第8話 異界人

「異界人――――?」


 アキトは目を大きく開き口もだらしなく開いていた。その反応を少し面白そうに梓音はアキトを見ていた。


「そう、異界人。このビルにもいるんだけどいつか会う機会もあるわ。彼らと最初に接触したのは日本、アメリカ、カナダ、ブラジル、オーストラリアになるわ。理由は太平洋中心に彼らの大陸が出現したためね。そこにも国があるんだけど、まあそれは後で詳しく聞いてね。彼らは”意識共有ヴィレ”という技能スキルがあって、これは多種族、他国家での言語の壁を越えて意思疎通が出来るスキルなの。

ちなみに”意識共有ヴィレ”は後で君にも付与されるからね。それによって彼らと接触した各国の首脳たちは今の世界の変異に対し早急に理解を深めたわ。もちろん、それにも5年以上は時間が掛かったけどね。でもそれによって魔力の存在、魔物の存在などの知識を得ることになったわけね」

「まだ理解に時間がかかりそうです、でも気になったんですが、なぜ異界人の人達はそんな事をしたんですか?」

「そんな事って?」


 アキトの質問に対し、梓音は首をかしげた。


「だってその異界人の人達ってまるで

「本当に鋭いね。そう、その説明をするために異界人の人達の話から説明しようかしら。これはまだ検証されていないため、一応そういう説という扱いなんだけどね。彼ら曰く『この世界は三つの世界が隣り合わせに連なった世界である』という事らしいの。三つの世界、それぞれ人界、妖精界、魔界の三つね。そして異界人の人々はその妖精界から来たらしいわ」

「妖精界ですか?もしかして異界人って人間じゃない?」

「そう、今は自分たちを妖精種と呼んでいるようだけど、見た目はファンタジーおなじみのエルフ、竜人リザードマン、ドワーフが主ね。それ以外にもピクシーとかまだいっぱいいるみたいだけどほとんど表には出ていないわね」

「では、魔界ってなんですか?」

「そう。この話の肝ね。魔界、魔物と呼ばれる存在がいる世界らしいのだけど、その魔界が今この世界、つまり人界へ侵略をしているそうなの。まず魔物が生息できるように人界に魔力を満たすという所から始めたそうよ。それを察知した妖精界の神、たしか【精霊王】と呼ばれる存在らしいのだけど、すぐに人界の神に連絡をしたらしいわ。その結果、私たち人類は”異能アビリティ”を得た。この異能は妖精種の人達も持っていない力だそうよ。元々魔界は人界と妖精界の両方方を侵略する予定だったけどまずは何の力もない人界を最初に攻めようとしたというのが今各国の予想。妖精種はそれの援護に来たって分けね」


 そう言われて一つ疑問が頭をよぎった。


「――対魔人殲滅部隊って」

「――――それはね。対魔でも副隊長より上の人しか知らない事だから他言してはダメよ。中華国上部にある都市でね、レベルⅢの氾濫が起きたわ。それはオーガタイプの魔物の氾濫だった、あそこは大陸が大きいでしょ? だから発見が遅れ中華国の軍が到着し自体を把握した時には既に一万に迫る勢いの魔物の軍勢になっていた。そうして誕生したのが、【小さい魔界ダンジョン】と呼ばれる場所よ。そこは別世界になっていて、妖精種のエルフから聞いた話だと恐らく魔界の入り口だろうって事ね。その【小さい魔界ダンジョン】を破壊するためには核になっている魔物を殺さなくてはならない。それが――――」

「魔人?」

「そう、魔人。通称レベルⅣ。まだ世界で報告されている魔人出現はその中華国だけね。ダンジョンの出現自体は世間に広まっているけど、魔人の存在については伏せられているわ。今世界中のハンター達がそのダンジョンの攻略を進めているけど……」

「中華国には対魔のような軍はないんですか?」

「あるわ。名前は【赤龍軍】っていうのだけど、中華国代表が自国に発生したダンジョンだから他国の軍の力は借りないって言っててね。幸いハンターギルドは国境の垣根を越えて作られた組織だから、ハンター達は参加しているようだけど、それでもまだ攻略されていないの」

 

 アキトの質問に苦笑いを浮かべた梓音は答えた。


「もうすぐ3年目になるわね。どうも成長しているみたいで、段々深くなっているみたいなの。やっぱり、最初にダンジョンが出現した際に現れた魔人を取り逃したのがまずかったみたいでね」

「魔人は最初からいたんですか?」

「そうよ。魔人が出現し、ダンジョンが生成されたみたい。だから叩くなら魔人が出現した瞬間が一番ってのが後から分かった結論ね。ラターシャの話だと、あ、このビルにいる妖精種のエルフの事ね。このままダンジョンが成長しきると完全にこの世界に定着してしまう可能性があるらしいわ」

「もしかしてそれが!?」

「そう、魔界の侵略の最終ステージ、まだ見ぬ未踏のレベルⅤって分けね。その結果どうなるのかまだ分からないけどれ、ラターシャの話だとレベルⅤの場所が増えていくと、この世界の魔力濃度がどんどん上がるそうでね、そうするとレベルⅢの発生がどんどん早くなる。レベルⅤの破壊方法が分かればいいのだけど、それが見つからない場合、現状の予測ではレベルⅤの場所が世界で十三ヵ所以上発生した場合、レベルⅢの氾濫がどの場所でも瞬時に起きるパンデミックが起きると予想されているの」

「――――それじゃ、中華国のダンジョンって早くなんとかしないとまずくないですか?」

「まずいわね。だから今は日本もそうだし、アメリカとかロシアとか各国合同で軍を派遣しダンジョンを破壊する計画が上がっているわ。まだごねてるみたいだけど流石にアメリカも痺れを切らしているから、多分もうすぐ動くと思う」


 今回の説明でアキトは段々分かってきた。つまり魔界が魔物などを使って人界を攻めてきたため、この世界の神とやらが人類に戦う力を与えた。それが異能。そして魔力は本来魔物が活動するために必要な力らしいが、それを妖精種の力によって人類も戦う力へと変えていったのが現状という事だ。


「よく妖精種の方々はこっちの世界にまで来て助けようと思いましたね」

「これはラターシャから聞いた話だけどね。恐らく人類が負けた場合は次は妖精界へ侵略を開始するわ。そのために人類に戦うすべを教え友好関係を築きつつ、戦う舞台を人界に留めて起きたかったのだと思うの聞いた話では妖精界ってこっちの人界と違って、惑星があるわけじゃないみたいなのよね」

「え? そうなんですか?」

「そう、世界樹っていうそれこそ大陸より大きな樹があって、そこに妖精種の人達は住んでるそうよ。あまり平面な場所もなくて敵が侵入してくるとかなりやっかいな状態になるみたいね。だから戦いやすいこっちの世界で勝負を決めたいらしいわ」

(つまり妖精界の思惑もあってこの世界を助けに来たって事か)


 何の意図もなしにただの善意だけで動く方が確かに違和感があるが、そういう思惑があるのなら確かに納得できるとアキトは考えた。


「でも人界と同じく妖精界も一緒に侵略されたら元も子もないんじゃないですか?」

「どうも平気みたいよ。なんでも人界に魔力を満たすという事にかなりに力を使ったみたいで、今の魔界は人界しか侵略出来ないようなの。同じようにこの世界の境界を強引に越えようとする力はそうそう溜まらないみたい。ちなみに、妖精種がこちらにこれたのはこの世界の神と精霊王が協力したからなんだって」




「そろそろいい時間ね。一応この世界の大きな異変は今話した通りよ。でも細かい所はまだまだ説明しきれていないわ。ここから先は対魔に入隊して十分な力になれるようにアキト君に訓練が用意されるわ。そこで戦闘技術、世界情勢なんかも学んでいく事になる。さっきも少し冗談っぽく言ったけど、私の”解析”は結構便利な異能だから何か気になる事とかあれば、気軽に連絡してね。ただし、私も研究でバタバタしてるからすぐ返事できないかもしれないけど、それはごめんなさい!」


 手のひらを合わせて謝るポーズをしている梓音に対し、アキトは恐縮するように首を横に振った。


「いえいえ! そんな事ありません。助けて頂いてありがとう御座いました!」

「ふふふ。さて、皐月隊長に連絡するから、向こうの話し合いも終わったら、十階に移動するわ。そこで神代代表と顔を合わせて今日は終わりね」

「分かりました」


そして五分後に皐月より連絡が入り、二人は十階へ移動を始めた。

 

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