第4話
お前のいる、大きな檻の前に着いた。
お前は奥で、ぐっすりと眠っている。暗闇の中でも、大きく存在感のある寝息だ。
右手に持っている鍵を、檻の鍵穴に差し込む。恐怖で、少し手が震えている。鍵を回し、一度呼吸を整え、扉を開く。 錆びついた金属が擦れ合い、キキイッ、とけたたましい金切り音が響き渡る。
光る眼がこっちを見ている。
お前が起きた。
ゆっくり立ち上がっただけで、空気が、ピンッと張り詰める。
立派なたてがみを揺らしながら、落ち着いた様子で、一歩づつ、こっちに向かってきた。近づくにつれ、月明かりで、お前の姿が少しづつ見えてくる。獣ならではの、獲物を狩る鋭い眼光と、強靭な肉体からは「百獣の王」と言われる所以が、ありありと分かる。
私は不安と、恐れと、高揚感を落ち着かせて、檻の中に入る。
お前は、ピタッと立ち止まった。
お前は、吠えることもなく、悠然と、私を見つめている。
お前と共に過ごして、もう12年の月日が過ぎたな。
子供だったお前を育て、私の初舞台はお前と一緒に立ったな。
ぬいぐるみのように幼く、可愛らしかったお前が、どんどん逞しいオスになっていき、それを見る度に、私はただの女になっていった。
震える体を抑え、目を開き、覚悟を決めた。
私は逃げられないように、内側から鍵を掛けて、その鍵を勢いよく檻の外へ、投げ捨てた。
もう私は逃げられない。
私は、おもむろに、服を脱ぎ始めた。
洗練されたストリッパーのように、白いブラウスを首元のボタンから、お前が見逃さないよう、焦らず、ゆっくりと、一つ、一つ、外していく。
お前の鋭い目が、私を捉えて、離さない。
そして、私は、肉体を見せつけるかのように、ブラウスを脱いだ。ブラジャーは、つけていない。ミルクをかぶったように、真っ白な、肉体が、露わになる。
お前が、生唾を飲む音が、聞こえた気がした。
そして、白いレースのパンツも、惜しむことなく、脱ぎ捨てた。
今宵、満月の光は、眩しいくらいに明るく、まるで、月に覗かれているな気がして、興奮した。そして、月明かりに照らされた、私の体は、より一層、白さを増していた。
お前との訓練で、鍛えられた、完璧な造形美。まるで、私の人生を表しているかのように、人間味が無い、ミケランジェロの彫刻作品のような、裸体。
お前は興奮しているのか、鼻息荒くしながら、周囲をうろうろと歩き始めた。
あんなにも悠然としていたお前が、私に動揺している。それだけで、気持ちは昂ってくる。
どうだ、私を食べてしまいたいだろう?
私もだ。
私も、お前に食べられたいんだよ。
私を食べてくれ。
肉体が、
細胞が、
お前に食べられたいと叫んでいるんだ。
お前が喉を鳴らす。
その欲望のままに、私を引き裂いてくれ。
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