて、中級職をマスターしないと。あと騎士団の訓練に参加して、学園行きに備えて、そうだ、ルシールにここでの宿題を伝えないと)


 ルシールは魔物と戦い続けて、商人と旅人のランクが上限に達していた。

 聖騎士はマスターしているため、あとは賭博師をマスターすれば勇者になれる。


(賭博師ランクを上げる方法を伝えないと。前世の知識を使ってあらゆるギャンブルを教えようかな。でも、この世界にはトランプがないからなぁ。ある程度はアレンジしないと。んっ、あれは……魔法騎士団長だ)


 前からセージの方に向かって人が歩いて来ている。会議に出たときルシールを除いて唯一の女性、魔法騎士団長のレベッカだ。

 女性一人だと大変だろうなと他人事のように考えていたので覚えていた。


(研究所長と魔法騎士団長、どっちの方が偉いんだろう。一緒だっけ? まぁここは年長者を立てておこう)


 道を開けて軽く礼をして通り過ぎるのを待つ。しかし、レベッカはセージの前で止まった。


「君がセージだな。私は魔法騎士団長のレベッカだ」


「研究所長のセージと申します。よろしくお願いいたします」


 レベッカは厳しい表情のまま「よろしく」と言う。


(何だか友好的じゃないな。なんだ? 目があうのは喧嘩の合図とかそういうやつか? 喧嘩なら買わないぞ)


「何かご用ですか?」


 セージは訝しげに思いながらもレベッカに質問した。

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