第21話 招集
「タケ
「別に呼び方変える必要は無いぞ?」
「あ……じゃ、じゃあ先輩」
「そっちを選ぶのか」
昔から変わってる娘だったけど、それは高校生になっても変わっていないらしい。
「本当にあの高谷先輩と知り合いなんですか?」
そう尋ねてくる少女は、期待と疑いが半分くらいずつ混じり合った無垢な瞳を黒髪の奥に覗かせている。
そうか、新入生の間でもナギは有名なのか。
普段同じ教室で生活しているせいで麻痺しているが、アイツの人気というか注目度は凄いらしい。イケメンって大変ですね。
「というか、本当に来るのかも怪しいけどね」
もう一人。俺とは一切目を合わせようとしてくれないその少女は、栗色のツインテールを揺らしながら嫌味を含んだ口調でそう言い放つ。
そう思われるのは仕方ないが、せめてもう少し遠慮をしませんか?一応俺先輩だし。いや、こういう扱いにも慣れっこではあるんだけどね?
「もう少し待ってろ。もうじき——」
そこまで言いかけたとき、音楽室の扉がガラガラと開く。
その瞬間、薄暗かった室内がパァッと明るくなった気がした。
少女たちの表情は信じられないというような驚きに満ちている。どうやら本当に信用されていなかったらしい。
「ごめんタケっち!待った?」
「いや、待ってないぞ。約束より早いくらいだ」
俺からすればごく自然なナギとの会話だが、背後から羨望と嫉妬の眼差しを向けてられているのを感じる。一瞬だけだが優越感が俺を満たす。だがもちろん、次の瞬間にそれは劣等感に取って代わる訳だが。
「本物の高谷先輩だ……」
「本当に来た……」
少女たちの眼中にはすでに俺は居らず、すっかりナギに見惚れてしまっている。しばらくは
それを待っている時間は無いので、その状態の二人をそのままナギに紹介する。
「こっちが
黒髪少女、そしてツインテール少女を手前から順に紹介する。
「あ、うん。初めまして、高谷那岐です……が?」
爽やかに挨拶を決めながらも、説明を求めてこちらへ視線を向ける。
心配しなくてもちゃんと話すさ。
「ナギ、俺たちに協力させてくれないか?」
*
「——という訳で、楽器が出来る人材を集めた」
正確には『集めてもらった』ので、俺の言い方には少しだけ語弊がある。
全てのきっかけは昨日のお昼。
尊都へのメールがきっかけで畔戸ましろに繋がり、媛の心当たりが永井咲へと繋がった。
そして忘れてはならない、榮さんの存在。
彼女のあの助言が無ければ、この結果は得られなかった。
改めてここに集まった面々を見渡す。
畔戸ましろは尊都の幼馴染だ。小学生くらいの頃、たまに家に遊びに来ていたので一応覚えてはいたが、なんせ最後に会ったのがもう数年前だ。女の子は変化が大きすぎる。
あのあどけないイメージの女の子と、目の前の美少女が脳内で全く結びつかない。
そして、先ほどから俺への敵意がむき出しになっているツインテールが永井咲。
こちらは媛の友達の妹の友達……?だとか言ってた気がするが正直どうでも良い。
俺のことを嫌う人間を俺が好かなきゃならん道理は無い。
だが、ここに集まってくれた二人、そして集めてくれた三人には本当に頭が上がらない。
「あの、タケ……じゃなくて先輩。メンバーってこの四人なんですか?」
「は?何言ってんのよましろ。コイツが出来る訳ないでしょ?」
こんのガキ……!
しかし、腹の立つ言い方ではあるが間違いではない。それに協力してもらっている立場なので何も言えない。グッと堪える俺。なんて大人なのだろうか。
「あ、ああ……メンバーは四人だが最後の一人は俺じゃない」
「じゃあ誰なのよ?」
当然の質問だろう。音楽についてはよく分からんが、練習が必須なのは俺でも分かる。だが今回の計画では全員そろっての
「あ、それはオレから——」
「——秘密だ。本番までな」
ナギの言葉を
「そ。まぁいいわ。よっぽど大物なゲストみたいだし、サプライズイベントならぶっつけ本番も仕方ないわね」
そう。彼女たちには今回のこの計画について、本当のことは教えていない。
そもそもこの計画の全てを説明するには、ナギのあの話をする必要がある。しかしそれが出来ない以上、事情を話さずに協力してもらうしかない。
では、事情を話さずに協力を得るにはどうしたら良いか。
それは、『本当のことを話しつつも真実は伝えないこと』、そしてその上で『相手にとってのメリットを提示すること』だ。
今回に関して言えば、ナギのあの話については一切せず、ゲリラライブをさも仕組まれたイベントであるかのように伝え、参加すればナギとバンドが組めるというメリットをぶら下げた。
そう。俺がやってることは詐欺師と変わらない。
ナギの目が説明を求めている。当然だろう。ナギのことも騙している形になっている。だが、
今週末が本番である以上、メンバーを探し直す時間も無いし、そもそも今からの練習で成功させられるかどうかも怪しいところだ。
だったら少しでも成功率を上げるため、そして万が一のときの為に出来る限りの手を打っておく必要がある。
「ここの備品を使う許可は得てある。だから今日はひとまずここで練習してくれ」
「タケっちは?」
「俺はまだやるべきことがあるんでな」
そう告げて音楽室を後にする。
ひとまずはメンバーが揃った。あとはナギ達次第である。
きっと榮さんや媛ならもっと上手くやれるのだろう。だが俺にはこういうやり方しか思いつかなかった。そしてそんな俺が出来る事はもうほとんど無い。
そんな無力な俺でも出来る事。無力だから出来る事。
制服のポケットから携帯を取り出し、通話ボタンを押して発信する。
そして三回目のコールで電話が繋がる。
「先生、このあとって時間ありますか?」
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