四
「す、すまん。許してくれ」
希羅のあまりの剣幕に、修磨は素直に謝ってしまった。その姿は、酒を飲んでこっそりと真夜中に帰って来た普段は亭主関白な夫が結局見つかってしまい、妻に平謝りするという、その時ばかりは普段の威厳も何処へやら、に似た情けないものであった。
そんな漫才ばりの光景を見て、洸縁は思わず吹き出してしまった。
「まさか、この世で最強と謳われる鬼のこんな姿見れるなんて。生きとくもんやな」
その後もケラケラと笑う洸縁に、希羅にもようやく気を取り戻し、次いで、顔を真っ青にさせた。
(ど、どうしよう。怒りで思いっきり叩いてしまったけど)
希羅が修磨をちらと目だけで見ると、しょぼんと肩を落としているだけで怒っている風ではない様子。一先ず安心し、胸を撫で下ろそうとした希羅だったが、頭の中でだけ勢いよく左右に頭を振った。
「ああああの、洸縁さん。この鬼はぜんっぜん!悪いやつじゃないようなので、退治しなくてもいいと思います!」
希羅は握る手に力を籠め、その後も力説しまくった。
思うは、家が壊されては堪らない、の一心であった。悪いやつではないと言うのは、感じたままの本音ではあったが。
「希羅ちゃん」
洸縁の声音が鋭く厳しいものに変わり、希羅は身体中に力を入れ緊張してしまった。が、すぐにその緊張は解かれることとなった。
「この鬼は君の守護神や。よかったなぁ」
自身の肩をぽんぽんと軽く叩きながら穏やかな笑みを浮かべる洸縁に、希羅は安堵からか、身体中の力が抜けその場にへなへなと座り込んでしまった。
「おまえ。陰陽師のくせに俺を退治しようとは思わないのか?」
修磨は殺気を押さえようともせずに睨みつけていたが、洸縁もまた穏やかな笑みを崩そうとはせずに、肩をすくめながらその問いに答えた。
「僕な。何でもかんでも、妖怪は悪いやつやって退治しようとする京都の陰陽師の考え方が嫌で、組織から抜け出したんや。君が人に害を成さない鬼やって分かっているのに、何で退治せなあかんの」
「…おまえ、まさか」
刹那、顔を強張らせた修磨の表情を、洸縁は見逃してはいなかった。
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