第6話 アキトの異能
「さて、まずは報告を聞かせてもらおうか。皐月隊長」
対魔本部があるビル、ここ十階会議室に三名の人物がいる。皐月に報告を求めた老齢の人物。防衛大臣である綿谷慧という人物だ。この変質した世界になってから新しく防衛大臣に就任した綿谷だが、彼の活躍によって日本の被害が他国と比べ少ないといっても過言ではない。それはファンタジーとしか思えない異能、魔物、
「はっ。まず魔石研究所の梓音より対象の異能についての報告です。結論から申し上げますと、対象者玖珂アキトの異能は特級異能者を大きく超えている力を持っていると推測しております」
「ほう。特級を超えているのですか?」
皐月の報告に大きく興味を持ったのはまるで日本人形のように腰まで伸びた黒髪の女性。
神代
「はい。今までの特級異能力者と認定される条件である【投入されれば戦場を変えられる能力者】を
指しておりましたが、玖珂アキトはその能力を完全に使いこなせれば、梓音博士よりレベルⅢの戦場に投入すれば、
「一切破壊せず敵を殲滅出来る――と?」
「それは……驚きましたね」
「はい、ただし敵味方関係なし――という言葉が付きますが」
その皐月の報告を聞き二人は考え込んだ。どうすれば
国の利益にする方法を考えているのだ。
「続けます。梓音博士が過去に行った実験についての報告です」
そうして皐月は梓音から上がってきた報告書を読み上げた。アキトの能力を以前に解析していた梓音より、この能力は非常に危険なものだという事は判明していた。
それは過去。
魔物を捕獲し、ためにしアキトの住むアパートへ放り投げ、どのような反応を起こすのか実験を行った。その結果判明した事。
放り投げた魔物、ゴブリンはアキトのアパートへ接近後、空中で停止。そのまま3分程度経過してから梓音の”解析”をゴブリンに使用した所、
それは、あの停止空間に接触した生き物は心臓を含む内臓機器や血液の流れ、脳の活動も停止されるという事。その結果、脳に血液、酸素が回らず、また心臓も停止したため、死亡という事が分かった。この世界に魔物が登場してから既に各国で解剖が進められ、その内臓や器官にいたるまで通常の生き物と変わらないという事は既に判明している。
ただ一点、心臓に魔石が埋まっているという点だけ通常の生き物と異なっていた。それらを踏まえ、アキトの異能に全身が触れてしまった場合、生物の重要な内臓器官が停止するためすべての生物は死に至るという事が分かった。
「梓音博士より以後、玖珂アキトの異能を”
「四番隊隊長…………かの”
「この報告書から考えるに、異能の力、魔法、現代兵器それらを受け付けないまさに最強の守りという事ですか」
二人の返答に対し頷きさらに梓音からの予想された異能の更なる力について語った。
「先ほどまでの報告を踏まえ、この停止結界を展開するだけでは敵味方問わず殲滅してしまいますが、仮にこの結果を身体に纏うことであらゆる攻撃を防ぐ盾となり、また梓音博士が以前より出しておりました【万物魔力運動理論】から考えますと、単純に停止結界を用いて行う物理攻撃によりそれらを突破する事が出来ると予想されております」
「なに? それが本当なら単身の戦闘能力だけでも相当な物になるぞ」
皐月の報告に綿谷は目を見開き驚愕した。
「―――――【万物魔力運動理論】。梓音博士が定義したこの世すべての元素には魔力が付与され万物には熱と同じように魔力が運動を行っており、それによって以前に比べその強度も性能も上がっているという理論でしたね。なるほど、玖珂アキトの能力によって魔力の運動機能を停止させ物質の強度を下げられた場合、そこに仮に単純な肉体を用いた物理攻撃でさえも強力な兵器に変わるという事ですか」
「はい。これはテストしてみたいと分かりませんが、理論上は可能との事です」
「いいだろう。玖珂アキトの異能を使った能力についてはこちらでも検討する。それで、彼はどうなのだ?」
先ほどまでの皐月の報告を聞き、綿谷はそう尋ねた。彼にしては珍しい曖昧な発言で皐月はも少し驚いた様子だ。
「皐月隊長のことです。どうせ、軍に入るかなど選ばせたのでしょう? 結果を変えるつもりはありませんが、それについての報告をお願いします」
綿谷と神代の慧眼に驚きつつ、先ほどの道中についての報告を行った。
「玖珂アキトからは家族を捜索する事を条件に対魔への入隊を希望しております。状況について本人も理解を示しており、突拍子もない今の世界情勢に対しても懸命に把握しようとしております」
「家族か……陸自からの報告では彼の家族は既に死亡認定されていたと記憶しているが……」
そう綿谷は手元にあるタブレットか玖珂アキトに対す資料を確認する。そこには玖珂アキトの個人情報が記載されている。家族構成から出身地、友人関係、恋人の有無、学校での評価、学力テストの結果に至るまで、玖珂アキトという異常な異能者がいると判明した時点で軍を使いあらゆる方法で情報を手に入れた。
そしてそこには十数年前のレベルⅢによる魔物氾濫において父母ともに行方不明とされており今日まで見つかっていないため、死亡判定とされている。
「まぁ、確かに当時湘南を調べ魔物の規模などから判断し現状見つからないなら死亡されているとこちらでは判断しておりましたね。それをより詳細に調べて欲しいという事でしょうか」
神代の質問に対し皐月は肯定の意味をこめて頷いた。
「はい、本人も家族が既に亡くなっている可能性が非常に高いという事は理解しておりますが、それでも僅かでも可能性があるのならそれに縋りたいという事です」
「なるほど、問題ないだろう。その程度の労力で彼のような強大な力が国に仕えてくれるなら安いものだ」
「綿谷さん。家族の捜査は神代家でも請け負いましょう」
意外な申し出に綿谷は驚き神代の顔を見た。
「良いのか?」
「ええ。もちろん軍による捜索は続けてほしいですが、神代家の方では家の者にそれとハンターギルドに依頼も出しておきましょう。国からの要請よりこちらの名を使った方が協力的でしょうからね」
「そうか。ではそのようにしよう。皐月隊長も問題ないか?」
「はい、配慮頂き、感謝致します」
そうして皐月は二人に頭を下げた。
「それでは、後は任せる。私はこの後、総理と共に各国と
そういうと綿谷は鞄にタブレットなどをしまい椅子に掛けていたジャケットを着始めた。
「私はこの後、彼と面会予定なのです。そういえば彼は今何を?」
「はい、今は梓音博士と共に別室にて今の世界情勢についてより詳しい説明を受けております。早急に彼の異能を制御する必要があったため、最低限の情報しか入れていないのです」
そうして、皐月はポケットにしまっていた携帯端末を確認した。そこには梓音よりメッセージが来ている。
「ああ、ちょうど向こうも終わったようです。五分後にこちらに来るよう指示を出しておきます」
「分かりました。では綿谷さん、引き続きよろしくお願いしますね」
「そうだな。皐月隊長、後を頼んだよ」
そうして綿谷は会議室から退室したのだった。
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