受け継がれるモノ

@mizneko

釣り日和

ここはリンデ。穏やかな空気の流れる港町。

人も、猫も、のんびりと行き交っている。

町の北端の灯台は、今日も変わらず船を導いて。

名物、漁師のリスベルだろうか?潮風の匂いに紛れながらも、時折美味しそうな香りが漂ってくる。

町の東、短い桟橋に、アルド達はいた。

うららかな日差しの中、思い思いに釣り糸を垂らしている。




「あっ!…あぁ~~…また逃げられちゃった…」


急に引きのなくなった釣り糸を巻き取りながら、エイミは今日何度目かの溜め息をもらした。


「よそ見をしていると、あっという間に餌を獲られてしまうでござるな」


サイラスが、隣でケロケロと笑い声を響かせる。

エイミは、ぷぅ、と口を尖らせ、釣竿を傍らに置いた。ゆっくりと立ち上がると、両腕を空に向け、固まっていた体をぐぐぐと伸ばす。


「んん~~~!そういえば、そろそろお昼の時間じゃない?アルド!あたし、お腹空いちゃった!」

「ん?もうそんな時間か…」


エイミの声に、アルドはおもむろに腰をあげ、近くに置いてあった冷却箱を開く。

リィカもやってきて、一緒に箱を覗き込んだ。


「…とは言っても、釣れたのはリンデカマス2匹、か…」

「捌いてお昼にするには、少々物足りない大きさデスネ」

「しかし、腹が減っては戦ができぬ、というでござるからな」


引っ掛かったアキビンを針から外しながら、サイラスはまたケロケロと笑っている。


「戦って…」

「好戦的な魚も、よく釣れますノデ!戦トイウのも、あながち間違いではないと思われマス」

「うーん…まぁ、そう言われると……そうなのか?」


リィカはピカリと目を光らせ、再び仕掛けを投げ入れる。なんだか腑に落ちない、といった表情でアルドは冷却箱を閉じた。


「この釣果では、皆の腹を満たすことは難しいでござろうな。ひとまず、町で食べ物を調達してくるのはどうでござるか?」

「賛成っ!ね、アルドもリィカもいいでしょ?」


サイラスの提案に、片手を高く挙げ前のめりに同意するエイミ。その拍子に、ぐぅ、とお腹が返事をした。


「ははっ、そうだな。ご飯の話をしてたら、どんどんお腹が空いてきたよ」

「私も賛成デス」

「やった!あぁもうお腹ぺこぺこ!早く行きましょ、サイラス」


その場で足踏みを始め、すぐにでも走り出していきそうなエイミを見遣り、サイラスはゆっくりと立ち上がる。


「うむ。アルド殿、リィカ殿、こちらは頼んでもよいでござるか?」

「お任せクダサイ!お二人が戻ってくるマデに、アルドさんが大物を釣っておきます、ノデ!」

「オレが釣るのか!?」


さらっとリィカに丸投げされ、反射的に叫ぶアルド。驚きの表情が、徐々に苦笑いに変わっていく。


「まぁ…できるだけ、頑張るよ…」

「ふふっ、楽しみにしてるわよ!アルド」

「では行ってくるでござる」


駆け足で町に向かうエイミと、のんびり後を追うサイラス。2人にひらりと手を振って、アルドは腰を下ろした。



「…なんだか、一気に静かになったな…」


(うーん…任せろとは言ったものの……オレ、今日全くアタリがないんだよな…)


「ム…またアキビンが釣れマシタ。サカナの食い付きが悪くなってきたヨウデス……次は、この餌を……イヤ、先にコチラの方がいいでショウカ…」

「リィカは研究熱心だなぁ。オレのはうんともすんとも…言わないよ………あぁ……ふあぁ……」


真剣に餌を選ぶリィカの横で、アルドは大きな欠伸をひとつ。ゆっくりと瞬きを繰り返した。



(なんだか眠くなってきちゃったな…)




(そういえば前にもリィカとこうやって…)






(あのときは……)






温かな日差しと静けさに誘われ、うとうとし始めたアルド。風がそよりと髪を撫でていく。


微睡みの中で思い出したのは…

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