3-8
「あいつ来なかったな」
「そんなのわかってたじゃない」
「そうだけどさ」
タカシはカリカリのトーストをかじりながらカオルを目で追っている。カオルは少し眠そうな目をしながらも忙しそうに動いていた。
「今日は出かけるんだって」
「今から寝ちゃったら起きられないよね」
「目覚ましかけても」
「多分ムリ」
「それなら少し落ち着いたら」
「コーヒーでも飲んで」
「そうだね」
カオルはタカシの向かいにすわってコーヒーを飲みはじめた。
「少し濃い目に作ったんだ」
「ありがとう。目が覚める」
カオルはマグカップをテーブルに置くと、目玉焼きの黄身をフォークでつぶす。
「やっぱりケチャップかな」
「オレは醤油だけど」
「パンでも」
「そうだよ。バターと醤油は相性がいいし」
「あいつなら」
「ウスター。絶対ウスター」そう言ってカオルが笑う。
「二人きりじゃイヤなんだって」
「子どもたちも一緒なんだろう」
「そうなんだけど」
「マスターうれしそうだったよね。男の子はマスターにずっとくっついたままで」
「あの子、最初はお母さんにしがみついて離れなかったって、ユキさんが言ってた」
「そういえば、別れた相手が子どもに会うときって、もう片方は一緒じゃないよね」
「フツーはね」
「だからお前が呼ばれたの」
「そうなのかなあ。あたし邪魔にならなければいいけど」
「それでどこに行くの」
「動物園」
「あの子たち行ったことがないんだって」
「ギターはどうしたの」コンビニに来たカスミにヒロがきく。
「サブおじさんの民宿に置いてきた」
「本当にあれでよかったのかな」
「今さらなあに」
カスミは微笑みながらヒロの顔をのぞく。
「エミさん怒ってなかった」
「子どもたちの顔を見たら怒れないよ」
「それに何となく予感してたみたいだし」
「神田さん」
「そうあの人たちがここに来た時から。神田さんの結婚式がきっかけみたいだから」
「同じ道は進めないんだろうけど」
「そうだよね」
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